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ざまぁのその後
16-5 お手紙貰いました
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〝――ご無沙汰しておりますわ。ふふふ、聞きましたわよ! お式の日取りが正式に決まったそうですわね。聖女としてのデビュー戦も正式な日時こそ未定ながら、大枠は決まったそうで。……こちらも忙しくも充実した日々を送っておりますけれど、お式にはケントと二人で、聖女のお仕事にはケントが参加致しますからよろしくお願い致しますわね?〟
「ははは、マリーは凄いな。いつでもどこでもポジティブでパワフルで……」
私は、久しぶりに見る彼女の筆跡による手紙をベッドの中で読んでいた。
「こっちはケントのか」
その枕元でイマルがもう一通の封筒を手に取る。
綺麗な封蝋で閉じられた封筒は貴族仕様の物。そしてそこ封蝋に刻印されている紋章はマリーが継いだ伯爵家の物。
……やはりケントは故郷に帰ることなくマリーの屋敷に居るらしい。
――もしかしたら一時的な帰郷はあったかもしれないけど、それを知る術は……この封筒の中身に記載がなければ分からない。イマルが影とかに調べさせて知ってる可能性はあるけど、彼に尋ねてまで詮索するってのもどうかと思うし。
それよりなにより。
「それにしても……ここまでとはね」
そんな気力、今はないし。
例の魔法薬を飲まされたのは昨日の夜、寝る前だった。……飲んですぐは何ともなく。――だからちょっと油断してたんだ。
念のため、って私の寝室に居座ろうとするイマルに退室して貰おうとあの手この手で説得を試みるくらいには。
けど、どれくらいそうしていただろう。ベッドの上に居るくせに、何だか急に体がだるく重く感じるくらいの疲労感に襲われて、座っているのすら辛くなって横にならざるを得なくなって。
ベッドに寝ているくせに、頭がぐわんぐわんとかき回されるような、世界が回っているような……そんな酷い目眩がして、王国を出る為に乗った船のベッドに居た時のようにベッドごと揺れているような体感がある。……ここがイマルの屋敷で、しっかり大地の上であると分かっているのに。
どこも痛くないし、吐き気もないけど、とにかく動けない。……のに、だ。
何故か心臓だけがやたら元気に働いて……ってか働き過ぎってくらいに鼓動を速め、気分を無駄に高揚させる。
こうしてじっとしているのが辛くなるような興奮。アドレナリンが不必要に全身を巡る。
そんな私にマリーの手紙を暇潰しの材料として出してきたのは勿論イマルだ。
今、ケントの手紙を私に見せびらかしてる様に。
「そりゃそうだ。俺の求愛の時の不調は単に興奮剤の過剰摂取ってだけの事だが、これは人間という種族の限界を越える肉体改造をする無茶の代償なんだ。……むしろ、先に一度薄めた薬で慣らした上に求愛も済んでる分、普通よりかは楽なんだぞそれでも」
イマルが顔をしかめて言う。
「俺の時のは……目の前で魔法薬の作成を見学させられた上で……本当に思い出したくもない悪夢みたいなやり方で飲まされたからな」
……飲まされ方って……以前前侯爵を変態呼ばわりしてたし、確かに敢えて想像したくはないけど、それより気になる事がある。
「待って。あの魔法薬って……」
「聞くな。世の中には知らない方が幸せな事もあるんだよ」
……何とも不安な返答だけど。
私にはイマルの忠告を無視する蛮勇の実行は……断念せざるを得なくて。
その日一日ベッドの住人として過ごしたのだった。
「ははは、マリーは凄いな。いつでもどこでもポジティブでパワフルで……」
私は、久しぶりに見る彼女の筆跡による手紙をベッドの中で読んでいた。
「こっちはケントのか」
その枕元でイマルがもう一通の封筒を手に取る。
綺麗な封蝋で閉じられた封筒は貴族仕様の物。そしてそこ封蝋に刻印されている紋章はマリーが継いだ伯爵家の物。
……やはりケントは故郷に帰ることなくマリーの屋敷に居るらしい。
――もしかしたら一時的な帰郷はあったかもしれないけど、それを知る術は……この封筒の中身に記載がなければ分からない。イマルが影とかに調べさせて知ってる可能性はあるけど、彼に尋ねてまで詮索するってのもどうかと思うし。
それよりなにより。
「それにしても……ここまでとはね」
そんな気力、今はないし。
例の魔法薬を飲まされたのは昨日の夜、寝る前だった。……飲んですぐは何ともなく。――だからちょっと油断してたんだ。
念のため、って私の寝室に居座ろうとするイマルに退室して貰おうとあの手この手で説得を試みるくらいには。
けど、どれくらいそうしていただろう。ベッドの上に居るくせに、何だか急に体がだるく重く感じるくらいの疲労感に襲われて、座っているのすら辛くなって横にならざるを得なくなって。
ベッドに寝ているくせに、頭がぐわんぐわんとかき回されるような、世界が回っているような……そんな酷い目眩がして、王国を出る為に乗った船のベッドに居た時のようにベッドごと揺れているような体感がある。……ここがイマルの屋敷で、しっかり大地の上であると分かっているのに。
どこも痛くないし、吐き気もないけど、とにかく動けない。……のに、だ。
何故か心臓だけがやたら元気に働いて……ってか働き過ぎってくらいに鼓動を速め、気分を無駄に高揚させる。
こうしてじっとしているのが辛くなるような興奮。アドレナリンが不必要に全身を巡る。
そんな私にマリーの手紙を暇潰しの材料として出してきたのは勿論イマルだ。
今、ケントの手紙を私に見せびらかしてる様に。
「そりゃそうだ。俺の求愛の時の不調は単に興奮剤の過剰摂取ってだけの事だが、これは人間という種族の限界を越える肉体改造をする無茶の代償なんだ。……むしろ、先に一度薄めた薬で慣らした上に求愛も済んでる分、普通よりかは楽なんだぞそれでも」
イマルが顔をしかめて言う。
「俺の時のは……目の前で魔法薬の作成を見学させられた上で……本当に思い出したくもない悪夢みたいなやり方で飲まされたからな」
……飲まされ方って……以前前侯爵を変態呼ばわりしてたし、確かに敢えて想像したくはないけど、それより気になる事がある。
「待って。あの魔法薬って……」
「聞くな。世の中には知らない方が幸せな事もあるんだよ」
……何とも不安な返答だけど。
私にはイマルの忠告を無視する蛮勇の実行は……断念せざるを得なくて。
その日一日ベッドの住人として過ごしたのだった。
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