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第一章

移動販売、昼の部

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 昼近い時間、一度屋台を軽く片して飲食店街へと移動し、再び店を展開し、調理を始める。

 すると早速仕事が一段落し、空きっ腹を抱えた労働者達が昼食を求めてぱらぱらと人が集まり始める。
 ……日本のオフィスと違って明確に何時何分から何時何分までと時間が決まっていない分、多少人はばらけるが、それだけ長い時間私達は稼げると言う事。

 腹を空かせた男衆が、この肉を揚げるステキな匂いと音に惹かれないはずがない。
 ついつい目が向く。

 売っているのは揚げ物を串に刺した、正直男の小腹を満たすにも物足りない量の軽食。
 だけど何とも美味そうな上に、だ。

 「いらっしゃいませ~! 美味しいですよ~!」

 呼び込みをしているウサ耳っ娘が、可愛い。
 とくに娘や孫娘が居る年頃の男衆はその愛らしさにがっつり心を掴まれてしまい、ふらふらと屋台に引き寄せられてくる。

 値段を見れば、酒一杯より安い。この程度の値段なら、もし不味くて失敗しても懐はそんなに痛まない。
 そう考え、肉の多く刺さる串を注文し、手渡されたそれを早速パクつけば。

 「美味い! 嘘だろ、この値段でこの味とか……」
 「ソースの味が絶妙だな」
 「なんだ、これ。葉っぱが挟まってるくせに塊肉を食うより美味いってどう言うことだよ!」

 と、あっという間に人集りが出来る。

 すると、昼食を食べ終わって店なら出てきた人々もまた、「何だ?」とばかりに寄ってくる。
 既に昼食を腹に詰めていても、食べざかりの肉体労働者の胃は無限大なようで、「串一本ならデザートみたいなモンだろ?」と列に並び、

 「美味ぇ、何で俺は一本しか買わなかったんだ!もっと何本も買っときゃ良かった!」
 と嘆く輩が出る始末。

 腹にも懐にも余裕があるのに、時間の余裕が無くて泣く連中が続出した。

 だから、
 「夜は飲み屋街で店を出すんで、またよろしくお願いしますね?」
 と声をかけたらとても素敵な笑顔で、
 「分かった、夜には仲間を誘ってまた来るよ」
 と言って去っていった。

 当然売上は上々。
 既に仕込み分のストックが切れかけ、慌てて追加のストックを作り足し、次の夜の部に向けて準備を進める。

 「ねえ、やっぱりお留守番してないとダメ……?」

 「うん。昼間は良い人でも、お酒飲んだら途端に暴れ者になる困った人なんかも居るからね。もしレストさんが居なければ、私達だけではそんな時間のそんな場所で店なんかやらないよ、いくら儲かる目算があってもね」
 飲み屋が一軒だけなら、他にも屋台が出ているなら考えるけど、ここのは飲み屋だけで一区画の街を作ってるからね。
 酔っぱらいも自然多くなるんだ。

 「……分かった、お留守番してる」
 少し不服そうにしつつも頷くミルフィの頭をかわりばんこに撫でて、私達は夜の部を乗り切る英気を養うのであった。
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