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念願の旅路で

港町

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    港町、と聞いて海ではなく河川のそれを思い浮かべる人ってどのくらい居るだろう。
    川と言えば、一級河川の河口付近でもなければ、浅く狭い日本の川を見慣れた記憶のある私だけ?
    海を見たことがなくて、外国の大きな川しか見たこと無い人ならむしろこちらのが当たり前なのかもしれない。
    私はこの世界で初めての船旅をするに当たり、ようやく目指していた港町に到着した。
    まるで湾のような穏やかに波打つ川面は、私にはまるで川らしく見えないんだけど……。
    港の桟橋には何隻もの船が係留されている。
    それは、日本で川下りをするような小舟の類いなど見当たらない、一番小さくても水上バスレベル、大半は湖で見かける遊覧船位の大きさの船。大きいものは中型のフェリーサイズまである。
    私達が乗る船が出るのは明後日だから、あの中に私達の乗る船は無いはずだけど……。
   「ああ、そのものズバリではないですけど、あの一番大きな船とほぼ同型の船のはずですよ」
   ――だそうだ。
   「ベネシーまで一週間は船の旅が続きます。……安い船だと男女関係なく雑魚寝が普通です。お金に余裕があるんですから、個室のある船を使いましょう」
    私は子供だし、女として男に襲われるとはあまり思わないけど、子供だからこそなめられてチンピラ紛いに絡まれる可能性はある。
   「そうね。でも、それより今はお腹も空いたしご飯にしましょう。ここのところ肉ばかりで……美味しいけど、久々にお魚が食べたいわ」
   「ええ。この街はヤツメという魚が特産だそうですよ」
    そう、先程から私の食欲を刺激し続けるこの良い匂い……。
    和食のある世界だけど、日本みたく鮮度を保ったまま食材を輸送する技術が発達してないから、食べたくても食べられなかったあの魅惑の食べ物。
    「ええ。今日はお財布気にせず食べるわよ!」
    黒くて長くてにょろにょろした、アレ。
    開いて蒸して焼いて、タレに付けて蒲焼きにしてご飯の上にのせて食べる、アレ。
    うなぎ尽くしの夕飯に舌鼓を打つ様を思い浮かべるだけで腹が鳴る。
    うな重は鉄板として、うざくに白焼き……。
    他、川魚グルメを二日かけて堪能しつつ、うなぎの定期購入契約を取り付けて。
    あっという間に出港日を迎えた。
    流石に個室二つはとれず、二段ベッドのある二人部屋を一つ確保して荷物を下ろす。
    「力及ばず、申し訳ありません……」
    「ここが始発の船ならともかく、ここも寄港地の一つなんじゃ仕方ないでしょ。と言うか、レイフレッドとこういう部屋で一緒って、あの研修以来じゃない?」 
    レイフレッドと初対面だったあの頃と比べて随分と背も延び逞しくなったレイフレッドは。
    「……忘れて下さい、あんな黒歴史!」
    赤くなって叫んだ。
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