上 下
155 / 192
ざまぁのその後

16-5 お手紙貰いました

しおりを挟む
    〝――ご無沙汰しておりますわ。ふふふ、聞きましたわよ!    お式の日取りが正式に決まったそうですわね。聖女としてのデビュー戦も正式な日時こそ未定ながら、大枠は決まったそうで。……こちらも忙しくも充実した日々を送っておりますけれど、お式にはケントと二人で、聖女のお仕事にはケントが参加致しますからよろしくお願い致しますわね?〟
    「ははは、マリーは凄いな。いつでもどこでもポジティブでパワフルで……」
    私は、久しぶりに見る彼女の筆跡による手紙をベッドの中で読んでいた。
    「こっちはケントのか」
    その枕元でイマルがもう一通の封筒を手に取る。
    綺麗な封蝋で閉じられた封筒は貴族仕様の物。そしてそこ封蝋に刻印されている紋章はマリーが継いだ伯爵家の物。
    ……やはりケントは故郷に帰ることなくマリーの屋敷に居るらしい。
    ――もしかしたら一時的な帰郷はあったかもしれないけど、それを知る術は……この封筒の中身に記載がなければ分からない。イマルが影とかに調べさせて知ってる可能性はあるけど、彼に尋ねてまで詮索するってのもどうかと思うし。
    それよりなにより。
    「それにしても……ここまでとはね」
    そんな気力、今はないし。
    例の魔法薬を飲まされたのは昨日の夜、寝る前だった。……飲んですぐは何ともなく。――だからちょっと油断してたんだ。
    念のため、って私の寝室に居座ろうとするイマルに退室して貰おうとあの手この手で説得を試みるくらいには。
    けど、どれくらいそうしていただろう。ベッドの上に居るくせに、何だか急に体がだるく重く感じるくらいの疲労感に襲われて、座っているのすら辛くなって横にならざるを得なくなって。
    ベッドに寝ているくせに、頭がぐわんぐわんとかき回されるような、世界が回っているような……そんな酷い目眩がして、王国を出る為に乗った船のベッドに居た時のようにベッドごと揺れているような体感がある。……ここがイマルの屋敷で、しっかり大地の上であると分かっているのに。
    どこも痛くないし、吐き気もないけど、とにかく動けない。……のに、だ。
    何故か心臓だけがやたら元気に働いて……ってか働き過ぎってくらいに鼓動を速め、気分を無駄に高揚させる。
    こうしてじっとしているのが辛くなるような興奮。アドレナリンが不必要に全身を巡る。
    そんな私にマリーの手紙を暇潰しの材料として出してきたのは勿論イマルだ。
    今、ケントの手紙を私に見せびらかしてる様に。
    「そりゃそうだ。俺の求愛の時の不調は単に興奮剤の過剰摂取ってだけの事だが、これは人間という種族の限界を越える肉体改造をする無茶の代償なんだ。……むしろ、先に一度薄めた薬で慣らした上に求愛も済んでる分、普通よりかは楽なんだぞそれでも」
    イマルが顔をしかめて言う。
   「俺の時のは……目の前で魔法薬の作成を見学させられた上で……本当に思い出したくもない悪夢みたいなやり方で飲まされたからな」
   ……飲まされ方って……以前前侯爵を変態呼ばわりしてたし、確かに敢えて想像したくはないけど、それより気になる事がある。
   「待って。あの魔法薬って……」
   「聞くな。世の中には知らない方が幸せな事もあるんだよ」
    ……何とも不安な返答だけど。
   私にはイマルの忠告を無視する蛮勇の実行は……断念せざるを得なくて。
    その日一日ベッドの住人として過ごしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど
ファンタジー
1プレイヤーとして、普通にVRMMOを楽しんでいたラミエル。 魔王討伐を目標に掲げ、日々仲間たちと頑張ってきた訳だが、突然パーティー追放を言い渡される。 当然ラミエルは反発するものの、リーダーの勇者カインによって半ば強制的に追い出されてしまった。 ────お前はもう要らないんだよ!と。 ラミエルは失意のドン底に落ち、現状を嘆くが……『虐殺の紅月』というパーティーに勧誘されて? 最初こそ、PK集団として有名だった『虐殺の紅月』を警戒するものの、あっという間に打ち解けた。 そんなある日、謎のハッカー集団『箱庭』によりゲーム世界に閉じ込められて!? ゲーム世界での死が、現実世界での死に直結するデスゲームを強いられた! 大混乱に陥るものの、ラミエルは仲間達と共にゲーム攻略へ挑む! だが、PK集団ということで周りに罵られたり、元パーティーメンバーと一悶着あったり、勇者カインに『戻ってこい!』と言われたり……で、大忙し! 果たして、ラミエルは無事現実へ戻れるのか!? そして、PK集団は皆の英雄になれるのか!? 最低で最高のPK集団が送る、ゲーム攻略奮闘記!ここに爆誕! ※小説家になろう様にも掲載中

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

俺は不調でパーティを追放されたがそれは美しい戯神様の仕業!?救いを求めて自称美少女な遊神様と大陸中を旅したら実は全て神界で配信されていた件

蒼井星空
ファンタジー
神の世界で高位神たちは配信企画で盛り上がっています。そんな中でとある企画が動き出しました。 戯神が尻もちをついたら不運な人間に影響を与えて不調にしてしまい、それを心配した遊神が降臨してその人間と一緒に戯神のところへ向かうべく世界を巡る旅をする、という企画です。 しかし、不運な魔法剣士であるアナトは満足に動けなくなり司令塔を務めるパーティーから強引に追放されてしまいます。 それでもアナトは遊神との旅の中で、遊神に振り回されたり、罠にはまったり、逆に遊神を文字通り振り回したり、たまにちょっとエッチなことをしたりして、配信の視聴者である神々を爆笑の渦に巻き込みます。 一方でアナトを追放したパーティーは上手くダンジョン探索ができなくなり、様々な不幸に見舞われてしまい、ついにはギルドから追放され、破滅してしまいます。 これは、不運な魔法剣士アナトが神界を目指す旅の中で成長し、配信されたご褒美の投げアイテムによって最強になり、自称美少女女神の遊神やとても美しい戯神たちとラブコメを繰り広げてしまう物語です。 ※なおアナトは配信されていることを知りませんので、ご注意ください。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

処理中です...