唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

目指せ勝ち組！～君と歩む花道～

初心者ダンジョンの強敵

    何が居るのか。
    それを目にするより前に、開ききる前の扉の向こうから魔物のものらしい咆哮が飛んできた。
    ……攻撃ではないからダメージはない。けど、鼓膜は痛いほどに震えた。
    ゴブリン、オーク、オーガにトロールの親玉は、果たして何なのか――。
    ブン、と空を何かが切り裂く音と共に衝撃波のような空気の塊が飛んでくるのを避けながら部屋へ突入して目にしたそれは……
    「ミノタウロス……」
     トロールよりは少し小さいけれど、ムッキムキのゴリマッチョな肉体がその存在感をより大きく見せ、その手で振り回す巨大な戦斧はそれが見せかけの飾り物でないことを大いに主張している。
    そして。
    「居たわね……」
     部屋の隅でうつ伏せに倒れる二人の姿。気を失っているのか動かない。――気を失っているだけ、だよね？    死んでないよね？
    「レイフレッド、速攻かけてとっとと終わらせるよ！」
    「はいっ！」
     レイフレッドが果敢に突撃していくけど、あの巨大な戦斧に当たればレイフレッドでも大ダメージを受ける。
    それを避けながらの戦いになるのだけど、トロールと違って鍛え抜かれた身体は重くとも俊敏に動き、尚且つパワーもある。……そして肉の鎧に守られたその身体にダメージを入れるにはかなり深く切りつけないとダメージらしいダメージにならない。
    私は斧をふるう両手を落としてやろうと風刃を飛ばしてみたけど、攻撃が通りにくく、切り傷を刻んだだけで終わった。
    ……ならば、と量で勝負を挑んだけれど、全身が血塗れになっても動きを鈍らせないタフさを見せつけられただけだった。
    こんな初心者ダンジョンで、まさかの強敵だ。
    「なら。外がダメなら中から……かな。レイフレッド、一旦離れて！」
    レイフレッドに警告を放ち、私は斧を目掛けて雷撃を放った。
    ……金属製の斧だ。電気を良く通すからね。
    うん、一瞬ながら奴の動きが鈍った。そしてその一瞬を無駄にするレイフレッドじゃない。
    斧を持つ腕を切り落とし、痛みに暴れだすミノタウロスを避けてすぐさま下がる。
    叫ぶのに大きく開いた口。
   「フロス！」
    そこへフロスの毒を叩き込む。
    ……ミノタウロスは初心者にとっては絶望的な相手だけど、フロスレベルの魔物からしたら下っぱもいいところ。その毒を食らって無事で済むはずもなく。
    泡を吹いて苦しむミノタウロスに、レイフレッドが止めの一撃とばかりに脳天に刃を深々と埋め込んだ。
    ――ミノタウロスは沈黙し、やがてエフェクトを残して消えていく。
    代わりに宝箱が現れる。
    中身が何が気になるけど……今はそれよりも……
  「……大丈夫、取り敢えず息はあります」
    すぐさま駆け寄ったレイフレッドの声に一先ずホッとする。
    なら、応急処置だけ済ませてとっとと戻って後は責任者に丸投げしてしまおう。
     ……と。そう、思ったんだけどねぇ。
    「くっ、……ここは――」
     何でこのタイミングで目を覚ますんだ。面倒臭い。
     「お、お前……！    何故ここに！」
      ああ、本当に面倒臭い。
      ……ねぇ、こいつ捨ててってもいいかな？