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吸血鬼と一緒に。

王への抗議

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    そこは、おそらく王城の車止め。馬をはずした馬車が、ガレージのような小屋に何台も横に並べて停められている。
    ……城の方が騒がしい分、余計にここらの静けさが強調される。

    これからの展開次第を考え、私は念のためその場で馬車を空間の中へ移して回収する。
    そして――

    火魔法で空気を暖め。
    水魔法で空気を冷やし。
    その温度差から風の流れを作り出して足元を固め――空気を踏み台に階段を上がるように、今一番騒がしい辺りへと宙を歩いて向かう。

    レイフレッドや人間の国で暮らしていたシリカさんは私たちに合わせて朝型生活していたけど、本来は夜型の吸血鬼にとってはこれからが活動時間。
    どんどん膨らむ騒ぎのそのすぐ側で。
    私は花火のように光魔法を打ち上げる。

    はっと一瞬喧騒が喰われたように消え、数多の視線が集まって来るのを感じる。
    ほんの瞬き程の間を置いて、騒がしさは何倍にもなって濁流のように押し寄せてくる。
    「なっ、飛んで……る?」
    「あれか、あれが探せと命じられた小娘なのか!?」
    「おいどうする、俺たちじゃ手に負えねぇぞ!」
    「誰か魔法出来る奴連れてこい!」
    「王は保護せよとお命じだ、攻撃魔法をぶっぱなすつもりか?」

    「――ご心配せずとも、自分で降りますよ」
    ゆっくり、油断無く辺りを警戒しながら空気の段をしっかり踏み締め降りていく。
    窓から無警戒にポカンと口を開けたまま呆ける王の居る窓へと。
 
    「――陛下!」
    すかさず傍らに侍る近衛らしき兵士が槍や剣をこちらに向けるけど。
    「――王様、今回のこの一件の報告は耳に届いていらっしゃいますか?」
    おそらくそこは王の執務室なのだろう。
    侍る家臣は武官より文官らしい装いの者が多い。
   「あ、ああ……。レイフレッド君が突然暴れだし、我が城の者を傷付け逃亡した、と聞いている。――城で騒ぎを起こすは子供と言えど重罪である。その逃亡を幇助ほうじょした君も、だ。……期待していたのに残念だよ」

    その、物言いに。私は兵達の手のぎりぎり届かないそこでピタリと足を止めた。
    「ふ、ふふ、ふふふふ、あは、あはははは」
    ――怒りが突き抜け過ぎて思わず笑いが漏れる。
    「まさか。一国の王たる者が、一方だけの言い分を鵜呑みにして罪なき者を断罪しようとする愚王とは!」
    「なっ、無礼であるぞ!」
    「無礼? ああ、そうなんだ。この国でも貴族や王族って間違った事指摘されたら無礼打ちして無かった事にするんだ!    ……期待してたのにがっかりだよ」
    くつくつと、自分でもらしくなく思う嫌な笑いが止まらない。

    「レイフレッドは悪いけど渡せないよ。そちらの不手際で危うく死にかけて、何とか持ち直したけど根こそぎ気力体力失くしてるからね」
    きりきりと矢じりをこちらに向けて弓を引き絞る連中を認め、分厚い氷壁でほぼ360°覆った氷の玉の中ですらりと腰の短剣を抜いて王に向ける。
    ……間合いは物理的には全然届かないけど。 

    「ねえ。貴方はさ、シリカさんから私たちの事聞いてたんだよね?    私とレイフレッドが正式な契約を交わしてないだけの実質パートナーだって事を」  
    そして。
    「吸血鬼の長だと言うなら、知らないはず無いよね?    パートナー以外の血を吸ったらどうなるか」

    ……シリカさんは、事前情報が殆ど無い状況でも私とレイフレッドを見て割りとすぐにその可能性に思い至り、私達に忠告をくれた。

    ――なのに。

    「レイフレッドは勿論、シリカさんから聞いているから詳しい症状までは知らずとも、私以外の血を飲む事はまずありません」

    ――なのに、彼は。

    「王様、貴方が命じてつけた使用人によって私以外の血を飲まされた」
    それは。
    「王の命令によりレイフレッドに毒を盛り殺そうとした。いいえ、症状を知っての行いなら彼を暴れさせて……何がしたかったのかは知らないけど、レイフレッドを誰かに殺させようとした」

    ――そう勘繰れる状況なのだ。

    「なっ、」
    「少なくとも貴方に報告を上げたどなたかは虚偽を奏上した訳ですが、そちらこそ重罪なのでは?」
    言葉に詰まる王を擁護するためか、矢が一斉に放たれその全てが氷壁に阻まれ落ちていく。

    「……はぁ、もういいです。レイフレッドの為にと思って来たけど、まさかレイフレッドを殺そうと考える輩の居る国になどこれ以上滞在出来ません。……真っ当に捜査し正当な裁きの上での結果なら素直に受け入れましたが、こうなってはとっとと国を出ますよ」
    ああ良かった、先に馬車を回収しておいて。

    さっさとその場を離れようと背を向け――
    「こらまて、アンリ!」
    野太い男達の耳障りな怒鳴り声の中、聞きなれた女性の声がそれを止め――
    「うあぁぁぁ!    酷いっスよー!」
    ごつんと頭に勢いよくぶつけられたのは……マスコットバージョンなスコットさん。
    「アンリ!    レイフレッドを故意に害し王に虚偽の報告を行った者達は私が捉えた!    衛兵、こやつらに縄を打って謁見の間に連れて行け!    ――王よ、どうか頭を冷やされよ。アンリ、お前の身は私が保証しよう。その証としてスコットを質に預ける」
    ……吸血鬼にとってパートナーがいかに欠かせないものかを思い知った今、そこまで言われては戻るしかない。
    「……お前の顔色もたいがい酷いな」
    シリカさんは深くため息を吐き出して、僅かに頭を下げた。

    「疲れきっているところを申し訳ないが、もうしばしお付き合いいただくよ」

    ……会食からまだそう時間は経っていないはずだけど。
    今度は公の場で王様とのバトルをしなきゃならないらしい。

    ……ちょっと真剣に、誰かエナジードリンク買ってきて欲しい。
    
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