ローズガーデン

第一章

スキップ機能はありませんの？

　「ローゼリア＝クライン、本日を以てお前との婚約を破棄する！」

　……ごめんあそばせ。
　ふふふ、皆さんもう見飽きたと思われる冒頭で申し訳ございませんわ。

　ここは貴族の通う高等学校、そして本日は卒業パーティーですの。

　そして私を睨み指差して喚いているのは、今はまだ私の婚約者と言う事になっている、このリングパーク王国の王太子殿下、ハイド様ですわ。
　……勿論正式名称はもっと長いのですけど、どうやらもうじき縁が切れそうなので、皆様に覚えて頂く必要は御座いませんわ。

　むしろ……こんなありきたりな乙女ゲームのラストシーン、スキップ出来る仕様とかありませんの？

　……ええ、そう、ここは乙女ゲームの世界なのですわ。
　そして私は前世の記憶を持って生まれた悪役令嬢……ですが、前世の記憶といっても、かつて私が生きた日本で常識とされる知識とこの乙女ゲームの内容の記憶以外は一切引き継ぎませんでしたの。
　ですから前世の私がどういう人間だったのかは全く不明……ですの。

　片やヒロインの男爵令嬢、ユリカ＝デルパンス様は日本の常識については学生程度の拙い物しか持っていないようですが、前世の記憶は全て受け継いでいるようです。

　いわゆる逆ハーを目指したものの、ここはゲームではなく現実世界です。
　幸い王太子の側近として集められた優秀な方々はあの愚かな娘の振る舞いを叱り、王太子を諭したのですが……。

　このタイミングで今城には隣国の第三王子がこの国の姫と見合いをする為いらしていて、王様も王妃様も、私の実家の公爵家の者もそちらにかかりっきり。

　その隙をついてのこの愚行。

　婚約破棄？
　むしろありがとうございますと、お礼を言いたいですね。
　この王太子、王妃様に子が生まれなかったが故、多くの側室の子の中から私という婚約者が居たから王太子でいられたのに。

　何度説明しても右の耳から左の耳へ抜けていく方なので。
　私も婚約者である限りは、と、嫌々ながら努力して参りましたが、そちらから要らないとおっしゃって下さるなら、喜んでそんなもの放り出しますわ。

　……そんな事を私が考えている間にも、王太子バカは、これまでの浮気相手を堂々と紹介し、私が彼女をいじめたと、ありもしない罪をでっち上げ、証拠とも言えぬ証拠を見せびらかしている。

　ここには隣国の賓客をもてなす役を負った貴族こそ居ませんが、それ以外の生徒の親は居るんですのよ？
　ほら、あの呆れた顔！

　それにも気付かず、王太子は得意満面で私に行った。

　「お前は国外追放とする！　連れて行け！」