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断罪

14-1 断罪 - 兵士 -

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    ……痛い。
    何が痛いって、マリーやケント、果ては魔王陛下から向けられるにやけ気味な視線がとても痛い。
    今日、それも正に今から今回の戦の――私にしてみれば全ての決着を最終決議するための会議が始まるところだというのに。
    マリーにはあれほど何もしていないと必死に訴えたのに……。何で彼女までまだケント君達と同じ様な表情でこちらを見てるの……。
    今、私たちは整え直された謁見の間に居る。
    ヘルナイト王国、その玉座に今腰を掛けているのは魔王陛下。……でもね王様、そろそろそのニヤニヤ顔止めないと色々台無しです。
    そしてその玉座の左右に各国の代表者が座る椅子が並び、私達は何故か玉座のすぐ前、一段低いだけの場所に椅子を用意されていた。
    私たちの正面にはヘルナイト王と側近、貴族達。流石に神官と魔術師、騎士や兵士は代表者だけの様だけど……その彼らが後ろ手に縛られたまま床に直に膝をついて座らされている。
    その彼らのた後ろにはきっちり武装した衛兵が。
    うん。お白州でこそないけれど、お約束の様な断罪の舞台が整ってる、ね。
    舞台と、そこで踊る役者が揃えば部屋の扉が閉じられ、断罪劇の幕が上がる。
    ――王様は……うん、流石と言うか……一瞬で表情を厳しいものに変えた。
   「それではこれより簡単な審問の後、それぞれに正式な処分を言い渡す。既に昨日に詳細な聞き取りをしている筈ゆえ、本日のこれは皆に聞かせるためだけのものと心得て簡単に意見を述べよ。この場で見苦しく足掻くようなら更なる罪状が課されるものと思え」
    悔しげに睨み付けてくる王や側近と、疲れきった様な騎士と兵士達。怯えきった神官と魔術師は……私たちの性だろうな、あれは。……そういう意味ではあれだけやっても、まだ心折れず睨み付けてくる王達は不屈の精神をお持ちのようだ。
    貴族達の反応は……半々、か。
    そして勇者達は項垂れ、唯一拘束されていない聖女は椅子に座らされている。
    まだチラチラとこちらに期待するような目を向けてくるけど、意識的に無視を決め込む。
    「では、審問を開始する」
     王が宣言すると、早速衛兵が動いてまずは最後列に並ぶ兵士を立たせた。
   「まずは名乗るがよい」
   「……おいらは、ついこの間まで山あいの村でベコさ飼って暮らしてた者だ。けど、国のお役人に戦争へ行けと連れてこられて、何が何だか分からんうちに武器を握らされて……。何も考えられないうちに戦場に居てら気がついたら捕虜になっとって……。もう、とにかく恐ろしくて恐ろしくて……!」
    青ざめた顔で涙を流して震える男の姿は……恐れるにしても憤るにしても自分の事しか考えられない者達ばかりの中で際立って異様だった。
    「この彼を始め、民より強制的に集められた兵達の大半に魔薬の使用が認められた」
    王がその証言の後に付け加えた情報に、各国の厳しい目がヘルナイト王達に一斉に向いた。
    「……魔薬、って確か――」
    それは、ネフシールで初めて受けた薬師の講習の中で聞いたことのある、禁忌の薬。服用者にとっては百害あって一理無しの薬だけど、他人に飲ませて使うなら……意志薄弱状態にして暗示をかけやすくなり、好きに扱える人形の様に出来てしまうような、そんな禁断の薬。勿論、作成も所持も使用も厳しく禁じられている。
    「国の命令に無理やり従わされ、禁忌の薬まで投与された上に使い捨ての駒とされたそなたらは、我ら連合軍の兵士達を傷つけた――が、情状酌量の余地は有りすぎる程であろう。薬の投与を受けた者は、治療の間は強制的に収容施設に入所してもらうが、治療が終わり次第順次故郷へ帰すこととする」
    ……うん。彼らは間違いなく被害者だ。むしろ見舞金くらい国が出すべきなんだろうど、そこは敗戦国の兵士だったから……賠償金の一部と相殺された。
    「――では、次の者」
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