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魔族の国
10-6 魔王陛下のお膝元
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隙無く敷き詰められた石畳に魔道具の街灯が等間隔に並ぶ馬車通りの両脇には、飲食店を始めとして、花屋や雑貨屋等様々な商店が並ぶ。
その景色は、周囲の人々――パッと見は人に見えるのに、よく見るとケモミミやケモ尻尾があったり、耳の形が特徴的だったりするのもあって、某ネズミキャラが居るテーマパークを歩いているみたいだ。
……しかも私の隣を歩くのが見た目イケメンのイマルで、傍目には見るからにデートに見えるだろう状況が、尚更ディ○ニーデートの様。
けど、隣を歩くイマル含めここに居る人達は着ぐるみでもコスプレでもなく、生身のままの魔族で……。
先に見たレプレイトの街の様子に比べると少しばかりよそよそしい気もするけど……。
でも、都会育ちの私としては子のくらいの距離感のが慣れてる。レプレイトは気の良い人が多かったけど、田舎によくある濃ゆい人付き合いを基盤とするコミュニティは、たまにお客として行くなら素敵だけど、あそこに住んであれが毎日の事になるとちょっとだけ憂鬱な気分になる。
それにしても……。
「あの、どう見ても高そうなお店しか無いんですけど……」
まるで銀座のブランドショップが並ぶ通りを歩いているみたいで……。
いや、イマルはここではお貴族様なんだし、この辺の店が御用達なのかも知れないけど。
「……侯爵として必要最低限の見栄を張るのに必要な買い物は確かにここらの店でしているが、貴族というものは自ら店に足を運ぶものではなく店の者を呼びつけるものらしいからな。入ったことは一度もない」
けど、イマルはとても面倒臭そうにため息を吐いた。――今日の彼の装いはあの日見た貴族らしい綺羅綺羅しい衣装でも、一番見慣れた冒険者スタイルでもない。この街の一般庶民が着る服だ。
イケメンだけど、元は村人だったせいか、衣装を変えるだけで周囲と違和感を覚えさせる事無く溶け込める。……イケメンだから、目立ちはするんだけど、ね。
装飾も何もない少し大きすぎるくらいの黒のシャツと生地の丈夫さに重点をおいたルーズな黒のズボンといった格好がまぁ良く似合う。
で、その隣を歩く私の装いは。
……使用人を除けばイマル一人が住むだけの屋敷で、何故か当たり前のように用意された女物の服。イマルのと同じくこの街の一般庶民が着る服なんだけど。
これが本当に既製品なのかと疑う位にサイズがピッタリで……。しかも周りから浮かない絶妙な一線は守りつつも、細部の装飾がこっていて、明らかに安物じゃないし。
「もう少し待て。この先の大通りを過ぎれば良心的な値段の店が並ぶ街区だ」
彼の言葉通り、やがて銀座から原宿の竹下通りに来たような。
まだ少し高い気がするけど、頑張れば手の届く価格帯の店が建ち並ぶ。更にこの先の街区へ行けば価格帯も下がっていくらしいけど。
「流石にそこまで行きたくない。この程度の見栄は張らせろ」
と、とある飲食店の扉を押し開いたイマルは。昼時で込み合う中、店員に名を告げた。
「――お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
順番待ちの人達を尻目にバルコニー付きの二階の個室へと通されて。
何も注文していないのに、さっと前菜が運ばれてくる。
……そうですか。事前に予約済みですか。
こんなお洒落なお店、日本でも入ったことないのに、涼しい顔で平然と料理に手をつけ始めるイマルがちょっと憎らしい。
ここ数日の特訓の成果を見せろと言われているようで……。でも料理は美味しそうで……。
「食わないのか?」
「――いただきます」
前菜は野菜のバターソテー。比較的綺麗に食べやすい料理なのがありがたい。
見た目は粉ふき芋なのにカリフラワーみたいな味と食感の野菜にバターの塩味とハーブの香りがよく合っていて……
「あ、美味しい……」
飲み込むと同時に思わずこぼれた呟きを拾ったのか、イマルがフッと口角を上げて笑う。
それが妙に得意気に見えるのは……気のせいかね?
