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ざまぁの前哨戦
11-12 求愛
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王様は視線でイマルに場の用意を命じ、応接用のソファーに腰を落ち着けた。
イマルは渋々人数分のお茶を淹れ始める。
そのやり取りを珍しそうに眺めながら、席を勧められたケントとマリーはその対面に座る。
……たちまち王様の隣の席しか空きが無くなった。
「……お前はこちらへ来い」
私達の分のお茶だけお盆に乗せて、イマルは続きの間へ私だけを連れて入った。
あの日、ご飯を食べるのに使った席へ座るように促される。
「いいの?」
「ああ。むしろあの場で一緒に聞こうとしてたら何を言われたか……。真面目な説明の代わりに過去の黒歴史暴露大会に急遽変更になったかもしれん」
「なにそれ、面白そ……。いや、げふん。ごめんなさい、続けて下さい」
「はぁ。……まあいい、俺が元人間の吸血鬼って話はもう知っているな?」
「ええ、ここでご飯食べた日に聞きましたから。その時に陛下が仰っていた台詞も覚えていますよ。求愛って、つまりそう言う事でしょう?」
「……気付いていた割には動じていないな?」
「まあ、そんな急かされる様な事とは知りませんでしたけど、先に聞いてましたから。今回の話を受けた時点である程度覚悟はしてましたし、ね」
一口お茶を啜る。うん、美味しい。
「言っときますけど、昨日騒いでた連中に無理やり襲われるかも、って話の方には動揺してるんですよ?」
納得いかない顔をしているイマル。
「だって、私は魔法だってお伽噺でしかない世界から来たんだもの。最初はゴブリンから討伐証明部位を切り取るのですら怖がってたの、覚えてるでしょう?」
「……ああ。だからこそ解せないんだが?」
「私の世界は、魔法が無い代わりに学問の発展が進み、医療技術も高かったんです。その中に、血を採って検査したり、人に血を分ける為に採血した血を保存する技術なんてのもありましてね。……つまり、血を採られる事に対する忌避感はそんなには無いんですよ。でも、流石に噛みつかれるってのは……。飼い猫に引っ掛かれる位ならともかく、猛獣に襲われたら……ねぇ? それに目的が血を吸うことだとしても、見知らぬ大の大人の男に襲われるのは普通にイヤです」
「……はぁ。色々考えて落ち着いてからと思っていたんだがな。だったらとっとと済ませるぞ」
くいっと一気にカップを傾けお茶を飲み干したイマルは私を連れて更に奥――寝室の扉を開けた。
「……それは良いんですけど。血を吸われたら私、吸血鬼になっちゃったりとかは――」
「求愛の段階ならそれはない」
パタン、と寝室の扉が閉まる。
「吸血鬼の求愛はな、目立つところに牙の痕を残してコレは自分のモノだと主張する為のものだ」
ヒトのモノに手を出すのは美しくない。
そう言われる場所だから、王はイマルに急げと言ったのだ。うかうか他にその印を付けられてしまう前に、と。
「だから、お前には別段変化などはない」
私はいつの間にかイマルに後ろから抱き竦められていて。
予告もなしに、不意打ちで首筋に噛みつかれた。
戸惑う暇も無く、深々と埋まる牙の存在が何故か痛みではなく心地良さを主張している事に気付く頃にはスルッと傷口から牙が抜かれ、彼の腕の中からも解放されていた。
直後。息を荒げたイマルがベッドに倒れこんだ。
イマルは渋々人数分のお茶を淹れ始める。
そのやり取りを珍しそうに眺めながら、席を勧められたケントとマリーはその対面に座る。
……たちまち王様の隣の席しか空きが無くなった。
「……お前はこちらへ来い」
私達の分のお茶だけお盆に乗せて、イマルは続きの間へ私だけを連れて入った。
あの日、ご飯を食べるのに使った席へ座るように促される。
「いいの?」
「ああ。むしろあの場で一緒に聞こうとしてたら何を言われたか……。真面目な説明の代わりに過去の黒歴史暴露大会に急遽変更になったかもしれん」
「なにそれ、面白そ……。いや、げふん。ごめんなさい、続けて下さい」
「はぁ。……まあいい、俺が元人間の吸血鬼って話はもう知っているな?」
「ええ、ここでご飯食べた日に聞きましたから。その時に陛下が仰っていた台詞も覚えていますよ。求愛って、つまりそう言う事でしょう?」
「……気付いていた割には動じていないな?」
「まあ、そんな急かされる様な事とは知りませんでしたけど、先に聞いてましたから。今回の話を受けた時点である程度覚悟はしてましたし、ね」
一口お茶を啜る。うん、美味しい。
「言っときますけど、昨日騒いでた連中に無理やり襲われるかも、って話の方には動揺してるんですよ?」
納得いかない顔をしているイマル。
「だって、私は魔法だってお伽噺でしかない世界から来たんだもの。最初はゴブリンから討伐証明部位を切り取るのですら怖がってたの、覚えてるでしょう?」
「……ああ。だからこそ解せないんだが?」
「私の世界は、魔法が無い代わりに学問の発展が進み、医療技術も高かったんです。その中に、血を採って検査したり、人に血を分ける為に採血した血を保存する技術なんてのもありましてね。……つまり、血を採られる事に対する忌避感はそんなには無いんですよ。でも、流石に噛みつかれるってのは……。飼い猫に引っ掛かれる位ならともかく、猛獣に襲われたら……ねぇ? それに目的が血を吸うことだとしても、見知らぬ大の大人の男に襲われるのは普通にイヤです」
「……はぁ。色々考えて落ち着いてからと思っていたんだがな。だったらとっとと済ませるぞ」
くいっと一気にカップを傾けお茶を飲み干したイマルは私を連れて更に奥――寝室の扉を開けた。
「……それは良いんですけど。血を吸われたら私、吸血鬼になっちゃったりとかは――」
「求愛の段階ならそれはない」
パタン、と寝室の扉が閉まる。
「吸血鬼の求愛はな、目立つところに牙の痕を残してコレは自分のモノだと主張する為のものだ」
ヒトのモノに手を出すのは美しくない。
そう言われる場所だから、王はイマルに急げと言ったのだ。うかうか他にその印を付けられてしまう前に、と。
「だから、お前には別段変化などはない」
私はいつの間にかイマルに後ろから抱き竦められていて。
予告もなしに、不意打ちで首筋に噛みつかれた。
戸惑う暇も無く、深々と埋まる牙の存在が何故か痛みではなく心地良さを主張している事に気付く頃にはスルッと傷口から牙が抜かれ、彼の腕の中からも解放されていた。
直後。息を荒げたイマルがベッドに倒れこんだ。
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