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第一章

ラゴンの街

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 不意に高いヤブが途絶え、一気に視界が広がった。

 僅かな草原という緩衝地帯の先に広がるのは、湿地帯。
 これまで街道を嫌うようにルートを外れて流れていた大河が、ここで大カーブを描いている。
 その川を渡った先、カーブの内側の中洲のような島。そこに築かれた城塞都市。

 それが、彼らの街であり、私達が目指していた次の街。

 クロエの足音も、次第にポクポクからピチャピチャに変わりつつある。
 車輪に泥がまとわりつき、速度も若干ながら落ちる。

 「この川のこの場所は、しょっちゅう機嫌悪くしちゃ辺り一帯水びだしにするんでな」

 湿地帯なんて、前世でもテレビでしか見た事がない。

 「こんなとこ、鎧で歩いたら沈んじまうんじゃねぇ?」
 「革の軽鎧なら問題なかろうが、騎士様が完全装備で来たら、馬は動けなくなるだろぅなぁ」
 「……なら、城塞都市にする必要があるのか?」
 「おうよ。ありゃ戦争のための砦じゃねぇ。この湿地帯で生きるための城塞都市だからな」

 そして、川を渡るには渡し船を使う。

 「何度橋をかけたってすぐ流されっちまうからな。流されるたびにまた作り直す。そんなのあの桟橋だけで手一杯だからな」

 馬車も当たり前に行き来する場所で、人だけなら普通の船で行くのだが……

 「うわぁ、大きなイカダ……」

 無人島脱出の定番、丸太で作った即席イカダのイメージをぶち壊す、舞台のような平らな床が水面に浮かぶ。
 そんな表現がふさわしい船が、何層も並び、それに乗って街へ行くひとびともまた列を成していた。

 渡し賃はおおよそ屋台のジャンクフード一食分程。
 これを払わないと街に入れないので、余所から来た者は渋々ながら支払っている。

 ちらほらお金を払わずカードを提示しているのはこの街の住人か、大商人だ。
 税金を常に支払い街に住んでいる住人には公共サービスとして住人証を見せれば改めて料金を支払う必要はなく。
 また、商業ギルドを介して国に大量の税を収める大商人もまた、ギルド証を提示すればわざわざ小銭を取り出す手間をかけずに済むのだ。

 そして。私達も渡し賃を払い、渡し船に馬車ごと乗る。
 定員は3台。
 全て乗り込み、念の為車輪を固定したら、船はゆっくり岸を離れる。
 前の船を追うように、街から出る船と時々すれ違いながら。

 やがて向こう岸に辿り着き、船を降りるとそこは――

 「う、うわぁ、地面が無い!」
 ロイスが、馬車にしがみつく。
 「いや、道はちゃんとあるし建物もあるよ」

 ただし、その道は馬車がギリギリすれ違える広さしかなく。
 また建物も、地面に杭打ちその上に場をこしらえて建てた物ばかりで、その街に於いて地面という物は極端に少なく、水面の上で暮らす街。

 水の都と言われたベニスも真っ青の水上城塞都市、それがラゴンの街であった。
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