唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

乙女ゲームの舞台で

見て見ぬふりしてきたツケ

    この弟の行動に動揺した私だったけど。
   「こらルカ、お姉様に向かって言う事ではありませんよ」
    と、すかさずお母様からチクリと注意が飛ぶ。ああ、いつかのマナー講座でのアレコレが思い出され、私が注意されたのではないにもかかわらず反射的に背筋が伸びる。
     「ですがお母様、こい……〝お姉様〟が来てからお母様もお父様も使用人達もおかしいです。皆を困らせる〝お姉様〟は悪者でしょう？」
     でも、叱られながらも納得のいかない弟――ルカ、という名前らしい彼は不満げに言った。
    「皆を困らせるのはいつも悪者で、悪者は英雄ヒーローに退治されるものでしょう？    だから、僕が悪者から皆を守るんです」
    ……うん。詳しい事情なんか分からないだろう真の五歳児にしたら、確かに私は家の雰囲気を乱す厄介者だろうね。
    男の子らしい正義感に突き動かされての行動とするならまあ可愛いものだ。
    私は仕方の無いこと、と諦めてさっさと食事を済ませて席を立とうと箸を進める速度を上げる。
    宥めすかされ席に着かされたルカは不満一杯に口を尖らせたままちびちび食事を再開した。
    「――アンリ、明日の予定はあるのかしら？」
    「いいえ、お母様。商会の通常業務については任せられる者に預けてありますし、業務の報告等はいつでも受けられる体制を整えてありますから。突破的イレギュラーな仕事トラブルが無ければこちらの件に集中出来る様に調整してありますよ」
    「では、明日は私と久しぶりにお買い物に行きましょうか。ルカも。美味しいランチとお茶も一緒にね」
    「……かしこまりました、お母様」
     お茶やランチには目を輝かせたルカは、私と一緒と知って途端に機嫌を損ねる。
    が、強引なお母様に言いくるめられ承諾させられてしまう辺りは……精神年齢は既に大人だった私よりずっと子供らしくて可愛い。
    ああ、私ももう少し実年齢の子供らしく振る舞った方が良かったんだろうか。私はつい日本人らしい癖で空気を読んで、少なくとも表向きには皆が望むような良い子で居てしまったけど……。
    いや、今さらだ。
    「ご馳走さまでした」
     途中から味も良く分からなくなった夕食を早々に終え、私は食堂を後にした。
     ああ、ウチの孤児院の子供達との関係のが実の弟との仲より良いとか……。子爵への対応に疲れたお父様がしでかした軟禁まがいの件があってついつい実家から足が遠退いたとは言え。
    ちょっと家族関係の改善について後回しにしすぎたツケを突き付けられている様で。
    「明日一日位は頑張るとしますか……」