上 下
97 / 192
魔族の国

10-6 魔王陛下のお膝元

しおりを挟む
    隙無く敷き詰められた石畳に魔道具の街灯が等間隔に並ぶ馬車通りの両脇には、飲食店を始めとして、花屋や雑貨屋等様々な商店が並ぶ。
    その景色は、周囲の人々――パッと見は人に見えるのに、よく見るとケモミミやケモ尻尾があったり、耳の形が特徴的だったりするのもあって、某ネズミキャラが居るテーマパークを歩いているみたいだ。
    ……しかも私の隣を歩くのが見た目イケメンのイマルで、傍目には見るからにデートに見えるだろう状況が、尚更ディ○ニーデートの様。
    けど、隣を歩くイマル含めここに居る人達は着ぐるみでもコスプレでもなく、生身のままの魔族で……。
    先に見たレプレイトの街の様子に比べると少しばかりよそよそしい気もするけど……。
    でも、都会育ちの私としては子のくらいの距離感のが慣れてる。レプレイトは気の良い人が多かったけど、田舎によくある濃ゆい人付き合いを基盤とするコミュニティは、たまにお客として行くなら素敵だけど、あそこに住んであれが毎日の事になるとちょっとだけ憂鬱な気分になる。
    それにしても……。
    「あの、どう見ても高そうなお店しか無いんですけど……」
    まるで銀座のブランドショップが並ぶ通りを歩いているみたいで……。
    いや、イマルはここではお貴族様なんだし、この辺の店が御用達なのかも知れないけど。
   「……侯爵として必要最低限の見栄を張るのに必要な買い物は確かにここらの店でしているが、貴族というものは自ら店に足を運ぶものではなく店の者を呼びつけるものらしいからな。入ったことは一度もない」
    けど、イマルはとても面倒臭そうにため息を吐いた。――今日の彼の装いはあの日見た貴族らしい綺羅綺羅しい衣装でも、一番見慣れた冒険者スタイルでもない。この街の一般庶民が着る服だ。
    イケメンだけど、元は村人だったせいか、衣装を変えるだけで周囲と違和感を覚えさせる事無く溶け込める。……イケメンだから、目立ちはするんだけど、ね。
    装飾も何もない少し大きすぎるくらいの黒のシャツと生地の丈夫さに重点をおいたルーズな黒のズボンといった格好がまぁ良く似合う。
    で、その隣を歩く私の装いは。
    ……使用人を除けばイマル一人が住むだけの屋敷で、何故か当たり前のように用意された女物の服。イマルのと同じくこの街の一般庶民が着る服なんだけど。
    これが本当に既製品なのかと疑う位にサイズがピッタリで……。しかも周りから浮かない絶妙な一線は守りつつも、細部の装飾がこっていて、明らかに安物じゃないし。
    「もう少し待て。この先の大通りを過ぎれば良心的な値段の店が並ぶ街区だ」
    彼の言葉通り、やがて銀座から原宿の竹下通りに来たような。
    まだ少し高い気がするけど、頑張れば手の届く価格帯の店が建ち並ぶ。更にこの先の街区へ行けば価格帯も下がっていくらしいけど。
    「流石にそこまで行きたくない。この程度の見栄は張らせろ」
    と、とある飲食店の扉を押し開いたイマルは。昼時で込み合う中、店員に名を告げた。
    「――お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
    順番待ちの人達を尻目にバルコニー付きの二階の個室へと通されて。
    何も注文していないのに、さっと前菜が運ばれてくる。
    ……そうですか。事前に予約済みですか。
   こんなお洒落なお店、日本でも入ったことないのに、涼しい顔で平然と料理に手をつけ始めるイマルがちょっと憎らしい。
    ここ数日の特訓の成果を見せろと言われているようで……。でも料理は美味しそうで……。
    「食わないのか?」
    「――いただきます」
    前菜は野菜のバターソテー。比較的綺麗に食べやすい料理なのがありがたい。
    見た目は粉ふき芋なのにカリフラワーみたいな味と食感の野菜にバターの塩味とハーブの香りがよく合っていて……
   「あ、美味しい……」
    飲み込むと同時に思わずこぼれた呟きを拾ったのか、イマルがフッと口角を上げて笑う。
    それが妙に得意気に見えるのは……気のせいかね?
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の性格を引き継いだまま、聖女へ転生! ~悪態つきまくりですけど、聖女やってやりますわ~

二階堂シア
ファンタジー
前世の自分が大好きだった小説の悪役令嬢・ジェナに転生した私は、小説の世界を壊さないために悪役令嬢を演じきって処刑された。 そして次に目を覚ましたら、今度は全く知らない世界の聖女・アイヴィに転生していた!? 処刑時に首をはねられたのがトラウマになった私は、今回の人生は穏やかに生きたいと願っていた。 だから問題を起こさず、人とトラブルを起こさずにいたいのに──。 「いきなり聖女だとか言われても訳わかんないのよ! 冗談じゃないわ! そんな面倒に巻き込まれるくらいなら、聖女なんて辞めてやるわ!」 「私は一切聖女としての役目は果たさないわ。あなた達が私のことを尊重出来ないのならね」 自分の意思とは裏腹に、ジェナを演じすぎて染み付いた悪態が止まらない! このままじゃまた処刑されてしまう──! 悪役令嬢の性格を引き継いだ聖女という難易度の高い今度の転生、果たして上手くいくのか。 そして聖女アイヴィに課された過酷な運命を、私は後に知ることになる……。 悪態をつく聖女が歩む道は、再びバッドエンドか、それとも──? ※他サイトにて掲載したものを、加筆修正しながら投稿しています。

ざまぁ系ヒロインに転生したけど、悪役令嬢と仲良くなったので、隣国に亡命して健全生活目指します!

彩世幻夜
恋愛
あれ、もしかしてここ、乙女ゲーの世界? 私ヒロイン? いや、むしろここ二次小説の世界じゃない? 私、ざまぁされる悪役ヒロインじゃ……! いやいや、冗談じゃないよ! 攻略対象はクズ男ばかりだし、悪役令嬢達とは親友になっちゃったし……、 ここは仲良くエスケープしちゃいましょう!

お一人様大好き30歳、異世界で逆ハーパーティー組まされました。

彩世幻夜
恋愛
今日が30歳の誕生日。 一人飲みでプチ贅沢した帰りに寄った神社で異世界に召喚されてしまった。 待っていたのは人外のイケメン(複数)。 は? 世界を救え? ……百歩譲ってそれは良い。 でも。こいつらは要りません、お一人様で結構ですからあぁぁぁ! 男性不信を拗らせた独身喪女が逆ハーパーティーと一緒に冒険に出るとか、どんな無理ゲーですか!? ――そんなこんなで始まる勇者の冒険の旅の物語。 ※8月11日完結

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...