64 / 192
急転直下の激震
6-6 苦労人イマルの思惑は
しおりを挟む
求愛と、生殖。
アレかな、良く聞く吸血鬼に咬まれると吸血鬼になっちゃうってあの……。
「――違うからな」
そっぽを向いていたイマルが強い口調で否定する。……私何も言ってないけど。
「ああ、前侯爵は変態野郎だったが、血ぃ吸われただけじゃヴァンパイアにはならねぇぜ」
……私が想像したのとは違うようだけど、やっぱり侯爵は変態だったのか。――イマルも思い出したくないアレコレあるんだろう。うん、ここはそっとしとくのが良さそうだ。
「まあ、そんな訳でだ。領地は持たねぇが、イマルはウチの侯爵だ。いつまでも遊ばせとく訳にもいかねぇのよ」
……それは、そうだろう。侯爵様ご本人じゃあねぇ。
「けどなぁ……。この野郎、聖女なんか連れ帰って来やがってからに……」
困ったように言うくせに、何故かニヤニヤ笑う魔王様。
「異世界から召喚された上、召喚主のヘルナイト王国に捨てられた、この世界の常識に疎い聖女。ンなもん目の前に連れて来られちゃワシも無視は出来ん。何らかの対応はしなきゃならん。――だから連れてきたんだろう?」
――え。
「流石にワシも異世界へ帰す術は知らんがな。望むなら国籍をやることも、庇護を与える事も出来る。――無論、お前がそれを受け入れるならと但し書きはつくが」
え、つまり。
きっと知られたくなかっただろう事を私にバラしてまでここへ私を連れて来たのは。
「いっそイマルの嫁に来るか? いい加減妻を迎えて子を作れといくら言っても聞かんのだよこやつは……」
「魔王陛下、戯れ言ばかり言うならその口、ニールに命じて凍らせて開かなくしてやりましょうか」
「おい、ワシを脅すなよ」
「陛下の悪ふざけが過ぎるからですよ」
「へいへい、まあ今すぐの返事なんざ無理だろうからよ、ゆっくり考えといてくれや、嬢ちゃん。お前もそろそろ下がれ、イマル」
「……御意」
まだ言い足りない感たっぷりに了承し、イマルは私を連れて部屋を出る。
「――お疲れ様です。お料理、お部屋に運ばせますね」
「ああ」
「そっか……。ここ、魔王の城なんだ」
ため息と共にこぼれる今更感溢れる台詞。
「私、何か選択間違ってたら、勇者パーティーとしてラスボス戦のために乗り込んでいたかもしれない場所なんですね……」
「……最初から途中で抜けるつもりだったとはいえ一応勇者パーティーの一員だった俺の前でそれを言うのか……?」
「はは、途中で抜けて、最後に魔王陛下の腹心とかいって敵役で再登場予定の人が何を……」
RPGじゃよく居るテンプレ裏切りキャラ。……なんて裏切りキャラに向かない人だろう。
「魔物使いになったのは、この国に来てからなんですね」
「……もっと言えばヴァンパイアになってからだな」
「『死角なし』なんて呼ばれ出したのは?」
「内偵のためにあの国で冒険者として活動を始めてからだ」
「え。じゃあ私達よりかはともかく冒険者経験は多くない……?」
「いや、正式に叙爵されるまでの教育期間中にこの国で冒険者として活動していた。従魔達の殆どはその頃にテイムした」
……凄い人だってのは分かってたけど。本当に凄い人だったんだ。それも苦労人。
彼の背が、これまで以上に頼もしく見えるのは……何でなんだろうね?
