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第一章

逆の失敗

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 「は、これがあのうなぎ? 嘘だろ、あの見た目もキモけりゃまずくて、死ぬ程のモンじゃねぇとは言え毒までありやがる、あれか? それがこんな美味いだと?」

 結果として。うな丼は売れた。
 最初は匂いにつられて来たけど、モノがうなぎだと聞いて敬遠する人も少なくなかったが、何かの罰ゲーム代わりにとちょっとDQN風のお兄さんたちが一食買い。
 屋台のすぐ側でその中の一人に押し付け食べさせた。

 最初は嫌々ながら口に入れたその男。
 「……ん?」
 もぐもぐと口を動かすたびに眉間からシワが消えていき。
 二口目からはむしろ自分からかきこむ勢いで口に入れる。

 その反応に。

 「……もう一個買って来い」
 リーダーらしき男がパシリを使ってもう一食手に入れ、今度は仲間内で回し食いをした。

 「……美味え。なんだこれ、これじゃ罰ゲームどころかご褒美じゃねぇかよ」

 その様子を怖々見ていた人々もそれを見て興味を持った様で、一人、また一人とうな丼を買い求める人がちらほら出てきて。
 買って食べた者はその美味しさにたちまち虜になった。

 周囲に美味しそうに食べる者が群がれば、当然人の目を引く。
 何か美味しそうな物を食べている、と思えばついつい自分も欲しくなるのは自然な流れで。

 たった三十食など一瞬で売れきれてしまった。

 「もう無いのかね?」
 「ちと待っても構わんから、追加で作れないか?」

 と問われたが、下ごしらえ含め三日かかると言ったらガッカリされてしまった。

 しっかり儲けたし、当然赤字は出なかったけど。
 もっと用意していればもっと儲けられた。

 見込み違いで得られるはずだった儲けを不意にしてしまったのだ。

 もしこれが行商ではなく店舗持ちなら、帳簿には記されずとも損害と言って良い失敗だった。

 「やっぱり商売は一筋縄じゃいかないわね」

 「次の街まで、だいたい三日かかるって言うしさ、この街でうなぎを仕入れて、次の街でリベンジするってのはどうだ?」
 「そうね、今回ので少し慣れたし、次は失敗しないわ!」

 勿論たった一回で職人技を身に着けた訳じゃない。
 もし前世の本職の職人に見られたら、叱られるだろう事はいくつもあるはず。
 だけど、取り敢えず人に食べさせて美味しいと言わせるだけの物は作れている。

 それに、前世の日本よりうなぎそのものが圧倒的に安い。
 しかも調味料はただなのだから、前世の牛丼並みの値段を付けても十分儲かるのだ。
 お高い老舗のうなぎ屋と比べられても困る。

 「それじゃ、そろそろ次の街に移動しましょうか」

 湖の街を目指す旅は、むしろこれから始まるのだし。
 シャリーはうなぎを馬車に積めるだけ仕入れ、ロイスと共に次の街へと出発したのだった。
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