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吸血鬼と一緒に。
王との会談
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「先ほど門で預からせて貰った馬車。――シリカの話を聞いてうちの専門家に少々検分させたのだがな。その者は我が国が擁する全ての職人に勝るとも劣らぬ仕事だと目の色を変えおった。よくよく見ればまだつたない部分も散見されるが、総合的な評価は我が王家で使う馬車より優れていると」
王はコーヒーを飲みながら、とんでもない事を言い出した。
「魔法の扱いも既に戦力として申し分なく、磨けばまだまだ伸びるだろうと」
ニヤリと、嫌味ではないものの腹芸に長けた百戦錬磨の老将の凄みのある笑みを浮かべる。
「そんな話を聞いてしまえば、国を預かる身としては欲しくなるものだ」
うん、まあね。理屈としては理解できる。国を預かるおうとしては優秀な人材は欲しいよね。
「君はどんな対価を積めば頷いてくれるかな?」
「大変有難いお話なのでしょうが、私は故国にて子爵位にあるご当主様のご子息の婚約者。私が勝手をすれば、国元の家族のみならず、商売に携わる家業を担う従業員とその家族にまで迷惑がかかります」
……あーあ、スコットさんがいらないフラグを立てるから~。
「ふむ、これだけ才ある娘ならば子爵家程度の家格ならば下手な令嬢を娶るより余程も家の益となろう」
が、王はあの能無しを「先見の明がある」と感心したようで。
レイフレッドが苦々しい表情で王様を睨んだ。
おおおい、レイフレッド君! 気持ちは分かるが不敬になりかねないから!
が、レイフレッドは止まらなかった。
「王よ、失礼ながらそれは誤解でございます。王に対して不敬は承知で、お嬢様の名誉のため訂正申し上げる」
「ほう?」
「お嬢様の婚約者という者は、先見の明どころかお嬢様自身の価値に気づきもしない。ただ、お嬢様のお父上が経営する商会の金が欲しいだけの輩にございます」
「ふむ、実によくあるありふれた話だの」
「はい、ですが腹立たしい事に、私共から何かすれば全てが不敬としてより不利な状況を招きかねない。――どうかその事情をお汲み取りいただけませんでしょうか」
レイフレッドが席を立ちその場で深く頭を下げた。
「……惜しいの。だがそなたらが黙ってその様な愚か者を受け入れるとは思えん。ふふふ、ならば暫し時を待つとしようか」
ん? 随分あっさり引く――
「当面の部屋を城内に用意した。この国に滞在中、じっくり我が国を見て知るが良い。……いつかのその日の為にもな」
空のカップを下げさせ、王は王妃を伴い退室していく。
「アンリ、レイフレッド。王からこの城の書庫の一般フロアの利用許可と案内人付きの馬車が一台支給されている。――乗り心地はお前達の馬車とは比べ物にならんだろうが、まあ好きに使ってくれとの事だ」
き、気前良いな……。
それだけしても私が欲しいのか。
……もしかして、頑張ったら他の国の貴族に取り入れる?
あんまり露骨にするのは嫌だし欲をかけばリスクも高まるけど、他国からの外交圧力ってのも、婚約破棄に一役買ってくれるかもしれない。
ここは意地を張り過ぎずにほどよくWin-Winの関係を築けるのがベストかな?
「まあ今晩はゆっくり休むと良い」
シリカさんも侍女を伴って部屋を後にする。
私達は使用人に導かれ、用意された部屋へ案内される。――ここは……多分先程着替えさせられた時に使った部屋だと思う。
道順を覚えてないから定かじゃないけど、部屋の内装は同じ。続き部屋ではなくレイフレッドとは別の部屋だ。
……ああ、もうレイフレッドの王子様コスは見納めなのか。今この手にカメラがないことが酷く悔しい。
よし、決めた。早々にカメラを作ってやる! もう二度とチャンスを逃す事の無いように!
メイドさんに衣装をひっぺがされながら、私は心に強く誓った。
……ドレスを脱いだ後の部屋着までどうやら城で用意してくれたようで、可愛らしいネグリジェを着せられた。
そのまま彼女達は私をベッドに放り込もうとしたけれど。
「あの、ごめんなさい。私、今日はまだ彼に血をあげてないの。だからまだ寝れないわ」
……レイフレッドの方はもう着替え終わったかな? レイフレッドの事だからまた風呂に入ってる可能性はあるな。
そんな懸念を抱きつつも隣の部屋へ行こうとした私はメイドさんに止められた。
「ダメです!」
強く腕を捕まれて。女性の力はスコットさんと比べれば弱いけど、流石に吸血鬼なだけあって人間より力が強い。
あの時のように警告の後の攻撃をするつもりで口を開こうとして声を出す、その前に。
隣室にトラックでも突っ込んだのかと思うような轟音が響き、ぐらぐらと地震のように部屋が揺れ、棚の上の物が落ちた。
「レイフレッド!」
私は警告する間も惜しいとさっさとメイドの腕を凍らせ振りほどき、隣室へ飛び込んだ。
「レイフレッド、どうし――」
言い切るより早く、二度目の轟音と獣の様な唸り声が聞こえて。
バスルームから半裸のままの彼が飛び出して来るのを見た私は、赤々と燃え上がるようなレイフレッドの瞳に、彼の身に何かがあった事のみ理解した。
王はコーヒーを飲みながら、とんでもない事を言い出した。
「魔法の扱いも既に戦力として申し分なく、磨けばまだまだ伸びるだろうと」
ニヤリと、嫌味ではないものの腹芸に長けた百戦錬磨の老将の凄みのある笑みを浮かべる。
「そんな話を聞いてしまえば、国を預かる身としては欲しくなるものだ」
うん、まあね。理屈としては理解できる。国を預かるおうとしては優秀な人材は欲しいよね。
「君はどんな対価を積めば頷いてくれるかな?」
「大変有難いお話なのでしょうが、私は故国にて子爵位にあるご当主様のご子息の婚約者。私が勝手をすれば、国元の家族のみならず、商売に携わる家業を担う従業員とその家族にまで迷惑がかかります」
……あーあ、スコットさんがいらないフラグを立てるから~。
「ふむ、これだけ才ある娘ならば子爵家程度の家格ならば下手な令嬢を娶るより余程も家の益となろう」
が、王はあの能無しを「先見の明がある」と感心したようで。
レイフレッドが苦々しい表情で王様を睨んだ。
おおおい、レイフレッド君! 気持ちは分かるが不敬になりかねないから!
が、レイフレッドは止まらなかった。
「王よ、失礼ながらそれは誤解でございます。王に対して不敬は承知で、お嬢様の名誉のため訂正申し上げる」
「ほう?」
「お嬢様の婚約者という者は、先見の明どころかお嬢様自身の価値に気づきもしない。ただ、お嬢様のお父上が経営する商会の金が欲しいだけの輩にございます」
「ふむ、実によくあるありふれた話だの」
「はい、ですが腹立たしい事に、私共から何かすれば全てが不敬としてより不利な状況を招きかねない。――どうかその事情をお汲み取りいただけませんでしょうか」
レイフレッドが席を立ちその場で深く頭を下げた。
「……惜しいの。だがそなたらが黙ってその様な愚か者を受け入れるとは思えん。ふふふ、ならば暫し時を待つとしようか」
ん? 随分あっさり引く――
「当面の部屋を城内に用意した。この国に滞在中、じっくり我が国を見て知るが良い。……いつかのその日の為にもな」
空のカップを下げさせ、王は王妃を伴い退室していく。
「アンリ、レイフレッド。王からこの城の書庫の一般フロアの利用許可と案内人付きの馬車が一台支給されている。――乗り心地はお前達の馬車とは比べ物にならんだろうが、まあ好きに使ってくれとの事だ」
き、気前良いな……。
それだけしても私が欲しいのか。
……もしかして、頑張ったら他の国の貴族に取り入れる?
あんまり露骨にするのは嫌だし欲をかけばリスクも高まるけど、他国からの外交圧力ってのも、婚約破棄に一役買ってくれるかもしれない。
ここは意地を張り過ぎずにほどよくWin-Winの関係を築けるのがベストかな?
「まあ今晩はゆっくり休むと良い」
シリカさんも侍女を伴って部屋を後にする。
私達は使用人に導かれ、用意された部屋へ案内される。――ここは……多分先程着替えさせられた時に使った部屋だと思う。
道順を覚えてないから定かじゃないけど、部屋の内装は同じ。続き部屋ではなくレイフレッドとは別の部屋だ。
……ああ、もうレイフレッドの王子様コスは見納めなのか。今この手にカメラがないことが酷く悔しい。
よし、決めた。早々にカメラを作ってやる! もう二度とチャンスを逃す事の無いように!
メイドさんに衣装をひっぺがされながら、私は心に強く誓った。
……ドレスを脱いだ後の部屋着までどうやら城で用意してくれたようで、可愛らしいネグリジェを着せられた。
そのまま彼女達は私をベッドに放り込もうとしたけれど。
「あの、ごめんなさい。私、今日はまだ彼に血をあげてないの。だからまだ寝れないわ」
……レイフレッドの方はもう着替え終わったかな? レイフレッドの事だからまた風呂に入ってる可能性はあるな。
そんな懸念を抱きつつも隣の部屋へ行こうとした私はメイドさんに止められた。
「ダメです!」
強く腕を捕まれて。女性の力はスコットさんと比べれば弱いけど、流石に吸血鬼なだけあって人間より力が強い。
あの時のように警告の後の攻撃をするつもりで口を開こうとして声を出す、その前に。
隣室にトラックでも突っ込んだのかと思うような轟音が響き、ぐらぐらと地震のように部屋が揺れ、棚の上の物が落ちた。
「レイフレッド!」
私は警告する間も惜しいとさっさとメイドの腕を凍らせ振りほどき、隣室へ飛び込んだ。
「レイフレッド、どうし――」
言い切るより早く、二度目の轟音と獣の様な唸り声が聞こえて。
バスルームから半裸のままの彼が飛び出して来るのを見た私は、赤々と燃え上がるようなレイフレッドの瞳に、彼の身に何かがあった事のみ理解した。
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