アレかな、良く聞く吸血鬼に咬まれると吸血鬼になっちゃうってあの……。
「――違うからな」
そっぽを向いていたイマルが強い口調で否定する。……私何も言ってないけど。
「ああ、前侯爵は変態野郎だったが、血ぃ吸われただけじゃヴァンパイアにはならねぇぜ」
……私が想像したのとは違うようだけど、やっぱり侯爵は変態だったのか。――イマルも思い出したくないアレコレあるんだろう。うん、ここはそっとしとくのが良さそうだ。
「まあ、そんな訳でだ。領地は持たねぇが、イマルはウチの侯爵だ。いつまでも遊ばせとく訳にもいかねぇのよ」
……それは、そうだろう。侯爵様ご本人じゃあねぇ。
「けどなぁ……。この野郎、聖女なんか連れ帰って来やがってからに……」
困ったように言うくせに、何故かニヤニヤ笑う魔王様。
「異世界から召喚された上、召喚主のヘルナイト王国に捨てられた、この世界の常識に疎い聖女。ンなもん目の前に連れて来られちゃワシも無視は出来ん。何らかの対応はしなきゃならん。――だから連れてきたんだろう?」
――え。
「流石にワシも異世界へ帰す術は知らんがな。望むなら国籍をやることも、庇護を与える事も出来る。――無論、お前がそれを受け入れるならと但し書きはつくが」
え、つまり。
きっと知られたくなかっただろう事を私にバラしてまでここへ私を連れて来たのは。
「いっそイマルの嫁に来るか? いい加減妻を迎えて子を作れといくら言っても聞かんのだよこやつは……」
「魔王陛下、戯れ言ばかり言うならその口、ニールに命じて凍らせて開かなくしてやりましょうか」
「おい、ワシを脅すなよ」
「陛下の悪ふざけが過ぎるからですよ」
「へいへい、まあ今すぐの返事なんざ無理だろうからよ、ゆっくり考えといてくれや、嬢ちゃん。お前もそろそろ下がれ、イマル」
「……御意」
まだ言い足りない感たっぷりに了承し、イマルは私を連れて部屋を出る。
「――お疲れ様です。お料理、お部屋に運ばせますね」
「ああ」
「そっか……。ここ、魔王の城なんだ」
ため息と共にこぼれる今更感溢れる台詞。
「私、何か選択間違ってたら、勇者パーティーとしてラスボス戦のために乗り込んでいたかもしれない場所なんですね……」
「……最初から途中で抜けるつもりだったとはいえ一応勇者パーティーの一員だった俺の前でそれを言うのか……?」
「はは、途中で抜けて、最後に魔王陛下の腹心とかいって敵役で再登場予定の人が何を……」
RPGじゃよく居るテンプレ裏切りキャラ。……なんて裏切りキャラに向かない人だろう。
「魔物使いになったのは、この国に来てからなんですね」
「……もっと言えばヴァンパイアになってからだな」
「『死角なし』なんて呼ばれ出したのは?」
「内偵のためにあの国で冒険者として活動を始めてからだ」
「え。じゃあ私達よりかはともかく冒険者経験は多くない……?」
「いや、正式に叙爵されるまでの教育期間中にこの国で冒険者として活動していた。従魔達の殆どはその頃にテイムした」
……凄い人だってのは分かってたけど。本当に凄い人だったんだ。それも苦労人。
彼の背が、これまで以上に頼もしく見えるのは……何でなんだろうね?
11
お気に入りに追加
3,170
あなたにおすすめの小説
死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜
まさかの
恋愛
ソフィアは二十歳で死んでしまった。
王太子から婚約破棄されてからは、変な組織に入り、悪の道に進んでしまった。
しかし死ぬ間際に人の心を取り戻して、迷惑を掛けた人たちに謝りながら死んでいった――はずだった!
気付いたら過去に戻っていた!
ソフィアは婚約破棄される当日に戻ってきたと勘違いして、自分から婚約破棄の申し出をしたが、まさかの婚約破棄される日を一年間違えてしまった。
慌てるソフィアに救いの手、新たな婚約を希望する男が現れ、便乗してしまったのが運の尽き。
なんと婚約をしてきたのは未来で、何度も殺そうとしてきた、ドSの武闘派司祭クリストフだった。
なのに未来とは違い、優しく、愛してくれる彼に戸惑いが隠せない
だが彼もなんと未来の記憶を持っているのだった!
いつか殺されてしまう恐怖に怯えるが、彼は一向にそんな素振りをせずに困惑する毎日。
それどころか思わせぶりなことばかりする彼の目的は何!?
私は今回こそは本当に幸せに生きられるのだろうか。
過去の過ちを認め、質素にまじめに生き抜き、甘々な結婚生活を送る、やり直し物語。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
第10話から甘々展開になっていきます。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています
如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。
「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」
理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。
どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。
何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。
両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。
しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。
「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる