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第一章

不可能を可能にするには。

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    「諦めろ」

    その日、審査が終わった後の夕飯の席で一言、彼は言った。
    「どんなにこの星の環境を整え街を造り続けたところで、お前に住人を手配する術は無いだろう?    次の課題は住人を、一人でも二人でも用意すれば良いらしいが、お前には無理だろう?    だから、諦めろ」

    「……って。言われて諦められる位ならこんなに必死に足掻いてねぇっつの!」
    ……その場で「ふざけんじゃねぇ!」って胸ぐら掴んで揺さぶってやったけど。暖簾に腕押しで、のらりくらりと逃げ回られている。

     街は、あれからも着々増えている。
     小惑星、とはいえせいぜい月と大して変わらないサイズの星だ。地球の約四分の一。
     元々砂と岩しかない星だから、森を切り開いたり、野性動物の生態系に配慮したりなんて手間も要らないし、海や川も最初から治水ありきで都合の良いように作れば良いし。
    無人の星だから、土地の権利とか煩く言う面倒な団体も、断固として立ち退かない迷惑なお宅も無い。

    資材が100%私の持ち出しな事を除けばこんな楽な仕事は無かった。
     これまでに培った知識やノウハウを制限なく生かしきれるのも楽しいし、このペースなら、次の期限までに星の大半の開拓は終わるだろう。
    だけど、どんなに一人で頑張っても無意味だと分かってもいた。

    なのに、いくら話し合おうとしても逃げられる。

    魔法で出した水で水場を造り、水道も引いた。
    その水で水力発電、電気も通した。
    火魔法で熱した湯を引いて、暖房設備とハウス栽培可能な農場や畜舎も用意した。

    本当に、あとはヒトを始めとした生き物が居れば街は稼働する所まで完成した。

    だけど、こんなのは初めてだった。
    どこの世界にもムカつく奴は居たし、邪魔する奴も居たけど、それ以上に手助けしてくれる仲間がいた。
    他に誰も居ない。
    初めて異世界に降り立った場所が人の居ない森や山の中だった事はあったけど、それでもある程度歩けば人里に辿り着けた。

    だけど、過去のスキルが戻った今でも、流石に生身のまま宇宙遊泳は……無理だ。

    私がコンタクトをとれるのはあの男だけで、他へのコンタクトは買い物だろうが何だろうがあの男を通さなくては何も出来ない。

    ……このまま、あの男と心中なんて冗談じゃなかった。
    ここへあのクソ神に放り込まれた日、あの男を脅した剣のオブジェはとうに片付けられて無いけれど、私にはかつて集めた武器がある。
    魔王やらそれに準ずる存在と戦うために使った最終武器が、これまで巡った世界の数だけある。

   「いざ、尋常に勝負――!」
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