118 / 125
第二章
大かまど
しおりを挟む
「うわー、大きい!」
当初、一人一つ窯で出すつもりで営業準備をしていた私。
……だけど。
「この人数と設備でそれをやってると、色々足らなくなる気がします。なので、パフォーマンスも兼ねて大きな釜で炊いてもらえませんか?」
確かに。この釜飯、トッピングは火を通した後に乗せるもの。
飯を別に炊くのはデフォルト仕様である。
なら、一度に炊いてしまったほうが楽だし、あの“何故か美味しい給食”の法則で美味しくもなる。
まさに一石二鳥。
と、言うわけで。
給食室にあるような大釜で飯を炊き、ロイス、レスト、ジークが総出でそこから丼に飯を盛り、刺し身といくらをトッピングして客に手渡している。
私? 私は次の釜の面倒を見てるわよ。サボってないからね!
大量の米と青菜やほぐし身と、これまた大量の出汁をかき混ぜるだけでも重労働。
その後は火加減に気をつけつつ……
けど、出来上がった窯の蓋を開けた瞬間の、調味料の程よく焦げた香ばしい潮の香りは実に素晴らしい。
ここの港の人々は、日々マスなんか当たり前に食べていて、むしろ食べ飽きてる感がある。
それでも、この大きな釜のパフォーマンスと香りに惹かれてやって来る客は少なくなかった。
そして、いくらの煌めきに堕ちてついつい手の出る客、続出。
やっぱりあのきらきらプチプチした魚卵は、他の魚卵とは一線を画してるよね、その魅惑度が。
だけど。
匂いや見た目だけじゃないよ、この釜飯。
「おお、飯が……飯がウメェ!」
「焼きマスのほぐし身混ぜご飯なんざ珍しくもねぇと思ってたが、こりゃ美味い! なんだ、この染み渡る旨味は!」
ふはは。アラでとった出汁と、青菜から出た旨味。
動物性+植物性の旨味のコンポはどうだい?
そこへ醤油や酒、みりんも加えたご飯は美味かろう?
日本人ならまず抗えないこの組み合わせ。
幸いにも日本食に近いこの土地の食事情に慣れたこの世界の人間の舌にもこの味は有効だったようで。
ここでの営業も成功のうちに幕を下ろし。
「これで、残り一つ。次が最後か」
次は、湖の端。湖から出ていく川の畔の沿岸警備隊の軍港だそうで。
「湖は、王都の管轄ですから。伯爵家の管轄はあくまで“川”なのでございます」
「そうか、遂に王都か……」
第二の目的地に選んだ場所が、もうすぐそこにある。
期待と不安に流行る心を抑えつつ、私達は漁港を後にするのだった。
当初、一人一つ窯で出すつもりで営業準備をしていた私。
……だけど。
「この人数と設備でそれをやってると、色々足らなくなる気がします。なので、パフォーマンスも兼ねて大きな釜で炊いてもらえませんか?」
確かに。この釜飯、トッピングは火を通した後に乗せるもの。
飯を別に炊くのはデフォルト仕様である。
なら、一度に炊いてしまったほうが楽だし、あの“何故か美味しい給食”の法則で美味しくもなる。
まさに一石二鳥。
と、言うわけで。
給食室にあるような大釜で飯を炊き、ロイス、レスト、ジークが総出でそこから丼に飯を盛り、刺し身といくらをトッピングして客に手渡している。
私? 私は次の釜の面倒を見てるわよ。サボってないからね!
大量の米と青菜やほぐし身と、これまた大量の出汁をかき混ぜるだけでも重労働。
その後は火加減に気をつけつつ……
けど、出来上がった窯の蓋を開けた瞬間の、調味料の程よく焦げた香ばしい潮の香りは実に素晴らしい。
ここの港の人々は、日々マスなんか当たり前に食べていて、むしろ食べ飽きてる感がある。
それでも、この大きな釜のパフォーマンスと香りに惹かれてやって来る客は少なくなかった。
そして、いくらの煌めきに堕ちてついつい手の出る客、続出。
やっぱりあのきらきらプチプチした魚卵は、他の魚卵とは一線を画してるよね、その魅惑度が。
だけど。
匂いや見た目だけじゃないよ、この釜飯。
「おお、飯が……飯がウメェ!」
「焼きマスのほぐし身混ぜご飯なんざ珍しくもねぇと思ってたが、こりゃ美味い! なんだ、この染み渡る旨味は!」
ふはは。アラでとった出汁と、青菜から出た旨味。
動物性+植物性の旨味のコンポはどうだい?
そこへ醤油や酒、みりんも加えたご飯は美味かろう?
日本人ならまず抗えないこの組み合わせ。
幸いにも日本食に近いこの土地の食事情に慣れたこの世界の人間の舌にもこの味は有効だったようで。
ここでの営業も成功のうちに幕を下ろし。
「これで、残り一つ。次が最後か」
次は、湖の端。湖から出ていく川の畔の沿岸警備隊の軍港だそうで。
「湖は、王都の管轄ですから。伯爵家の管轄はあくまで“川”なのでございます」
「そうか、遂に王都か……」
第二の目的地に選んだ場所が、もうすぐそこにある。
期待と不安に流行る心を抑えつつ、私達は漁港を後にするのだった。
82
お気に入りに追加
1,098
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる