上 下
54 / 370
吸血鬼と一緒に。

王との会談

しおりを挟む
    「先ほど門で預からせて貰った馬車。――シリカの話を聞いてうちの専門家に少々検分させたのだがな。その者は我が国が擁する全ての職人に勝るとも劣らぬ仕事だと目の色を変えおった。よくよく見ればまだつたない部分も散見されるが、総合的な評価は我が王家で使う馬車より優れていると」
    王はコーヒーを飲みながら、とんでもない事を言い出した。

    「魔法の扱いも既に戦力として申し分なく、磨けばまだまだ伸びるだろうと」
    ニヤリと、嫌味ではないものの腹芸に長けた百戦錬磨の老将の凄みのある笑みを浮かべる。
    「そんな話を聞いてしまえば、国を預かる身としては欲しくなるものだ」

    うん、まあね。理屈としては理解できる。チームを預かるおう監督としては優秀な人材選手は欲しいよね。
    「君はどんな対価を積めば頷いてくれるかな?」
    「大変有難いお話なのでしょうが、私は故国にて子爵位にあるご当主様のご子息の婚約者。私が勝手をすれば、国元の家族のみならず、商売に携わる家業を担う従業員とその家族にまで迷惑がかかります」
    ……あーあ、スコットさんがいらないフラグを立てるから~。

    「ふむ、これだけ才ある娘ならば子爵家程度の家格ならば下手な令嬢を娶るより余程も家の益となろう」
    が、王はあの能無しを「先見の明がある」と感心したようで。
    レイフレッドが苦々しい表情で王様を睨んだ。
    おおおい、レイフレッド君!    気持ちは分かるが不敬になりかねないから!
    が、レイフレッドは止まらなかった。
    「王よ、失礼ながらそれは誤解でございます。王に対して不敬は承知で、お嬢様の名誉のため訂正申し上げる」
    「ほう?」
    「お嬢様の婚約者という者は、先見の明どころかお嬢様自身の価値に気づきもしない。ただ、お嬢様のお父上が経営する商会の金が欲しいだけの輩にございます」
    「ふむ、実によくあるありふれた話だの」
    「はい、ですが腹立たしい事に、私共から何かすれば全てが不敬としてより不利な状況を招きかねない。――どうかその事情をお汲み取りいただけませんでしょうか」
    レイフレッドが席を立ちその場で深く頭を下げた。

    「……惜しいの。だがそなたらが黙ってその様な愚か者を受け入れるとは思えん。ふふふ、ならば暫し時を待つとしようか」
    ん?    随分あっさり引く――
    「当面の部屋を城内に用意した。この国に滞在中、じっくり我が国を見て知るが良い。……いつかのその日の為にもな」
    空のカップを下げさせ、王は王妃を伴い退室していく。
    「アンリ、レイフレッド。王からこの城の書庫の一般フロアの利用許可と案内人付きの馬車が一台支給されている。――乗り心地はお前達の馬車とは比べ物にならんだろうが、まあ好きに使ってくれとの事だ」
    き、気前良いな……。
    それだけしても私が欲しいのか。
     ……もしかして、頑張ったら他の国の貴族に取り入れる?
     あんまり露骨にするのは嫌だし欲をかけばリスクも高まるけど、他国からの外交圧力ってのも、婚約破棄に一役買ってくれるかもしれない。

     ここは意地を張り過ぎずにほどよくWin-Winの関係を築けるのがベストかな?

    「まあ今晩はゆっくり休むと良い」
    シリカさんも侍女を伴って部屋を後にする。
    私達は使用人に導かれ、用意された部屋へ案内される。――ここは……多分先程着替えさせられた時に使った部屋だと思う。
    道順を覚えてないから定かじゃないけど、部屋の内装は同じ。続き部屋ではなくレイフレッドとは別の部屋だ。

    ……ああ、もうレイフレッドの王子様コスは見納めなのか。今この手にカメラがないことが酷く悔しい。
    よし、決めた。早々にカメラを作ってやる!    もう二度とチャンスを逃す事の無いように!
     メイドさんに衣装をひっぺがされながら、私は心に強く誓った。

     ……ドレスを脱いだ後の部屋着までどうやら城で用意してくれたようで、可愛らしいネグリジェを着せられた。
    そのまま彼女達は私をベッドに放り込もうとしたけれど。
    「あの、ごめんなさい。私、今日はまだ彼に血をあげてないの。だからまだ寝れないわ」
    ……レイフレッドの方はもう着替え終わったかな?    レイフレッドの事だからまた風呂に入ってる可能性はあるな。
    そんな懸念を抱きつつも隣の部屋へ行こうとした私はメイドさんに止められた。
    「ダメです!」
    強く腕を捕まれて。女性の力はスコットさんと比べれば弱いけど、流石に吸血鬼なだけあって人間より力が強い。

    あの時のように警告の後の攻撃をするつもりで口を開こうとして声を出す、その前に。

    隣室にトラックでも突っ込んだのかと思うような轟音が響き、ぐらぐらと地震のように部屋が揺れ、棚の上の物が落ちた。
    「レイフレッド!」
    私は警告する間も惜しいとさっさとメイドの腕を凍らせ振りほどき、隣室へ飛び込んだ。

     「レイフレッド、どうし――」
    言い切るより早く、二度目の轟音と獣の様な唸り声が聞こえて。
    バスルームから半裸のままの彼が飛び出して来るのを見た私は、赤々と燃え上がるようなレイフレッドの瞳に、彼の身に何かがあった事のみ理解した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...