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第一章

肉厚ステーキは世界を越えてもごちそうです。

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 ロイスの両親に伴われ、私はその料理屋へと入り、ボックス席のテーブルに鉄板に乗せられジュウジュウといい音と、肉の焼ける匂いをさせた厚切りのお肉が運ばれてくるのをながめていた。

 肉の上に乗ったガーリックチップと、肉の熱で既に下の方がじんわり溶け始めているバター。

 付け合せは人参のグラッセとフライドポテト。
 合わせてサラダとスープ、パンが運ばれてきた。

 何も言うこともなくとにかく肉、その鉄板を前にロイスの目が輝いている。

 元の世界でもステーキというのは基本的に“ごちそう”の代表格。
 洋食というジャンルのみに絞ればごちそうの王道だろう。

 勿論和食や中華なんてジャンルの存在しないこの世界では間違いなくキング・オブ・ごちそうメニューである。

 この旅路中、そうそう不味いご飯を作った覚えはないけど、それでも街で食べる料理も含めてあまり予算は割けず、少々質素なご飯だった現実がある。
 そしてこの年頃の男の子なら肉を愛してやまない気持ちもまぁ分からなくもない。

 そして、もちろん私もステーキが嫌い、なんて事があるはずもなく。

 「シャリーちゃん、成人おめでとう」

 「ありがとうございます。……うち、親がアレなんで成人の祝いなんて諦めていたのに。わざわざこんな席を用意していただいて。その前にも色々お世話して頂いてご迷惑もおかけしているのに……」

 3センチ以上ありそうな厚切りのお肉にナイフを入れながら感謝の言葉を述べる。

 「いや、君は妻の大事な友人の娘だからね。当然の事さ。……そして、君という理由も無くなった以上、もう取引を続ける理由もない。流石に急すぎてすぐには対応しきれなかったが、水面下では他の取引先との話も進めていた。……事実、新しい嫁とその息子が入った途端、あの商会の経営はどんどん傾く一方らしい。勿論表立っては誰も言わないけどね」

 そして、私を追い出した事でタガが外れたのか、その速度は加速するばかりらしく。

 「君は、あの家と縁を切って正解だったと思うよ」

 甘く、舌の上でとろける脂と共に、赤身の旨味が噛むごとに口の中で踊る。
 肉も柔らかく、とても美味しい。

 肉の脂で口の中がしつこくなったら、サラダやオニオンスープで口の中をさっぱりさせる。
 たまにパンも頬張って。

 綺麗さっぱり食べ終わったあとで。

 「あ、これ。俺からな」
 と、ロイスが小箱を押し付けてきた。

 「お前なら花より団子……ってよりアクセサリーよりそっちのが喜ぶだろうと思ってよ」

 小箱から出てきたのはなんと……、指輪でもネックレスでもなく。
 計量スプーンセットでしたとさ。
 ……可愛いけどさ! 嬉しいけどさ!

 くぅ、ヤツのドヤ顔見てるとなんか悔しい……!
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