89 / 370
雌伏の時
外堀が埋められてます……?
しおりを挟む
その日。わざわざギルマスが馬車を出して城まで送ってくれた。
――助かった。
正式な召喚状があるとは言え、こちらは知らない人が見たらただの子供にしか見えないからね。
獣人じゃないから目立つけど、いきなり門の前で「通してくれ」と言って通じるか不安だったし。
ただ、ギルマスの送迎も城の内門までだそうで。
城壁の門を越した先の城への入り口前の馬車停まりで降ろされる。
そこには既に案内人の侍従が待っていた。
「我らが主がお待ちでございます」
案内される場内は、外見同様に武骨そのもの。
お祖父様のところの職人ギルドの様な無節操さや汚れはなく、掃除は徹底されているし、装飾用の垂れ幕や武器が飾られていたりもする。
けれど、ブロックがむき出しの灰色メインの廊下は、あの豪華絢爛な魔王城とは真逆。
……シンプル・イズ・ザ・ベストとはいえ、ここまで武骨なのもどうかと思うのよね。
まあ金キラよりは落ち着くけど、ルクスドのあの洞窟部屋みたいなロマンは削ぎ落とされた、軍のような硬質すぎる空気も感じる。
やがて案内された謁見の間への扉もまた飾り気の無い、金属の鋲を沢山打ち付けたアーチ型の重そうな物。
そしてその扉を開けた先の玉座に座る皇帝は――
「待ちわびたぞ?」
扇で口許を隠しながら目元を緩める――周囲の武骨さが似合わぬ美女。
黄金の毛皮と細い鼻筋のライン、艶かしいボンキュッボン。ふっさふさの尻尾。
……うん、政界なんて狐狸妖怪ばかりと言うけど……そうか、獣人の国じゃ比喩にならないのか。
にしてもまさか女帝とは。
「冒険者としてのそなた達の働き、まっこと素晴らしきと聞き及ぶ。大義であった」
「――お褒めの言葉、ありがたく受け取らせていただきます」
「うむ。しかし今日呼んだのは冒険者としてのそなたたちではなく、商売人――或いは職人としてのそなたらじゃ」
パチンと扇が閉じられ、こちらへ先が向く。
「我が国にも、是非配備したいと思うてのぅ。詳しい話は既に商業ギルドに通してある故にそちらで聞くが良い――が、もう一つ話があってのぅ」
うっそり微笑む姿はまさに妖艶という言葉がよく似合う。――ケモミミもふもふさんなのに……村の子猫獣人の純朴な愛らしさなんか欠片も感じない代わりに、食事とは別の意味で食われそうな……。
「先に聞いておるだろう、魔王陛下の詫びの話じゃ」
――来た。
果たして何を言われるんだろう?
「此度の注文品を無事納品できたなら、我が帝国は――アンリ=カーライルには我が国の永住権及び我が帝国傘下の国全てに於いて有効な通行証と営業許可権を。レイフレッドには男爵位と、そなたらが掃除しよった一帯を、そなたの成人を待って授ける」
「……それは! 既に魔王陛下から――」
「分かっておる、それを聞いたからこその話じゃ。既にあちらとの協議も済んだ上での話じゃ」
曰く。
あの土地は古くからの緩衝地帯。
豊かな土地であるのに、小競り合いを怖れてそこを統べようとするものはなく、故に獣や魔物の類いの問題も起こりやすい。
故に。
二国間で協議し、互いに領土を割譲して両国の爵位を与えた者に任せて中立領を置く事にしたと。
けどそんな面倒を引き受けたがる者はほぼ口ばかりの無能ばかり。
そんな時に白羽の矢が立ったのが私達だと。
「理想を言えば人間の皇帝も協力してくれるのが望ましいが……まあ今のところ色好い返事はないのでの。まあ、そう言う事じゃ」
にっこり微笑まれたけど。
女狐様の微笑み、恐いです……。
――助かった。
正式な召喚状があるとは言え、こちらは知らない人が見たらただの子供にしか見えないからね。
獣人じゃないから目立つけど、いきなり門の前で「通してくれ」と言って通じるか不安だったし。
ただ、ギルマスの送迎も城の内門までだそうで。
城壁の門を越した先の城への入り口前の馬車停まりで降ろされる。
そこには既に案内人の侍従が待っていた。
「我らが主がお待ちでございます」
案内される場内は、外見同様に武骨そのもの。
お祖父様のところの職人ギルドの様な無節操さや汚れはなく、掃除は徹底されているし、装飾用の垂れ幕や武器が飾られていたりもする。
けれど、ブロックがむき出しの灰色メインの廊下は、あの豪華絢爛な魔王城とは真逆。
……シンプル・イズ・ザ・ベストとはいえ、ここまで武骨なのもどうかと思うのよね。
まあ金キラよりは落ち着くけど、ルクスドのあの洞窟部屋みたいなロマンは削ぎ落とされた、軍のような硬質すぎる空気も感じる。
やがて案内された謁見の間への扉もまた飾り気の無い、金属の鋲を沢山打ち付けたアーチ型の重そうな物。
そしてその扉を開けた先の玉座に座る皇帝は――
「待ちわびたぞ?」
扇で口許を隠しながら目元を緩める――周囲の武骨さが似合わぬ美女。
黄金の毛皮と細い鼻筋のライン、艶かしいボンキュッボン。ふっさふさの尻尾。
……うん、政界なんて狐狸妖怪ばかりと言うけど……そうか、獣人の国じゃ比喩にならないのか。
にしてもまさか女帝とは。
「冒険者としてのそなた達の働き、まっこと素晴らしきと聞き及ぶ。大義であった」
「――お褒めの言葉、ありがたく受け取らせていただきます」
「うむ。しかし今日呼んだのは冒険者としてのそなたたちではなく、商売人――或いは職人としてのそなたらじゃ」
パチンと扇が閉じられ、こちらへ先が向く。
「我が国にも、是非配備したいと思うてのぅ。詳しい話は既に商業ギルドに通してある故にそちらで聞くが良い――が、もう一つ話があってのぅ」
うっそり微笑む姿はまさに妖艶という言葉がよく似合う。――ケモミミもふもふさんなのに……村の子猫獣人の純朴な愛らしさなんか欠片も感じない代わりに、食事とは別の意味で食われそうな……。
「先に聞いておるだろう、魔王陛下の詫びの話じゃ」
――来た。
果たして何を言われるんだろう?
「此度の注文品を無事納品できたなら、我が帝国は――アンリ=カーライルには我が国の永住権及び我が帝国傘下の国全てに於いて有効な通行証と営業許可権を。レイフレッドには男爵位と、そなたらが掃除しよった一帯を、そなたの成人を待って授ける」
「……それは! 既に魔王陛下から――」
「分かっておる、それを聞いたからこその話じゃ。既にあちらとの協議も済んだ上での話じゃ」
曰く。
あの土地は古くからの緩衝地帯。
豊かな土地であるのに、小競り合いを怖れてそこを統べようとするものはなく、故に獣や魔物の類いの問題も起こりやすい。
故に。
二国間で協議し、互いに領土を割譲して両国の爵位を与えた者に任せて中立領を置く事にしたと。
けどそんな面倒を引き受けたがる者はほぼ口ばかりの無能ばかり。
そんな時に白羽の矢が立ったのが私達だと。
「理想を言えば人間の皇帝も協力してくれるのが望ましいが……まあ今のところ色好い返事はないのでの。まあ、そう言う事じゃ」
にっこり微笑まれたけど。
女狐様の微笑み、恐いです……。
0
お気に入りに追加
1,080
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる