ローズガーデン

彩世幻夜

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第五章

その頃公爵家では②

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 この短期間にこの距離を往復する事になってしまった公爵家の哀れな使用人は、ついに自分の目が疲れからおかしくなったのかと、その光景を思わず二度見してしまった。

 「……無い」
 いや、あるにはあるのだ。
 建物だけはそっくりそのままの姿でそこにあった。

 しかし中身が違う。
 いや、カフェなのは変わらないが、違う。

 バラ専門店だったはずが、普通に何処にでもあるカフェになり変わっていた。


 訳が分からない使用人は、近くの道行く人を呼び止め尋ねてみた。

 「なぁ、すまんが……この店、前はバラ専門店じゃなかったか? 何処かに移転したのか?」
 「ああ、店は閉店したよ」

 その答えに、やはりお嬢様の道楽じゃ長くは持たなかったのか、と勝手に納得する使用人は、続いた言葉にこそ驚いた。

 「なにせ店主が王から爵位をいただいたんだからな! そりゃ男爵様がこんな街で店番なんてする訳にはいかないだろうさ!」

 「……?」

 初めは今度は耳が不調なのかと思ったくらい、それはあり得ない情報だった。しかし聞き返しても同じ答えが返ってきた。

 この男が何かガセネタでも掴まされたに違いないと、他でも聞き込みをしてみたが、誰も彼もが彼女が男爵になったのだと返す。

 こうなると、本当の事だと認めない訳にはいかなくなった。

 ただ、どこで何をしているかと言う問いには、尾ひれハヒレついたうわさ話しか出て来ず、はっきりしなかった。

 「店で売ってた商品は、その辺の雑貨屋で買えるようになったんだ」

 確かに商品は売っていた。

 「これ以上は私では判断がつかん」

 怒られる事を覚悟で、彼は一度帰還し新たな指示を仰ぐことにした。
 彼の不運は、まだまだ続くらしい。

 「ルイカ、アルトリートに報告しに行くよ」
 「うん、了解!」

 ローゼリアの現状についてのデタラメな噂を流して回り、男の動きをいち早く察知し監視していたシルフの翼。

 それを聞いたアルトリートを筆頭に、即座にシルフェスタ国が動くなんて思いもよらない使用人は、疲れた顔で帰途についたのだった。
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