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第一章

大河の入口

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 水の国、と言われる隣国。

 が、流石に人が勝手に引いただけの国境付近の環境が、瞬時に変わる事はなく、砦を出て暫くは似たような草原が続いていた。

 しかし、国境の街が近づくにつれ、草原が徐々に人の手の入った農場へと景色が変わり、やがて水の流れる音が風に乗って聞こえてくる。

 そして。

 「へ? これ……川なのか?」

 小川レベルの川なら私達の街の近くにもあったし、旅の途中にも何度か目にしてはいた。
 ……が、ここまで大きな川は、かつて日本でも見たことが無い。

 テレビで見た中国の黄河や長江の様な大河が、目の前に横たわり、緩やかに川上から川下へと流れていく。

 その水面には漁船や貨物船、客選が行き交い、港を備えたその国境の街は、先に見た私達の国の側の国境の街と比べると、建物は雑然としているけれど、賑やかさという一点で、この街が圧勝するだろう。

 あの高級店の並ぶ美しい町並みは無くとも、代わりとばかりに多くの行商人が露店を並べ、熾烈な競争を繰り広げ、そんな店を見比べ少しでも得な買い物をしようと虎視眈々と狙う客らで実に騒がしい。

 その露店も、食べ物の露店と一口に言っても、食材を売る店やテイクアウトの軽食を売る店に、その場で食べさせる店。アクセサリーや衣服を売る店から武器や防具を売る店、果ては占いやら見世物屋まで何でもあり。

 「これ……、ここで勝負するのはすごく厳しそうね……」

 今まで田舎の、超イージーモードの中で商売してきた。
 あの、国境の街でのおにぎり屋台ですら、ノーマルか、その一つ上のハードモードレベルだったろう。

 しかし、ここは。
 ゲームで言えばハードどころかアンノウンとか何とか、ヤバい名前のついた超ハードモードレベルなのでは……?

 良くて、負けなければ良いか、と。
 大損するリスクの方がむしろ高いような……。

 だけど。

 川沿いの街だけあって、これまでこの世界で見た事の無かった鮮魚が、店先でザルに盛られて売っている。
 勿論みんな川魚で、海の魚は相変わらず加工品だったけど。

 新鮮な川魚の塩焼き、匂いにつられてついつい買っちゃったよ。

 波打つように串打たれた哀れな、けれど実に美味しそうな白身の魚。
 買ったその場でがぶりとお行儀も忘れて食いつくと、皮目に振られた塩がまずガツンと来る。が、直後から魚の油の甘さが塩辛さをまろやかに中和し、食べごたえのある身が旨味を主張する。

 ああ、美味しい……。

 ワタもキレイに取り除かれた川魚は、頭としっぽ、背骨を残してキレイに完食できた。

 「何でお前、そんなにキレイに食べられるわけ?」

 食べ慣れない物に悪戦苦闘したロイスの串には、まだ身のついた部分や、逆に思い切り大骨ごと齧ってしまったらしい痕跡の残る魚の残骸があった。

 ……ま、こういうのを食べるにはコツが要るからね。

 次はお刺身が食べたいところだけど……あるかなぁ?
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