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雌伏の時
乗り越えるべき壁
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「ああ、捕縛で済ませるつもりの甘ちゃんなら止めとけ。殺すつもりでかかった上で余裕あっての捕縛決着はアリだが、殺す覚悟がなくて捕縛で済まそうと軽く考えて任務失敗ってのが護衛依頼の最悪パターンだ。だからこそ賊討伐での人殺しは罪に問われないってのが国際常識なんだからな」
……スコットさんの言い様は、嫌みったらしいけど。
平和ボケした元日本人としては非日常で、人殺しは最悪な犯罪と刷り込まれちゃってるけど。
この世界の賊は殺してでも奪った者勝ちで、殺らなきゃ殺られるだけ。
皆それを知っているから、相手が賊なら殺しても犯罪にならないどころか、賞金首なんてのも居る世界。
逆にいかに無傷で捕縛しようとも、賊は問答無用で死刑になる世界だ。――直に手を下さずとも結局は殺される。
だから。
その覚悟が出来るか否かで一般レベルの鉄級とベテランレベルの銅級との差が生まれる。
「お嬢ちゃん、天狗どもに絡まれて大蜘蛛倒した時、覚悟がないと言ってなかったっけ?」
……うん、言った。
そりゃそうだ、18年生きた前世の記憶に刷り込まれた倫理観を、こちらの世界でまともに自我を持ってからまだ4年しか経ってなくて、それで簡単に割りきれるはずがない。
けど、この依頼を引き受けるなら覚悟しなくちゃならないし、ギルマスが銀級に在るのが望ましいとするなら、いつまでも鉄級に甘んじるのは要らぬトラブルを誘引する。嫌なら冒険者なんか辞めちまえという話にもなるだろう。
「……するわよ、覚悟。成り行きで乗り掛かった船だけど、手をかけた以上はしがみついてでも最後まで降りる気はないもの」
せめて、現場で怯まない程度の覚悟はしなければ、仲間を危険に晒してしまう。
「ほーん。んならその言葉、信じまっせ?」
もしも現場でダメになったら容赦なく切り捨てる。
そう言われている様で。
「ええ」
私は翌日の暇な時間全てを自分の考えを改める努力に費やした。
そして。
「おやおや、そちらにも籍が在るのは存じておりましたし、そうした者も少なくありませんから敢えて突っ込みはしませんでしたが……」
当日ギルドに顔を出した私は即ギルマスの部屋に引っ張られた。
「の、納品はちゃんとしますよ、ほらこれ前倒し分です」
「できれば他に回す時間があるなら納品数増やせと言いたい所ですが……流石にその歳での学習機会を大人都合で取り上げるのは良心が咎めるので目はつぶりますが、元の仕事は滞らせないで下さいよ」
「あ、はい。それは勿論」
「では、荷馬車は既に下に仕度してあります。ロビーで顔合わせを済ませたらすぐロープウェイで降りて出発して下さい」
御者と荷運び役合わせて六人、馬車二台を護衛して近隣の支所巡り一週間の旅が、始まった。
……スコットさんの言い様は、嫌みったらしいけど。
平和ボケした元日本人としては非日常で、人殺しは最悪な犯罪と刷り込まれちゃってるけど。
この世界の賊は殺してでも奪った者勝ちで、殺らなきゃ殺られるだけ。
皆それを知っているから、相手が賊なら殺しても犯罪にならないどころか、賞金首なんてのも居る世界。
逆にいかに無傷で捕縛しようとも、賊は問答無用で死刑になる世界だ。――直に手を下さずとも結局は殺される。
だから。
その覚悟が出来るか否かで一般レベルの鉄級とベテランレベルの銅級との差が生まれる。
「お嬢ちゃん、天狗どもに絡まれて大蜘蛛倒した時、覚悟がないと言ってなかったっけ?」
……うん、言った。
そりゃそうだ、18年生きた前世の記憶に刷り込まれた倫理観を、こちらの世界でまともに自我を持ってからまだ4年しか経ってなくて、それで簡単に割りきれるはずがない。
けど、この依頼を引き受けるなら覚悟しなくちゃならないし、ギルマスが銀級に在るのが望ましいとするなら、いつまでも鉄級に甘んじるのは要らぬトラブルを誘引する。嫌なら冒険者なんか辞めちまえという話にもなるだろう。
「……するわよ、覚悟。成り行きで乗り掛かった船だけど、手をかけた以上はしがみついてでも最後まで降りる気はないもの」
せめて、現場で怯まない程度の覚悟はしなければ、仲間を危険に晒してしまう。
「ほーん。んならその言葉、信じまっせ?」
もしも現場でダメになったら容赦なく切り捨てる。
そう言われている様で。
「ええ」
私は翌日の暇な時間全てを自分の考えを改める努力に費やした。
そして。
「おやおや、そちらにも籍が在るのは存じておりましたし、そうした者も少なくありませんから敢えて突っ込みはしませんでしたが……」
当日ギルドに顔を出した私は即ギルマスの部屋に引っ張られた。
「の、納品はちゃんとしますよ、ほらこれ前倒し分です」
「できれば他に回す時間があるなら納品数増やせと言いたい所ですが……流石にその歳での学習機会を大人都合で取り上げるのは良心が咎めるので目はつぶりますが、元の仕事は滞らせないで下さいよ」
「あ、はい。それは勿論」
「では、荷馬車は既に下に仕度してあります。ロビーで顔合わせを済ませたらすぐロープウェイで降りて出発して下さい」
御者と荷運び役合わせて六人、馬車二台を護衛して近隣の支所巡り一週間の旅が、始まった。
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