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魔王対策
不穏な空気
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船を降り、陸上の旅を開始してから数ヵ国程巡り歩き。そして今日、また新たな国へ入るため、私達は入国審査を待つ人々の列に並んでいた。
ここまで、各国お偉いさんの権力争いに巻き込まれる形で私達の旅の邪魔をしようとしたり、あるいは町の些細なトラブルに巻き込まれかけたりと言ったアクシデントこそあったものの、“魔王”なんてモノが関係してきそうな気配を感じたことはなかったんだけど。
「……随分と物々しいですね」
特に何かあったという様な噂は聞かなかったが、まるで脱走兵か犯罪者が国外逃亡を図り国境を越えようとしているとの情報でも得たように、馬車の中まで確認し、身体検査まで行っているらしく、列は遅々として進まない。
「……あんたら、旅の人かい? どうしてもあの国に用があるんじゃなきゃ遠回りしてでも避けてった方が良いよ。あの入国審査は特に何がなくとも行われる、通常の審査なんだよ、あの国じゃ。有事の際には問答無用で素っ裸に剥かれるし、馬車は飲料水のタンクの中までチェックされる。……俺は金を貰ってもあの国の住民にはなりたくないね」
「え……。確かに豪族の首長が治める粗野な国と聞いてはいましたが……そんなに?」
「ああ。ある種の趣味を持つ者には楽園のような国だろうがな。うっかり嵌まり過ぎればあとは地獄へ堕ちるばかりの底無し沼みたいな国さ」
「じゃあ、おじさんは何しに行くんだよ?」
「商売だよ。……っつっても俺はただの荷運び役だがな。金のやり取りの話はウチの上のがしてるからな。俺はお得意さんに荷物届けるだけさ」
……荒れ地の多い国で、食料自給率の低い国だけに他所から食料を輸入しなければ食べていけない。
だけど、その為の外貨を稼げる魅力的な輸出品も無い国だそうで。
「だから、奴らは人を商品にして外貨を稼ぐ事にしたんだ」
「まさか……奴隷?」
「遠からず……だな。ま、行きゃ嫌でも分かるよ」
そして、ようやく私達の番が来る。
先に許可証を見せるも、けれどきっちり他の人と同様に車の中を見られ、女性は女性兵士がするとは言え体を触られての身体検査はやはり屈辱的な気分にさせられる。
「通ってよし!」
そうして門を通り、しばらく車を走らせ辿り着いた街はまるで――というか……
「花町……」
もう夕暮れ時だというのに……いや、この場合はだからこそと言うべきか。
煌々と吊るされた提灯が街を色とりどりに照らし出し、香の匂いが町の空気を支配している。
それはまるで、江戸の花町「吉原」に似た……楽園のような地獄の町の風景だった。
ここまで、各国お偉いさんの権力争いに巻き込まれる形で私達の旅の邪魔をしようとしたり、あるいは町の些細なトラブルに巻き込まれかけたりと言ったアクシデントこそあったものの、“魔王”なんてモノが関係してきそうな気配を感じたことはなかったんだけど。
「……随分と物々しいですね」
特に何かあったという様な噂は聞かなかったが、まるで脱走兵か犯罪者が国外逃亡を図り国境を越えようとしているとの情報でも得たように、馬車の中まで確認し、身体検査まで行っているらしく、列は遅々として進まない。
「……あんたら、旅の人かい? どうしてもあの国に用があるんじゃなきゃ遠回りしてでも避けてった方が良いよ。あの入国審査は特に何がなくとも行われる、通常の審査なんだよ、あの国じゃ。有事の際には問答無用で素っ裸に剥かれるし、馬車は飲料水のタンクの中までチェックされる。……俺は金を貰ってもあの国の住民にはなりたくないね」
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「ああ。ある種の趣味を持つ者には楽園のような国だろうがな。うっかり嵌まり過ぎればあとは地獄へ堕ちるばかりの底無し沼みたいな国さ」
「じゃあ、おじさんは何しに行くんだよ?」
「商売だよ。……っつっても俺はただの荷運び役だがな。金のやり取りの話はウチの上のがしてるからな。俺はお得意さんに荷物届けるだけさ」
……荒れ地の多い国で、食料自給率の低い国だけに他所から食料を輸入しなければ食べていけない。
だけど、その為の外貨を稼げる魅力的な輸出品も無い国だそうで。
「だから、奴らは人を商品にして外貨を稼ぐ事にしたんだ」
「まさか……奴隷?」
「遠からず……だな。ま、行きゃ嫌でも分かるよ」
そして、ようやく私達の番が来る。
先に許可証を見せるも、けれどきっちり他の人と同様に車の中を見られ、女性は女性兵士がするとは言え体を触られての身体検査はやはり屈辱的な気分にさせられる。
「通ってよし!」
そうして門を通り、しばらく車を走らせ辿り着いた街はまるで――というか……
「花町……」
もう夕暮れ時だというのに……いや、この場合はだからこそと言うべきか。
煌々と吊るされた提灯が街を色とりどりに照らし出し、香の匂いが町の空気を支配している。
それはまるで、江戸の花町「吉原」に似た……楽園のような地獄の町の風景だった。
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