上 下
60 / 370
吸血鬼と一緒に。

裁定

しおりを挟む
    「まずはアンリ嬢、――そなたは無罪であると認め、また我が王家の不手際で大変な迷惑をかけた件については後日改めて詫びる事とする。また、当人であるレイフレッドはこの場に居らぬが同様に無罪かつ詫びについても一考するものとする」
    ――まあ当然の結果だけど、権力で捩じ伏せられたりする可能性もあったことを考えればホッとした。

    「次にサム、そなたには正しく情報が伝わっていなかったという点で情状酌量の余地はある故に罪人として罰を与える事はせぬ。が、客人を子供と思ってその主張に真剣に耳を傾けず疎かにし、ただ盲目に上司のイエスマンになるだけの使用人では城仕えには向かぬ。――よってお前は解雇処分とする」
    「……は。……申し訳、ありませんでした!」
    涙を流して踞るサムさん。……罪には問われずとも、城仕えなんてステータスを捨てて新しい仕事を探さなきゃいけない。しかも今回の件の話もついて回るだろうし、何かと苦労が絶えない未来が予想できる。
    「…………。」

    「続いてユーリ。そなたには誤った情報が与えられた件が、サム同様情状酌量の余地となるかどうか一考はした。……しかし、客人の主張を蔑ろにし、自らの考えを強引に押し付けた結果多大な損害を出した。またサムの上司の立場にある事からも、情状酌量の余地はあれどサムのように完全に無罪放免とは言えぬ。故に、当分の謹慎と降格及び減棒処分の上、今回破損した客室の修繕費分を罰金として支払うように命じる。謹慎期間と減棒の額面、降格後の役職については追って沙汰する故そのつもりで待て」

    そして、連れられていった文官さんはこれからの審問次第で改めて審判を下すらしい。

    「――では、これにて本日の審議を終了する」

    まず王と王妃が退室し、兵達が実行犯の使用人を連れて退室していく。

    「アンリ、今度こそ何事も無いように、今日は私の宮の部屋を使って欲しい。……顔色がとにかく悪い。まずはゆっくり休め」
    ひょい、と吸血鬼ならではの腕力で私を抱えあげ、背中をぽんぽんと……ああ、ただでさえもう気力だけで立ってたのに……ね、眠くて……ふっつりと私の意識は途切れ、闇の中へと誘われてしまったのだった。


    「……兄上――いえ、王太子殿下。あの文官、確かかつて王太子付きの文官見習いをしていませんでしたか?」
    「さあ、どうだったかな?    いつも世話になってる者達ならともかく、何年も前の見習い風情まで覚えていると思うのかい?」
    「……王太子ともあろう御方が、足元を疎かにするといずれ足をすくわれますよ」
    「ははは、君がそれを言うと皮肉なものだね、シリカ。底辺生まれには所詮高貴な者の生き方等到底理解できまい。君こそいずれ出過ぎた杭の頭を打たれて折れないよう気を付けたらいいよ」
    あはははは、と無邪気なようでいて狂気を孕んだ高笑いをしながら彼もまた退室し、部屋には気を失ったアンリを抱えたシリカとマスコットなスコットだけが残された。

    「まさか帰って来た初日に命の危機に見舞われるとは。……相変わらずだねぇ、あの御方も」
    「……やったのは彼なんだろうが、この子らが巻き込まれたのは安易にここまで連れてきちまった上、配慮不足だった私の責任だね。にしても大したもんだよこの娘は。不可能と言われていた事を、土壇場で可能にしちまうんだから」
    「坊っちゃんの方は後で盛大に落ち込みそうだけどな。……今後あの坊っちゃんの目の前で嬢ちゃんにつまらんちょっかいかけたヤツは軒並み坊っちゃんに殺されるだろーな。……そのうちこの嬢ちゃんの婚約者っつう野郎がどっかで変死体で見つかっても俺は驚かねーぞ」
    「……流石に人間の国にまでは手を回せないが――この国の中なら伝はいくらでもある。この子達は何を選び何を望むだろうね?」
     「取り敢えず『フツーの選択』はしないだろうと思うよ。どう考えても大人の背に隠れて守られながら手を引いて貰うのを良しとする子じゃないんだからさ」
    スコットか肩を竦める。
     「後ろであの子達が何をするのか見守って、なにか間違えたら叱って、困ったらフォローして、迷ったら選択肢を示してやる。それで良いんじゃないの?」
    「……そうか。そうだな。――今回の件ではスコット、お前にも負担をかけた。お前も疲れているのだろう?    お前の部屋も用意したから休め。それと、お前も今回の件での詫びに何でも良いから一つ望みを言え。王本人が提案したこの子達の詫びには及ばずとも、私に出来る事なら何でもしよう」
    「……それは。シリカに今の身分を捨てろと願っても良いのか?」
     「それがどういう意図なのか。私が納得できる理由なのだとしたら……いいよ」
    「じゃあ、後で。……こんな場で話すことでもないしな。まずは嬢ちゃんをベッドに放り込んでくるのが先だろ?」
    「……そうだな」

    そして、誰も居なくなったはずの謁見室で。

    「クックックッ、成る程これは愉快な娘ぞ。……吸血鬼だけに独占されるのは面白くないの。さて、あれを呼び寄せるならどのような餌が有効かの?」
    誰の姿もないのに。
    声だけが響き、笑い声のエコーがわんわんと残り続けた――。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。 (全32章です)

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...