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雌伏の時
切り札の正体は
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あの日。
私がお祖父様達に渡し、そこから各ギルド長へ流れていったそれの情報は。
ただの冷蔵庫や冷暖房であれだけ稼げたのだからと作った物。
それは――携帯電話。
――スマホではなく携帯電話だ。
あくまで電話機能だけで、メールもナシ、スカイプみたいなテレビ電話的なものもナシ。
筐体は、二つ折りガラケーを参考にした形状で、全てにシリアルコードを振ってある。
これと神眼石とを紐付けることで個を確立している。
……通信機能としては電話だけながら、電話帳機能はつけているから、互いの端末を登録すれば、其の相手と会話が出来る。同時に複数人とつないで電話会議が可能。
これまで最速とされていた通信手段が早馬か、鳩や鷹を使ってのものだったのだから、彼らにとっては青天の霹靂。
それに、今回の事で私を調べたならば、私がルクスドにも伝があると知ったはず。
これだけ美味しい案件を続けて他所に持ち込まれては堪らない――と言うかもう喉から手が出る程欲しい物を前にして、彼らが見過ごす訳がない。
――からこそ。
「その商品、どうか我がギルドにお預け下さい!」
「いやいや、その術式情報を是非我がギルドに登録して下られ!」
「アンリや、お祖父様は鼻が高いぞ。しかし、あまりに忙しくしては遊ぶ時間も無くなろう? 術式の仕掛けはアンリでなければ出来ないだろうが、外の箱なら作れる職人は居るだろう。彼らに任せる気はないか?」
対してお父様は彼らが何に対してそんなに興奮しているのか分からず困惑していたけど、流石にそこは大商会の会頭。
「皆さん、一先ずお茶でも飲んで落ち着いてお話し合いを致しましょう」
秘書に茶の支度を頼む。
……マナーとして、目の前に出されたお茶に口を付けない訳にはいかないおっさんたちは必然的に一時口を封じられて黙る。
「どうしてもアンリと話す必要があると皆様が口を揃えて仰るのでこの度場をもうけましたが、アンリはこの通り、先月五歳になったばかりの子供です。まだ成人にも遠い、学生ですらない娘の保護者である私にも分かるようお話しいただけませんか」
その隙にぎっちり釘を刺したお父様が営業スマイルを浮かべる。
「娘は、子爵様のご子息への嫁入りが決まっている身。何かあれば大事になるのは皆様ならよくお分かりいただけますでしょう?」
「だがな、これはその話をいずれアンリが自力ではねのける可能性を秘めておる。――頭では仕方のない事と思いながらも、アンリの事を思えばとても祝福など出来ん。……アンリには幸せになって欲しい」
お祖父様が、コツンとそれらをテーブルに出して置いた。
「これは、私とユリスの旦那に譲られた物で、片方はユリスの旦那に借りて来た物だ。――奴はこれ見て目の色を変えとったぞ。食い物以外でユリスの旦那のあんな顔を見たのは初めてだったよ」
「……ええ、それについては私も同感でございます」
お祖父様に商業ギルドのギルマスが頭痛を堪える仕草をしつつ同意した。
「これはカーライル商会で売るのか、商業ギルドで売るのかすごい剣幕で尋ねられました」
「……これはアンリ殿が開発されたもので、出来れば先の冷蔵庫と冷暖房用の魔道具と一緒にギルドで販売管理をしたいと思っていましてね、今日はその交渉に参ったのです。……ここで交渉をしくじりルクスド支部に持っていかれれば、私は降格処分、我が支部はシレイド国内での評価が下がり、予算も減らされるでしょうね。……ちなみにルクスド支部は元々大陸規模でも評価が高く、ギルマスの給料も破格と噂ですが――ゲフン、ここのところ最早他の追随を許さず一人勝ちを極めており、隣国の評価ごと上がっています」
「こちらもですぞ! その商品に使われた術式は全てルクスド支部に提出されたもの。ここで使うには使用料が余分にかかる! しかもお金をかけてそれを使おうにも術式が難解過ぎて、真似が出来ない代物で。我が支部にてそれの術式の登録をしていただければ、評価はグンと上がること間違いナシにございます!」
「この二人にこれだけ言わせるだけの才がアンリにはある。むざむざ貴族にやって駄目にされちまうには惜しい人材だ。……もしも他のお貴族様にもそう思わせる事が出来れば――」
「いやいやいやいや、この孫バカはまだ真価が分かっていない! これだから職人ギルドの脳筋は! 良いですか、これもとんでもない魔道具ですが、既に売り出されている二つの魔道具が今、どこの支部にも納品されなくなったら、世界中のお貴族様含めた金持ち連中が怒り狂いますよ! その原因がウチの国と知れれば、お貴族様と言えど貧乏子爵家ごとき、もっと上の爵位を持つお貴族様に跡形もなく吹き飛ばされますッ!」
「の、脳筋とはなんだッ!」
「だから。最低でも彼女の行動の自由、もしくは身柄の保護をお願いしたくて参ったのですよ」
……あちらも年期の入った営業スマイルを浮かべる。
