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念願の旅路で

カジノの街

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    この世界に電飾なんて物は存在しないから、実際の見た目はギラギラネオンのラスベガスよりは提灯明かりの江戸時代頃の日本の歓楽街のイメージに似ているけれど、街の方向性はかつての吉原とか今の歌舞伎町ではなく、ラスベガスで正しい。
    いかがわしい大人の夜のお楽しみではなく、金が舞い踊るスリル満点の娯楽、カジノの街。
    競馬からルーレットまで賭け事を絡めた競技や遊びが揃い、宿や街をめぐる公営の馬車も充実している。
    どうやらこの辺りの住民は皆普段は真面目に質素に暮らしているけれど、遊ぶ時はぱーっと景気良く豪快に遊ぶタイプの者達らしい。
    あちらこちらから大勝に騒ぐ声や大負けした絶望の叫びが聞こえて賑やかな街だけど……。
    これ、どう見ても子供の情操教育によろしくないことこの上ない。
    「……行こう、レイフレッド。ここは私達が足を踏み入れてはいけない街よ」
    こういうの、一度深みにはまったらもう抜け出せないんだよ。
    私は今夜も空間の屋敷で休むつもりで、今入ってきたばかりの門とはちょうど街の反対側の門を目指して目抜通りの石畳と馬車の車輪とでカタコトカタコトとリズミカルな音と共に駆ける。
    ――けど。
    ……レイフレッドの言葉が言霊となって実現してしまったとは考えたくないけど。
    まるで行く先々で事件が発生する探偵小説の主人公の様に、どうやらトラブルとは切っても切れない運命にあるらしい。
    馬車、と都合上呼んではいるけれど、私達の車を引くのはリルフィ。ただグリフィン車とは呼びにくいから馬車と言っているけれど、馬に引かせた本当の馬車に比べてとても目立つ。
    ちゃんと冒険者ギルドの従魔契約済みの証明のメダルを下げているから門で咎められた事はなかったんだけど……ね。
    「止まれ!」
     突然路地裏の様な目立たない横道からわらわらと湧いてきた子供達が揃って馬車の前に立ち塞がる。
    「危ない!」
    スピードを出していた訳じゃないけど、リルフィだって急には止まれない。
    子供達を轢いてしまいそうで私は思わず手綱を握りながら青ざめた。
    「リルフィ、飛んで!    フロス、糸で車を止めて!」
    とっさの判断でフロスを召喚し、糸で無理矢理慣性の法則をひっくり返させる。
    リルフィには勢いを空中に放ち、何とか間に合わさせる。
    それでも間一髪、子供の無事が確認出来るまでは私の方が生きた心地がしなかった。
    「何考えてるの!    危ないじゃない!」
    だから当然、私はまず子供達を叱り飛ばしたんだけど。
    「そいつらは捨て駒だよ」
     ――子供達が出てきたのと同じ道から今度は棒切れやらなにやらお粗末な武器代わりのあれこれを手にしたチンピラが表れた。
    「ククッ、今日はついてるぜ。お嬢ちゃん一人に男のガキ一人か。――さあ、痛い目みたくなきゃ車と金目の物置いて消えろ」
    ……はい。どうやら強盗の様ですね。
    「――フロス」
    しかし彼らの目は節穴なんでしょうかね?    あっという間にフロスに糸です巻きにされたみのむしがごろごろと転がったけど……。
    「――それで?    何だったかしら?」
     そんな彼らを見下ろし微笑めば。
     「す、すいやせんでしたー!」
     耳障りな男たちの声が合わさった謝罪が通りに響いたのだった。
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