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君花2
センリ辺境伯
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センリ辺境伯領は、ドルトムント王国の国境でありながら、隣国が友好国な事もあって平和で、むしろ貿易で潤う自然豊かな領地だった。
魔獣は出るので最低限の軍備は揃えているが、ここは吸血鬼の国ドルトムント王国。辺境伯爵家も代々吸血鬼で、大半の臣下も吸血鬼。
魔獣の排除に困ることはなく、大きな問題が起こることもなく歴史を刻んでいた。
――あの日までは。
彼には一人息子が居た。……子が出来にくい吸血鬼とあって、息子と娘が一人ずつという、王のところと同じく跡取り息子は一人しか生まれなかった。
……そこはポンポン生まれるアンリとレイフレッドがおかしいのであって、その事は決して珍しい事ではなかった。
吸血鬼は基本強いし頑丈だし寿命も長い。
だから、もしもを心配した事なんて無かったのに。
しかし、息子は死んだ。
息子はある日、ドルトムント王が皇帝陛下に謁見するべく出掛けた時の供として妻と共に出掛けて行った。
……王の謁見が済んだらすぐに帰ってくるはずだったから、妊娠中の妻を連れて、子供が生まれたらしばらく縁遠くなる都会の高級店を巡って帰ってくるつもりだったらしい。
――が、皇帝から何か面倒を押し付けられたか、王は先に国に戻ったが、息子は残り、何か仕事をしていたらしい。その間に子も生まれ、幸せに暮らしていた。
だが。
事故なのか事件なのか、誰かの策略なのかは未だに分からない。……しかし、妻のパートナーに危機が迫り、それを救いに向かった夫妻は――何故か人間の国で死んだ。
……物言わぬ帰国をした息子夫婦。
しかし、生まれた筈の子の遺体はなく。子は忽然と何処かへ姿を消したまま。
おそらく死んだのだろう。
ごく最近まで、そう思っていた。
アレを見るまでは。
それは、とある浮浪児が、誰ぞに小遣いを握らされて門番に手渡した書類の束だった。そこには、行方不明だった孫の至極詳細な情報が丁寧に記載されていた。
それによると、あの日妻のパートナーを浚ったのは人身売買を主に商う賊の仕業であった事。奴らは魔族の奴隷を人間の国に売りにいく最中だった、と。
その奴隷の一人とされていたパートナーを救うべく彼女は戦った。……が。その賊が人間の賊なら楽勝であっただろうが、連中は獣人の賊であった。……故に、妻一人では不利で、息子も参戦した、と。
接戦であったが賊には勝利し、パートナーを救いだしたまでは良かった。
が、誘拐され精神的に追い詰められていた者達は、目の前で繰り広げられた凄惨な戦いの様子に恐怖し、息子達を恐れ――刺した、と。
戦いに傷ついていた息子夫婦は倒れ、パートナーが避難させるも死んだ、と。
その騒ぎの中、孫は行方不明になった……と思われていたのが、奴隷の一人と思われ一度人間の国に運ばれた。
身元の分かる者はその場で帰国させられたが、彼は誰の子でもなく、仕方なくその国の孤児院に預けられたのだと。
……彼の名は――レイフレッド。
レイフレッド・フォン・カーライル・レイリール。
魔獣は出るので最低限の軍備は揃えているが、ここは吸血鬼の国ドルトムント王国。辺境伯爵家も代々吸血鬼で、大半の臣下も吸血鬼。
魔獣の排除に困ることはなく、大きな問題が起こることもなく歴史を刻んでいた。
――あの日までは。
彼には一人息子が居た。……子が出来にくい吸血鬼とあって、息子と娘が一人ずつという、王のところと同じく跡取り息子は一人しか生まれなかった。
……そこはポンポン生まれるアンリとレイフレッドがおかしいのであって、その事は決して珍しい事ではなかった。
吸血鬼は基本強いし頑丈だし寿命も長い。
だから、もしもを心配した事なんて無かったのに。
しかし、息子は死んだ。
息子はある日、ドルトムント王が皇帝陛下に謁見するべく出掛けた時の供として妻と共に出掛けて行った。
……王の謁見が済んだらすぐに帰ってくるはずだったから、妊娠中の妻を連れて、子供が生まれたらしばらく縁遠くなる都会の高級店を巡って帰ってくるつもりだったらしい。
――が、皇帝から何か面倒を押し付けられたか、王は先に国に戻ったが、息子は残り、何か仕事をしていたらしい。その間に子も生まれ、幸せに暮らしていた。
だが。
事故なのか事件なのか、誰かの策略なのかは未だに分からない。……しかし、妻のパートナーに危機が迫り、それを救いに向かった夫妻は――何故か人間の国で死んだ。
……物言わぬ帰国をした息子夫婦。
しかし、生まれた筈の子の遺体はなく。子は忽然と何処かへ姿を消したまま。
おそらく死んだのだろう。
ごく最近まで、そう思っていた。
アレを見るまでは。
それは、とある浮浪児が、誰ぞに小遣いを握らされて門番に手渡した書類の束だった。そこには、行方不明だった孫の至極詳細な情報が丁寧に記載されていた。
それによると、あの日妻のパートナーを浚ったのは人身売買を主に商う賊の仕業であった事。奴らは魔族の奴隷を人間の国に売りにいく最中だった、と。
その奴隷の一人とされていたパートナーを救うべく彼女は戦った。……が。その賊が人間の賊なら楽勝であっただろうが、連中は獣人の賊であった。……故に、妻一人では不利で、息子も参戦した、と。
接戦であったが賊には勝利し、パートナーを救いだしたまでは良かった。
が、誘拐され精神的に追い詰められていた者達は、目の前で繰り広げられた凄惨な戦いの様子に恐怖し、息子達を恐れ――刺した、と。
戦いに傷ついていた息子夫婦は倒れ、パートナーが避難させるも死んだ、と。
その騒ぎの中、孫は行方不明になった……と思われていたのが、奴隷の一人と思われ一度人間の国に運ばれた。
身元の分かる者はその場で帰国させられたが、彼は誰の子でもなく、仕方なくその国の孤児院に預けられたのだと。
……彼の名は――レイフレッド。
レイフレッド・フォン・カーライル・レイリール。
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