上 下
91 / 192
勇者Side - Spin off - ③

γ-1 役立たず?

しおりを挟む
    聖女の能力。
    ――使いこなすまでは苦労したけど、一度覚えちゃえば何て事ない。あんまり使いすぎると疲れるけど、それだけ。
    ……依頼を受けて魔物を倒しても良い顔されないけど、貧しい村で畑や田んぼに聖女の癒しを与えたときだけは、仏様でも拝むように有り難がられたから。
    そういう村近辺にある依頼の大半は害獣駆除。日本だったら猟友会に頼むとか、お役所が罠仕掛けて終わる案件で、皆そういう依頼には最近手を出さなくなった。
    代わりに大きな魔獣相手の依頼は片っ端から受けて回る。
    ……でも、全ての依頼を受けて回っていた頃よりも冒険者達の視線はもっと厳しくなった。
    害獣駆除や採集依頼は途切れることなく張り出されるけど、大物魔物の退治依頼なんてそう沢山はないし、一度受けたらそうそう次は出てこない。
    だから、当然の流れとして他国への遠征が決まったのは良い。
    けど、隣国へ渡る船に乗るのに一悶着があった。いや、正確には乗った後に騒ぎが起きた。
    一泊二日の船の旅。カリブの海賊にも劣るおんぼろ帆船で行く隣国ネフシールへの旅。……木舟だけど、気分は泥船に乗る狸。
    個室なんて無くて、雑魚寝部屋しか無い船の中、まるで針のむしろに居るみたい。
    でも、本当の修羅場は夜が明けてから。
    「は?    降りらんねぇってどういうこった!」
    「――君たち、勇者とか行って船に乗ったろう?    今噂になってるんだよ、君らのパーティーに聖女が居るって」
    「ああ?    それがどうして船を降りらんねぇ話になるんだ」
    「……知らないのかい?    随分と昔に聖女召喚が禁術指定されたのを。パチもんでも問題あるけど、本物ならもっとヤバい。国が攻め滅ぼされても文句言えないよ?    そんな厄介者を国に入れる訳にはいかないよ」
    皆で散々文句言ったけど、結局下ろして貰えず元の港に返された。
   「ねぇ、どういう事なの?    どうして魔王を倒して皆を救う聖女が厄介者扱いされるの?」
    「ふん、どうせ魔王を恐れて奴を倒す力を持つ我らに与したと思われたくないのであろう。哀れな奴等よ」
    ああ、そうか。流石にまだ今すぐ魔王の城に乗り込んで勝てるだけの戦力があるかって言われたらまだ心許ない。
    ひのきのぼうとぬののふくレベルはとうに越えたけど、まだラスボスには至れない。その時間差で魔王に報復されるのは怖いよね。
    仕方なく陸路で行ける別の国へ行くことにして、私達はカルロの「ダクーラで魔術の知識を仕入れて手数を増やしたい」との要望から、学術国家らしいその国へ向かうことになった。
    でも、旅の途中で聖女の力を使うことは禁止されちゃった……。
    私、聖女として仕事しないとただの足手まといでしかないんだけど……。
   「大丈夫ですよ。貴女をお守りする為に我らが居るのですから」
    ……皆そう言ってくれるし……いいのかなぁ。
    私は少しだけ居候で居心地の悪い気分になりながら、でも何をして良いのかやっぱり分からなくて。
    ……料理くらいは、と思ったけどお菓子作りしかした事ないし、学校の調理実習だってコンロやオープン完備の調理室でしかした事ないし。
    私、聖女なんだしいいんだよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど
ファンタジー
1プレイヤーとして、普通にVRMMOを楽しんでいたラミエル。 魔王討伐を目標に掲げ、日々仲間たちと頑張ってきた訳だが、突然パーティー追放を言い渡される。 当然ラミエルは反発するものの、リーダーの勇者カインによって半ば強制的に追い出されてしまった。 ────お前はもう要らないんだよ!と。 ラミエルは失意のドン底に落ち、現状を嘆くが……『虐殺の紅月』というパーティーに勧誘されて? 最初こそ、PK集団として有名だった『虐殺の紅月』を警戒するものの、あっという間に打ち解けた。 そんなある日、謎のハッカー集団『箱庭』によりゲーム世界に閉じ込められて!? ゲーム世界での死が、現実世界での死に直結するデスゲームを強いられた! 大混乱に陥るものの、ラミエルは仲間達と共にゲーム攻略へ挑む! だが、PK集団ということで周りに罵られたり、元パーティーメンバーと一悶着あったり、勇者カインに『戻ってこい!』と言われたり……で、大忙し! 果たして、ラミエルは無事現実へ戻れるのか!? そして、PK集団は皆の英雄になれるのか!? 最低で最高のPK集団が送る、ゲーム攻略奮闘記!ここに爆誕! ※小説家になろう様にも掲載中

俺は不調でパーティを追放されたがそれは美しい戯神様の仕業!?救いを求めて自称美少女な遊神様と大陸中を旅したら実は全て神界で配信されていた件

蒼井星空
ファンタジー
神の世界で高位神たちは配信企画で盛り上がっています。そんな中でとある企画が動き出しました。 戯神が尻もちをついたら不運な人間に影響を与えて不調にしてしまい、それを心配した遊神が降臨してその人間と一緒に戯神のところへ向かうべく世界を巡る旅をする、という企画です。 しかし、不運な魔法剣士であるアナトは満足に動けなくなり司令塔を務めるパーティーから強引に追放されてしまいます。 それでもアナトは遊神との旅の中で、遊神に振り回されたり、罠にはまったり、逆に遊神を文字通り振り回したり、たまにちょっとエッチなことをしたりして、配信の視聴者である神々を爆笑の渦に巻き込みます。 一方でアナトを追放したパーティーは上手くダンジョン探索ができなくなり、様々な不幸に見舞われてしまい、ついにはギルドから追放され、破滅してしまいます。 これは、不運な魔法剣士アナトが神界を目指す旅の中で成長し、配信されたご褒美の投げアイテムによって最強になり、自称美少女女神の遊神やとても美しい戯神たちとラブコメを繰り広げてしまう物語です。 ※なおアナトは配信されていることを知りませんので、ご注意ください。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり
ファンタジー
五歳を過ぎたあたりから、体調を壊し始めた弟。 お医者さんに診断を受けると、自家性魔力中毒症と診断される。 「大体、二十までは生きられないでしょう」 「ふざけるな。何か治療をする方法はないのか?」 その日は、なにも言わず。 ただ首を振って帰った医者だが、数日後にやって来る。 『精霊種の住まう森にフォビドゥンフルーツなるものが存在する。これすなわち万病を癒やす霊薬なり』 こんな事を書いた書物があったようだ。 だが、親を含めて、大人達はそれを信じない。 「あての無い旅など無謀だ」 そう言って。 「でも僕は、フィラデルを救ってみせる」 そして僕は、それを求めて旅に出る。 村を出るときに付いてきた幼馴染み達。 アシュアスと、友人達。 今五人の冒険が始まった。 全くシリアスではありません。 五人は全員、村の外に出るとチートです。ご注意ください。 この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...