上 下
108 / 370
念願の旅路で

儀式

しおりを挟む
    実は、この為に作ったのは封印人形だけじゃない。
    かつて神子を奉った記録に倣い、神子のご機嫌を取るために用意した魔道具を次々に取り出し設置していく。
    まずは音楽。
    ……日本の録音機を参考に作った物に、シリカさん協力のもと、王家お抱えの楽士達が練習に奏でているのをってきた物を流す。
    次いで、これもシリカさん協力のもと、王家お抱えの踊り子の練習風景を録画機で録り、複数の映写機でホログラムを映し出す。その上で、そっと供え物を並べる。
    「え、今日はこれでおしまいなんですか?」
    「ええ、あまり性急に事を運びすぎるのは危険だもの。少なくとも三日、出来れば七日は様子見をしたいわ」
    供え物と、魔道具に魔力の補充だけして、神子に私達の存在に慣れて貰う。
    ぼーっとしながらも、神子は群舞にその虚ろな目を向けたまま視線を動かすことがない。
    供物も私達が居ない隙に減っている。
    ――三日後。供物に例の人形魔術具そっくりのただの人形を並べる。
     けど、それはただの人形ではない。封印人形とは別の魔術具だ。
    翌日四日目、離れたところからそろそろと人形を動かす。
    ……つまり魔術具のラジコンなんだ、あの人形。けど、この短期間であの人形を二足歩行させるまでには至れなかったから、大変不本意ながら、あれはおもちゃ屋で無意味にシンバルを叩く猿のぬいぐるみや腰振りダンスしか能のないちゃっちいおもちゃレベルの動きしか出来ない。
    でも、音を出して動くから、神子の気は引ける。
    最初は控えめに、様子を見ながら。
    でも少しずつ派手に。
    群舞よりお気に召したら、ゆっくり這わせて――仕方ないでしょ、歩けないなら這わせば良いのよ!    ……こほん。まあそうして神子を誘導する。
     その先に、本命の魔道具を持たせたレイフレッドを待たせて。
    最後だけ全力で這わせて神子の視界から一瞬消えさせ、レイフレッドに回収させ隠す。
    代わりに本命の魔道具を神子に差し出し――受け取れば。
    透き通ったその手が魔道具に触れると、するすると魔道具にその姿が吸い込まれていく。
    ――ここまでは成功した。
    後は……私の魔道具の出来次第だ。
    「――魔道具、ウンともスンとも言わないのですけど」
    「ええ、神子の意識を馴染ませるのに少し時間がかかるの。元々薄弱な意識を力と離して定着させて、人形を上手く動かせるようになるまで、魔術具が耐えられれば第一段階は成功よ」
    人形が着る服のボタンの色が赤から青に変われば、後は……。
    「第二段階。神子に名前を付けて、ゆっくり自我を育てて……いつか契約できたら第三段階終了で、今回の作戦は完了。――第二段階以降は年単位の長期計画よ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処理中です...