唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

国王のお仕事

あり得た過去

    「……なあ、父さんが魔王になるかもしれなかった未来って、何だ？」
    私達に仕事を振りたくて必死な神々に、カイルが静かに尋ねた。
   「それに、俺や母さんはこの世界にそっくりな設定のゲームで遊んだ事があったけど、あれは？」
    だけど、答えが返るより前に矢継ぎ早に次の質問を投げ掛ける。
   「闇ギルドに居たあいつは？」
   「……この世界は君らの居た世界よりも若い。そのせいか、たまに転移者や転生者が降ってくる。大半は善良な者だが中には悪人もいる。――どちらにせよ稀有なことではあるから、お前達は我々が召喚した。が、件の奴はとりわけ最悪な輩だったみたいだね」
    「だが、魔王クラスの厄災でないと我々は直には動けない」
    「召喚当初にここへ招く事は失敗したが、この世界になれて貰うため、地球の神と取引をして、ゲームという形でこの世界のチュートリアルを用意した」
   「未来視の神の予測した未来の幾つかを提供したのだ」
    ……あのゲームはチュートリアルだったんかい。
   「そして、レイフレッドはアンリに拾われなければ魔王と化していた。これは数ある未来視の中でもかなり有力な未来だった」
    ――うん。ゲームのモブにしちゃキャラ立ちし過ぎと思ってたけど、まさかのラスボス候補だった!?
    ……娘の結婚にメソメソ泣いて、家族大事な今の彼からは魔王なんて想像もつかないけど。
    「アンリ=カーライルが転生者でなければ、少なくともあの年、あの回の研修には参加せず、レイフレッドと会う事は無かった」
    「その後も平民ながら富豪の娘と孤児が出会う機会は無かった」
    「レイフレッドは飢えながらあの孤児院で苛められ続ける運命だった」
    「吸血鬼故に、シレイドでは仕事も見つからない」
    「果ては、奴隷落ち。でも、まともに血も吸ってないからろくに働けない」
    「見目は良いからそういう目的の奴隷として貴族に飼われる」
    「食べてないし運動してないから、母親の面影そのままなのを、祖父さんに見つかって、それを恥と怒り狂う見ず知らずの男にブチキレて、レイフレッドは魔王になった」
    「そのフラグをアンリが全部折った」
    「あるかもしれなかった未来は、アンリによって、もう絶対にありえない、もしもの過去の話になった」
    ………………。おぅふ。
    よ、良かったぁぁぁ！
    あの日あの時あの研修に興味を持った過去の私、、ＧＪグッジョブ、超ＧＪだ！
    あの時レイフレッド拾っといて本っ当ぉぉぉ～っに良かったぁぁぁ！
    そしてそれを受け入れてくれた亡きお祖父様有り難う！
     ついでにレイフレッドを引き取ることを了承してくれたお父様、有り難うございました！
     れ、レイフレッドが魔王になんかならなくて本当に良かったよぅ……(泣)