その景色は、周囲の人々――パッと見は人に見えるのに、よく見るとケモミミやケモ尻尾があったり、耳の形が特徴的だったりするのもあって、某ネズミキャラが居るテーマパークを歩いているみたいだ。
……しかも私の隣を歩くのが見た目イケメンのイマルで、傍目には見るからにデートに見えるだろう状況が、尚更ディ○ニーデートの様。
けど、隣を歩くイマル含めここに居る人達は着ぐるみでもコスプレでもなく、生身のままの魔族で……。
先に見たレプレイトの街の様子に比べると少しばかりよそよそしい気もするけど……。
でも、都会育ちの私としては子のくらいの距離感のが慣れてる。レプレイトは気の良い人が多かったけど、田舎によくある濃ゆい人付き合いを基盤とするコミュニティは、たまにお客として行くなら素敵だけど、あそこに住んであれが毎日の事になるとちょっとだけ憂鬱な気分になる。
それにしても……。
「あの、どう見ても高そうなお店しか無いんですけど……」
まるで銀座のブランドショップが並ぶ通りを歩いているみたいで……。
いや、イマルはここではお貴族様なんだし、この辺の店が御用達なのかも知れないけど。
「……侯爵として必要最低限の見栄を張るのに必要な買い物は確かにここらの店でしているが、貴族というものは自ら店に足を運ぶものではなく店の者を呼びつけるものらしいからな。入ったことは一度もない」
けど、イマルはとても面倒臭そうにため息を吐いた。――今日の彼の装いはあの日見た貴族らしい綺羅綺羅しい衣装でも、一番見慣れた冒険者スタイルでもない。この街の一般庶民が着る服だ。
イケメンだけど、元は村人だったせいか、衣装を変えるだけで周囲と違和感を覚えさせる事無く溶け込める。……イケメンだから、目立ちはするんだけど、ね。
装飾も何もない少し大きすぎるくらいの黒のシャツと生地の丈夫さに重点をおいたルーズな黒のズボンといった格好がまぁ良く似合う。
で、その隣を歩く私の装いは。
……使用人を除けばイマル一人が住むだけの屋敷で、何故か当たり前のように用意された女物の服。イマルのと同じくこの街の一般庶民が着る服なんだけど。
これが本当に既製品なのかと疑う位にサイズがピッタリで……。しかも周りから浮かない絶妙な一線は守りつつも、細部の装飾がこっていて、明らかに安物じゃないし。
「もう少し待て。この先の大通りを過ぎれば良心的な値段の店が並ぶ街区だ」
彼の言葉通り、やがて銀座から原宿の竹下通りに来たような。
まだ少し高い気がするけど、頑張れば手の届く価格帯の店が建ち並ぶ。更にこの先の街区へ行けば価格帯も下がっていくらしいけど。
「流石にそこまで行きたくない。この程度の見栄は張らせろ」
と、とある飲食店の扉を押し開いたイマルは。昼時で込み合う中、店員に名を告げた。
「――お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
順番待ちの人達を尻目にバルコニー付きの二階の個室へと通されて。
何も注文していないのに、さっと前菜が運ばれてくる。
……そうですか。事前に予約済みですか。
こんなお洒落なお店、日本でも入ったことないのに、涼しい顔で平然と料理に手をつけ始めるイマルがちょっと憎らしい。
ここ数日の特訓の成果を見せろと言われているようで……。でも料理は美味しそうで……。
「食わないのか?」
「――いただきます」
前菜は野菜のバターソテー。比較的綺麗に食べやすい料理なのがありがたい。
見た目は粉ふき芋なのにカリフラワーみたいな味と食感の野菜にバターの塩味とハーブの香りがよく合っていて……
「あ、美味しい……」
飲み込むと同時に思わずこぼれた呟きを拾ったのか、イマルがフッと口角を上げて笑う。
それが妙に得意気に見えるのは……気のせいかね?
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