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学びを求めて
9-4 ニアミス
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あまりに広すぎる敷地に建つ5つの建物。
一番大きな中央の建物は地下階から地上三階まであるフロアのほぼ全てが閉架図書の書棚らしく、職員すら専門の人間しか立ち入ることを許されていないらしい。
その建物と連絡通路で繋がれた四つの建物は全て地下階無しの二階建て。
中央棟を除いて一番大きい建物は専門書の開架書庫。そして物語の本などの一般書の開架書庫棟と、閲覧室専用棟。
ちなみに閲覧室専用棟では有料で写本してくれるサービスがある。……技術の進んだ国で、印刷の技術はあるようだけど、流石にコピー機は無いようだ。
勿論パソコンなんて無いから検索機なんて便利アイテムも無い。
ジブリの「耳をすませば」に出てくる図書館の様に、完全人力でカードでの管理がなされている。
でも、魔道具で防犯対策はされていて、無断持ち出しをしようとすれば入口でブザーが鳴る仕組みはある。
そして最後、一番小規模な棟はカフェテリアや文具等を売る雑貨屋が入っている。
日本のブックカフェのノリでこの棟に本を持って入るとお咎めがあるらしいから気を付けたいと思う。
さて、まずは私のお目当ての資料を探すために、一般書庫にある蔵書目録に目を通すのが良さそうだ。
勿論案内の職員は居るんだけどね。
この世界の国々の資料は案内の人に聞けば良いと思うけど、聖女の資料はどこですかなんて馬鹿正直に聞ける訳がない。
――目録だけで下手な百科事典シリーズなんか目じゃない冊数あって思わずげんなりしかけたけど。
まずは適当に手に取ってざっと中身をナナメ読みしてみる。
周りには同様に目録を立ち読みする人が何人も本題の前に並んでいるし、皆自分の用事で精一杯だし、だから私も最低限他人の迷惑にならないよう気遣う以上の事なんか気にしてなかったんだけど……ね。
午前中は目録とにらめっこして、それらしい資料の情報をメモして、お昼食べて、メモを頼りに専門棟で借りた資料を閲覧棟で読み込む。
そんな日々を過ごす様になって一週間。
「あの、魔王の資料を探してるんですけど」
専門棟でメモにある資料を探していた時に、職員にそう尋ねる声が聞こえて慌ててその声の主をそっと確めた。
それは。
色んな色を持つこの世界の者としては逆に珍しい、私と同じ黒髪黒目の――顔の作りも馴染み深い日本人らしい容姿の女の子だった。
……あの日。あの一瞬しか関わらなかった子の顔や声なんてもう覚えていない。
でも、あの顔で魔王の資料を求める少女が居る……?
「おい、早く答えろ」
その少女の傍らに護衛らしくついていた男が横柄な上から目線で急かす。
「……魔王陛下と呼ばれるお方は過去の分も含めれば何人も居られます。一体魔王陛下のどのような資料をお求めでしょうか?」
「それは……勿論今の――」
「では、どちらの国を治める王の資料をお求めで?」
「え、どちらの国って……?」
「――では、まずは地理と簡単な各国の国史の資料をご案内致します」
――あ。まずい。それ今私が持ってるやつじゃん。
……面倒事の気配を感じた私は慌てて閲覧棟へと逃げ出した。
背後からキャンキャン吠える声が聞こえたのは――うん、空耳だと思っておこう。
一番大きな中央の建物は地下階から地上三階まであるフロアのほぼ全てが閉架図書の書棚らしく、職員すら専門の人間しか立ち入ることを許されていないらしい。
その建物と連絡通路で繋がれた四つの建物は全て地下階無しの二階建て。
中央棟を除いて一番大きい建物は専門書の開架書庫。そして物語の本などの一般書の開架書庫棟と、閲覧室専用棟。
ちなみに閲覧室専用棟では有料で写本してくれるサービスがある。……技術の進んだ国で、印刷の技術はあるようだけど、流石にコピー機は無いようだ。
勿論パソコンなんて無いから検索機なんて便利アイテムも無い。
ジブリの「耳をすませば」に出てくる図書館の様に、完全人力でカードでの管理がなされている。
でも、魔道具で防犯対策はされていて、無断持ち出しをしようとすれば入口でブザーが鳴る仕組みはある。
そして最後、一番小規模な棟はカフェテリアや文具等を売る雑貨屋が入っている。
日本のブックカフェのノリでこの棟に本を持って入るとお咎めがあるらしいから気を付けたいと思う。
さて、まずは私のお目当ての資料を探すために、一般書庫にある蔵書目録に目を通すのが良さそうだ。
勿論案内の職員は居るんだけどね。
この世界の国々の資料は案内の人に聞けば良いと思うけど、聖女の資料はどこですかなんて馬鹿正直に聞ける訳がない。
――目録だけで下手な百科事典シリーズなんか目じゃない冊数あって思わずげんなりしかけたけど。
まずは適当に手に取ってざっと中身をナナメ読みしてみる。
周りには同様に目録を立ち読みする人が何人も本題の前に並んでいるし、皆自分の用事で精一杯だし、だから私も最低限他人の迷惑にならないよう気遣う以上の事なんか気にしてなかったんだけど……ね。
午前中は目録とにらめっこして、それらしい資料の情報をメモして、お昼食べて、メモを頼りに専門棟で借りた資料を閲覧棟で読み込む。
そんな日々を過ごす様になって一週間。
「あの、魔王の資料を探してるんですけど」
専門棟でメモにある資料を探していた時に、職員にそう尋ねる声が聞こえて慌ててその声の主をそっと確めた。
それは。
色んな色を持つこの世界の者としては逆に珍しい、私と同じ黒髪黒目の――顔の作りも馴染み深い日本人らしい容姿の女の子だった。
……あの日。あの一瞬しか関わらなかった子の顔や声なんてもう覚えていない。
でも、あの顔で魔王の資料を求める少女が居る……?
「おい、早く答えろ」
その少女の傍らに護衛らしくついていた男が横柄な上から目線で急かす。
「……魔王陛下と呼ばれるお方は過去の分も含めれば何人も居られます。一体魔王陛下のどのような資料をお求めでしょうか?」
「それは……勿論今の――」
「では、どちらの国を治める王の資料をお求めで?」
「え、どちらの国って……?」
「――では、まずは地理と簡単な各国の国史の資料をご案内致します」
――あ。まずい。それ今私が持ってるやつじゃん。
……面倒事の気配を感じた私は慌てて閲覧棟へと逃げ出した。
背後からキャンキャン吠える声が聞こえたのは――うん、空耳だと思っておこう。
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