――さあ、狐と狸、その他応援団との交渉が始まる。
私がお祖父様達に渡し、そこから各ギルド長へ流れていったそれの情報は。
ただの冷蔵庫や冷暖房であれだけ稼げたのだからと作った物。
それは――携帯電話。
――スマホではなく携帯電話だ。
あくまで電話機能だけで、メールもナシ、スカイプみたいなテレビ電話的なものもナシ。
筐体は、二つ折りガラケーを参考にした形状で、全てにシリアルコードを振ってある。
これと神眼石とを紐付けることで個を確立している。
……通信機能としては電話だけながら、電話帳機能はつけているから、互いの端末を登録すれば、其の相手と会話が出来る。同時に複数人とつないで電話会議が可能。
これまで最速とされていた通信手段が早馬か、鳩や鷹を使ってのものだったのだから、彼らにとっては青天の霹靂。
それに、今回の事で私を調べたならば、私がルクスドにも伝があると知ったはず。
これだけ美味しい案件を続けて他所に持ち込まれては堪らない――と言うかもう喉から手が出る程欲しい物を前にして、彼らが見過ごす訳がない。
――からこそ。
「その商品、どうか我がギルドにお預け下さい!」
「いやいや、その術式情報を是非我がギルドに登録して下られ!」
「アンリや、お祖父様は鼻が高いぞ。しかし、あまりに忙しくしては遊ぶ時間も無くなろう? 術式の仕掛けはアンリでなければ出来ないだろうが、外の箱なら作れる職人は居るだろう。彼らに任せる気はないか?」
対してお父様は彼らが何に対してそんなに興奮しているのか分からず困惑していたけど、流石にそこは大商会の会頭。
「皆さん、一先ずお茶でも飲んで落ち着いてお話し合いを致しましょう」
秘書に茶の支度を頼む。
……マナーとして、目の前に出されたお茶に口を付けない訳にはいかないおっさんたちは必然的に一時口を封じられて黙る。
「どうしてもアンリと話す必要があると皆様が口を揃えて仰るのでこの度場をもうけましたが、アンリはこの通り、先月五歳になったばかりの子供です。まだ成人にも遠い、学生ですらない娘の保護者である私にも分かるようお話しいただけませんか」
その隙にぎっちり釘を刺したお父様が営業スマイルを浮かべる。
「娘は、子爵様のご子息への嫁入りが決まっている身。何かあれば大事になるのは皆様ならよくお分かりいただけますでしょう?」
「だがな、これはその話をいずれアンリが自力ではねのける可能性を秘めておる。――頭では仕方のない事と思いながらも、アンリの事を思えばとても祝福など出来ん。……アンリには幸せになって欲しい」
お祖父様が、コツンとそれらをテーブルに出して置いた。
「これは、私とユリスの旦那に譲られた物で、片方はユリスの旦那に借りて来た物だ。――奴はこれ見て目の色を変えとったぞ。食い物以外でユリスの旦那のあんな顔を見たのは初めてだったよ」
「……ええ、それについては私も同感でございます」
お祖父様に商業ギルドのギルマスが頭痛を堪える仕草をしつつ同意した。
「これはカーライル商会で売るのか、商業ギルドで売るのかすごい剣幕で尋ねられました」
「……これはアンリ殿が開発されたもので、出来れば先の冷蔵庫と冷暖房用の魔道具と一緒にギルドで販売管理をしたいと思っていましてね、今日はその交渉に参ったのです。……ここで交渉をしくじりルクスド支部に持っていかれれば、私は降格処分、我が支部はシレイド国内での評価が下がり、予算も減らされるでしょうね。……ちなみにルクスド支部は元々大陸規模でも評価が高く、ギルマスの給料も破格と噂ですが――ゲフン、ここのところ最早他の追随を許さず一人勝ちを極めており、隣国の評価ごと上がっています」
「こちらもですぞ! その商品に使われた術式は全てルクスド支部に提出されたもの。ここで使うには使用料が余分にかかる! しかもお金をかけてそれを使おうにも術式が難解過ぎて、真似が出来ない代物で。我が支部にてそれの術式の登録をしていただければ、評価はグンと上がること間違いナシにございます!」
「この二人にこれだけ言わせるだけの才がアンリにはある。むざむざ貴族にやって駄目にされちまうには惜しい人材だ。……もしも他のお貴族様にもそう思わせる事が出来れば――」
「いやいやいやいや、この孫バカはまだ真価が分かっていない! これだから職人ギルドの脳筋は! 良いですか、これもとんでもない魔道具ですが、既に売り出されている二つの魔道具が今、どこの支部にも納品されなくなったら、世界中のお貴族様含めた金持ち連中が怒り狂いますよ! その原因がウチの国と知れれば、お貴族様と言えど貧乏子爵家ごとき、もっと上の爵位を持つお貴族様に跡形もなく吹き飛ばされますッ!」
「の、脳筋とはなんだッ!」
「だから。最低でも彼女の行動の自由、もしくは身柄の保護をお願いしたくて参ったのですよ」
……あちらも年期の入った営業スマイルを浮かべる。
――さあ、狐と狸、その他応援団との交渉が始まる。
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