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念願の旅路で

襲来

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    一人悶々と狭いベッドの上でうだうだし続けてしばらく。……いや、正直自分でもしばらくどころでない時間を過ごした気もするけど、それは良いとして。
    ガンッ、と体が慣性の法則でベッドから放り出されそうになる位の衝撃が予告なく全身を襲った。
    思わずタ○タニックか!?    と思うような、そんな。
    けどここは比較的暖かい川。当然氷山なんか無いし、大抵の岩は川の流れで削られそう大きな物は無いと思うんだけど……。
    しかし、この衝撃に起き出した客が騒ぎ出すより早く第二撃が船を襲い、今度は船の横っ腹に何か叩きつけられたように船体が傾ぐ。
    事故じゃない。襲撃らしいとそこで気付く。
   「レイフレッド!」
    即座にベッドから飛び降りると、こちらも既に戦闘モードのレイフレッドがベッドのカーテンを開けて出てきた。
    「海賊――いやここ川だし川賊と言った方がいいのかしら?」
    「……ヒトが操る船の攻撃、ですかね?    大砲を撃ち込まれたにしても何か妙な気がします。……それにしても。明後日――いや日付変わってるから明日ですか――には到着予定だったのに。お嬢様と居る限りは平穏という言葉とは縁がなくなるのですね」
   「う、い、言わないでよ、不吉な事を!」
   言い合いながら部屋を出て甲板へと急ぐ。
   けど、こういう場合に「お嬢様は部屋でお待ちを!」等とお約束のような台詞を言わない辺り、レイフレッドは私を理解わかってる。
    真夜中だけあって、船員も最低限の見張りと人員しか置いていなかった様で、まともな戦闘体制にを取れていないまま翻弄されていた。
    にょろにょろと気持ちの悪い動きをする何か。時折鋭く鞭のようにしなりながら打ち付けられるそれに、避けるだけで精一杯の彼らは。
   「何で!    ここは川だぞ!    いくら河口が近いからって海の沖に居るはずのクラーケンがこんなとこにいやがるんだよ!」
    そう自らの不運を嘆く悲鳴をあげていた。
    クラーケン。あのイカっぽい魔物か。……食べたら美味しいんだろうか?
    しかし、本体は暗い水の中でよく見えないけど、うねうね動く足だけで気持ち悪い。
    イカタコどちらも美味しくいただく元日本人と言えど、あんな巨大な生足が動く様は見ていて気持ち悪い。
    取り敢えずイラッとしたので雷落としてしびれさせ。周囲が水だらけなのを良いことにウォーターカッターで足を切り落とす。
    ……けどまあお約束とばかりに切り落とした端からにょろにょろとあっという間に再生されてしまう。
    あれ、食べて美味しいならステキ食材量産でウハウハなんだけど。不味いならゴミが増えるだけだよね?
    「ねぇ、レイフレッド」
    「――言っときますけど知りませんよ。と言うか、あんな気持ち悪いもの食うんですか?」
    「いや、アレはともかく普通のイカタコは美味しいんだって」
    まあ、例え美味しかったとしてもクラーケンは珍味扱いされるだろうけど。
    でも、現状はとっとと倒さないと船の方がヤバい。そして川とはいえこの規模の川で流されたら、私達はともかく大半の乗客の命は無いだろう。
    ちらりと、切り落としたまるでミズダコみたいな足を眺め、私はナメクジ退治作戦に切り替える。
    空間からありったけの塩を取り出し、風魔法のつむじ風に乗せて奴にぶつけてやる。体の大半が水で出来ていそうな奴だからこそこの攻撃は有効なはず。
    同時に炎を浴びせてやれば絞り出された水も残らず蒸発させ、焼き焦がしてやれば、何とも香ばしく食欲をそそる良い匂いが漂い始める。
    止めとばかりにレイフレッドか切りつけてやれば、パラパラとその一部を甲板に振り撒きながら、川の流れに散っていく。
    その一つをパッと掴み、試しに齧ってみる。
    「あ、美味……」
     イカというよりタコっぽい食感と味だけど、美味しい。焼いたお陰でタコせんみたい。食事には物足りないけど、おやつにはちょうど良い感じだけど……。流石に土足で歩き回る甲板に落ちた奴を拾ってまで食べたい気はしない。
    ……まあ、次に遭遇することがあったら捕まえて空間で飼おう、そうしよう。
    ……その後。
    ようやく起き出し騒ぎ出した客の前で船員絶ちに何者かと誰何され、冒険者だと答えた上に級まで明かされた私達がまるで英雄か何かのように扱われたのは――また別の話である。
    「いや、お嬢様。普通に黄金級といったら英雄クラスです」
   いや、今そういう突っ込みは要らないからね、レイフレッド!
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