48 / 70
第五章
その頃公爵家では②
しおりを挟む
この短期間にこの距離を往復する事になってしまった公爵家の哀れな使用人は、ついに自分の目が疲れからおかしくなったのかと、その光景を思わず二度見してしまった。
「……無い」
いや、あるにはあるのだ。
建物だけはそっくりそのままの姿でそこにあった。
しかし中身が違う。
いや、カフェなのは変わらないが、違う。
バラ専門店だったはずが、普通に何処にでもあるカフェになり変わっていた。
訳が分からない使用人は、近くの道行く人を呼び止め尋ねてみた。
「なぁ、すまんが……この店、前はバラ専門店じゃなかったか? 何処かに移転したのか?」
「ああ、店は閉店したよ」
その答えに、やはりお嬢様の道楽じゃ長くは持たなかったのか、と勝手に納得する使用人は、続いた言葉にこそ驚いた。
「なにせ店主が王から爵位をいただいたんだからな! そりゃ男爵様がこんな街で店番なんてする訳にはいかないだろうさ!」
「……?」
初めは今度は耳が不調なのかと思ったくらい、それはあり得ない情報だった。しかし聞き返しても同じ答えが返ってきた。
この男が何かガセネタでも掴まされたに違いないと、他でも聞き込みをしてみたが、誰も彼もが彼女が男爵になったのだと返す。
こうなると、本当の事だと認めない訳にはいかなくなった。
ただ、どこで何をしているかと言う問いには、尾ひれハヒレついたうわさ話しか出て来ず、はっきりしなかった。
「店で売ってた商品は、その辺の雑貨屋で買えるようになったんだ」
確かに商品は売っていた。
「これ以上は私では判断がつかん」
怒られる事を覚悟で、彼は一度帰還し新たな指示を仰ぐことにした。
彼の不運は、まだまだ続くらしい。
「ルイカ、アルトリートに報告しに行くよ」
「うん、了解!」
ローゼリアの現状についてのデタラメな噂を流して回り、男の動きをいち早く察知し監視していたシルフの翼。
それを聞いたアルトリートを筆頭に、即座にシルフェスタ国が動くなんて思いもよらない使用人は、疲れた顔で帰途についたのだった。
「……無い」
いや、あるにはあるのだ。
建物だけはそっくりそのままの姿でそこにあった。
しかし中身が違う。
いや、カフェなのは変わらないが、違う。
バラ専門店だったはずが、普通に何処にでもあるカフェになり変わっていた。
訳が分からない使用人は、近くの道行く人を呼び止め尋ねてみた。
「なぁ、すまんが……この店、前はバラ専門店じゃなかったか? 何処かに移転したのか?」
「ああ、店は閉店したよ」
その答えに、やはりお嬢様の道楽じゃ長くは持たなかったのか、と勝手に納得する使用人は、続いた言葉にこそ驚いた。
「なにせ店主が王から爵位をいただいたんだからな! そりゃ男爵様がこんな街で店番なんてする訳にはいかないだろうさ!」
「……?」
初めは今度は耳が不調なのかと思ったくらい、それはあり得ない情報だった。しかし聞き返しても同じ答えが返ってきた。
この男が何かガセネタでも掴まされたに違いないと、他でも聞き込みをしてみたが、誰も彼もが彼女が男爵になったのだと返す。
こうなると、本当の事だと認めない訳にはいかなくなった。
ただ、どこで何をしているかと言う問いには、尾ひれハヒレついたうわさ話しか出て来ず、はっきりしなかった。
「店で売ってた商品は、その辺の雑貨屋で買えるようになったんだ」
確かに商品は売っていた。
「これ以上は私では判断がつかん」
怒られる事を覚悟で、彼は一度帰還し新たな指示を仰ぐことにした。
彼の不運は、まだまだ続くらしい。
「ルイカ、アルトリートに報告しに行くよ」
「うん、了解!」
ローゼリアの現状についてのデタラメな噂を流して回り、男の動きをいち早く察知し監視していたシルフの翼。
それを聞いたアルトリートを筆頭に、即座にシルフェスタ国が動くなんて思いもよらない使用人は、疲れた顔で帰途についたのだった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる