唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

元平民の悪役令嬢、世界を救う

邪王を倒せ！

    パレードも終了し、各国への宣伝も終了した。
    エルシー国には書状を送りつけ、事後承諾で邪王退治を請け負う旨を通告し。
     私とレイフレッドは国を出た。
     ――が。
     私達はRPGお約束のひのきの棒と布の服を装備した初心者冒険者ではない。
     自作・及び商会特製の優良魔道具で全身を固め、自身も高ランク冒険者の実力を持っている上、件の国々の隣国までは空間で移動出来る。
    ……勇者パーティーからの追放イベントなんてのは起きようもなし。レベルアップの冒険の旅をすっ飛ばして、邪王ラスボスの居場所の探索からのスタートだ。
    ……とはいえそれも事前情報で国と地方の特定までは済んでいる。
    せいぜい東京都区内程度の面積の土地の中から人一人見つけるだけ。
    まあ簡単ではないけど、レベル１から始める冒険の旅に比べれば遥かに短く、これと言ったハプニングも無く――治安の悪さや生活苦に苛つく民に何かといちゃもんつけられたりなんて可愛いトラブルはこの際省く――私達は一つの村に辿り着いた。
   かつては家畜が放牧されたのどかな農村だっただろう村だ。
    ここは七つの大罪の“暴食”を思わせた国だ。
    ここが酪農の村だったのか、畜産の村だったのか、両方やっていたのか。
    ……少なくも畑は自身で食べる分程度の面積しか――それでも通常の基準からすれば広いんだけど――見られず、大半が放牧地に当てられているので、農作物を主にした村ではなかった事は分かるのだけど……。
    「今じゃ見事なゴーストタウン……もといゴーストヴィレッジね」
    建物は廃墟だらけだし、植物は枯れた残骸が僅かに残るだけ。
    人の姿も獣の姿もない。魔物すら居ない。
    しかしその一際濃い毒気を含んだ空気が、間違いなくここがそうなのだと言っていた。
     放牧地が大半を占め、村の所有する土地はかなり広く、それだけならウチの王都より広いだろう。
     だけど邪王とはいえ、元は人。その辺の野っ原に潜んでいる確率は低い。
     こうなる前は確実に獣の方が数が多かっただろう人口の村に、人の住める家はそんなに多くはない。
    「最後はローラー作戦でいくしかないね。……当たりを引いたら即座に戦闘って可能性も低くない。今日は村の外で待機、明日明るくなってから始めましょう」
    あれから昼か夜かも分からない空模様が続いているけど、時計を見れば既に夕方近かった。
    仮にも邪王だ。ラスとバトルはやはり万全の体調で挑みたい。
    一度空間の屋敷に引っ込んで、一休みするべきだろう。私は馬車の車体のみを取り出し、周囲に結界を張った。