屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜

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第二章

伯爵様の依頼

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 「あの、伯爵様の御前に出られるような衣服も礼儀作法も持ち合わせていないのですが……」

 「無論、我が主はそちらが平民である事はご承知なさっております。御用達に指定している訳でもない者である事も。故に、多少の礼儀知らずは大目に見て下さるはずです」

 ……、つまりこれは強制の呼び出しであるらしい。
 いや、ホントに何があったし……?

 仕方なく行くと返事をし、一応持ち合わせの中で一番上等な服に着替え、使者の馬車の後についていく。
 すると、古風ながら風情のある石造りのお屋敷が見えてくる。
 屋敷の前には噴水を中心とした美しい庭が整えられている。

 成程、お貴族様のお屋敷らしい建物である。

 しかし、その正面の門は通り過ぎ、裏の使用人の出入り口の方へと私達は案内された。
 ……まあ、ね。私達は平民だし、大商人でもないからね。

 くねくねと迷路の様に続く使用人用の通路、と聞かされた暗い廊下を歩かされる。
 目印らしい物もないし、窓もないからどこを歩かされているのかさっぱり分からない。

 いくつ目かのドアを、案内の人が開ける。その前には立派な彫刻の施された両開きのツヤツヤした木製の扉。

 そのノッカーを叩き、「旦那様、お連れいたしました」と声をかける。

 「通せ」

 それに、低くて渋いイケオジ風の声が答える。
 う、前世の頃からこういう声に弱いんだよ私!
 大○明夫氏とか津田○次郎氏みたいな……、ね?

 が、開かれた扉の向こうにいたのは、その素敵な声を裏切るでっぷりした男。
 豪奢な服を身に着けているから、あれが伯爵様なのだろう。
 しかし……、獣人族ではなくれっきとした人間のはずが、どう取り繕おうとも豚にしか見えない。
 それも可愛らしい豚ではなく、前世のアニメで悪役に居そうな豚。

 くっ、モザイク! モザイク処理を、誰かお願い!
 この声詐欺野郎め! 私の期待を返せ!

 ……なぁんて勿論伯爵様に言えるはずもなく。
 取り敢えず頭を下げておく。

 「ふむ、そなたらが噂の行商人か?」

 あー、良い声。今だけ盲目になりたい。……なんて言ったら本当の視覚障害者に失礼か。

 「王都の噂に関してはまだ確認中でございますが、この街で流れた噂の行商人は、間違いなくこの者たちです」

 ……またか。またあの勇者がらみの噂か。

 「ふむ、そなた等に頼みたい事があるのだが」

 でっぷりした体を窮屈そうに椅子に預けた伯爵様が言う。
 ……頼みたい事、なんて言ってるけど。お貴族様が平民に言う頼み事なんて実質命令。断れるはずもない。

 「我が領地の名物料理を作り、そのレシピを献上せよ」

 そして、お願いの体をなした命令が下された。
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