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第二章

大かまど

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 「うわー、大きい!」

 当初、一人一つ窯で出すつもりで営業準備をしていた私。

 ……だけど。
 「この人数と設備でそれをやってると、色々足らなくなる気がします。なので、パフォーマンスも兼ねて大きな釜で炊いてもらえませんか?」

 確かに。この釜飯、トッピングは火を通した後に乗せるもの。
 飯を別に炊くのはデフォルト仕様である。
 なら、一度に炊いてしまったほうが楽だし、あの“何故か美味しい給食”の法則で美味しくもなる。
 まさに一石二鳥。

 と、言うわけで。
 給食室にあるような大釜で飯を炊き、ロイス、レスト、ジークが総出でそこから丼に飯を盛り、刺し身といくらをトッピングして客に手渡している。
 私? 私は次の釜の面倒を見てるわよ。サボってないからね!

 大量の米と青菜やほぐし身と、これまた大量の出汁をかき混ぜるだけでも重労働。
 その後は火加減に気をつけつつ……

 けど、出来上がった窯の蓋を開けた瞬間の、調味料の程よく焦げた香ばしい潮の香りは実に素晴らしい。

 ここの港の人々は、日々マスなんか当たり前に食べていて、むしろ食べ飽きてる感がある。

 それでも、この大きな釜のパフォーマンスと香りに惹かれてやって来る客は少なくなかった。
 そして、いくらの煌めきに堕ちてついつい手の出る客、続出。

 やっぱりあのきらきらプチプチした魚卵は、他の魚卵とは一線を画してるよね、その魅惑度が。

 だけど。
 匂いや見た目だけじゃないよ、この釜飯。

 「おお、飯が……飯がウメェ!」
 「焼きマスのほぐし身混ぜご飯なんざ珍しくもねぇと思ってたが、こりゃ美味い! なんだ、この染み渡る旨味は!」

 ふはは。アラでとった出汁と、青菜から出た旨味。
 動物性+植物性の旨味のコンポはどうだい?
 そこへ醤油や酒、みりんも加えたご飯は美味かろう?

 日本人ならまず抗えないこの組み合わせ。
 幸いにも日本食に近いこの土地の食事情に慣れたこの世界の人間の舌にもこの味は有効だったようで。

 ここでの営業も成功のうちに幕を下ろし。

 「これで、残り一つ。次が最後か」

 次は、湖の端。湖から出ていく川の畔の沿岸警備隊の軍港だそうで。

 「湖は、王都の管轄ですから。伯爵家の管轄はあくまで“川”なのでございます」

 「そうか、遂に王都か……」

 第二の目的地に選んだ場所が、もうすぐそこにある。
 期待と不安に流行る心を抑えつつ、私達は漁港を後にするのだった。
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