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スキル「クリエイト」を獲得しました。

もうすぐ三歳になります。

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    人生の勝ち組を目指すべく、まずは婚約破棄を目指そうと思う。

    そう決めて、まずは何をするべきか考えようとして、ハッと気付いた。
    そもそも婚約しなければいいんじゃないの、と。

    でも、残念ながら既に手遅れだったよ……。敵は中々に用意周到だ。
    この婚約は、私が生まれる前から決まっていたのだとお父様は言った。
    貴族の命令に平民は逆らえない。理不尽という程度で逆らえば、こちらが痛い目を見ることになる。

     お父様もお母様も私を愛してくれているけれど、貴族に逆らえば商会で働く人たちの家族にまで迷惑がかかるから、断り切れなかったんだそうだ。
    でももし私が男の子だったらどうするつもりだったか尋ねれば、その時は彼の姉と婚約を結ぶ約束だったと。
    ……うん。要するにどうあってもこちらからの婚約破棄はハイリスク&マイナスリターンでしかない。
    上手いことやって、向こうから婚約破棄を申し出て貰う必要があるんだ。
    ……向こうからしてみれば、ノーリスク&ハイリターンな取引を穏便に撤回させる。

    どんな無理ゲーか。

    何しろ奴と結婚しても私は貴族になれない。容姿や素養がどうとか言う話ではなく、私がなるのは正妻ではなく、妾扱いの第二夫人。
    お貴族様の夜会に出られる訳でもなく、家の事やまして領地経営に口を出せる訳でもなく。
    ただ籠の鳥になりに行くだけ。
    周りはお貴族様ばかりなんだから、当然いびられるんだろう。
    それを思えばどんな無理ゲーだろうとクリアは必須。

    身体も出来てきて、一人でしっかり歩けるようになったお陰で、書庫に踏み台を持ち込み、これまで手の届かなかった段にある本に手を付けられる様になったから、得られる知識の幅も増えた。
    その中には喉から手が出る程欲しかった魔法関連の書物が多数含まれていた。
    本を開いた私は思わずニヤリと笑う口元を隠せなかった。
    全てがローマ字表記で、日本語のくせに日本の文字が見当たらないと思ったら、こんなところで使われていた。

    何でも魔法を使うには式を組み立てる能力が必須で、その為には特殊な〝魔法言語〟とやらが必要不可欠なんだそうだが、これを完璧に使いこなすのは大変困難な事とされてるんだってさ。
    確かに日本語、特ににひらがな・カタカナ・漢字を使い分ける必要のある読み書きの難度は最高ランクと聞くから……。
    でも、元日本人の記憶を持つ私にとっては、ローマ字オンリーの普通の文章より読みやすい位だ。
    ごく一部、漢検1級レベルの難読漢字や常用外漢字は例外だけど。

    要は魔法現象として実現したい内容を文章として思い描けば良い。
    だが、これを普段使いのローマ字表記で文章にしてしまうと式として成立せず発動しない。
     〝魔法言語〟を構成する〝魔法文字〟のうち、ひらがなのみで文章を作成した場合は発動こそすれど、方向性が定まらず不安定な術になる。
    そこにカタカナを加えても、その使い所を間違えれば術は暴走する。
    いかに三種の文字を正しく理解し上手く使用するか。
    後は魔法関連に有利なスキルと関連ステータスの値次第で魔法使いのレベルは決まる。

    早速試してみたくて仕方ないのに、組み立てた式に魔力を注ぐにも〝神眼石〟が要るらしい。
    残念だけど、今は過去の偉人達が考案したという術式例を参考に、色々と式を組み立ててみるまでに留めるしかない。
     魔法以外の勉強もしたいけれど、家庭教師は三歳未満の子には教えに来てくれない。
    最初の鑑定式が三歳なのにも意味があって、薬学はまだしも医療技術が未熟なこの世界では、三歳になる前に亡くなる赤ん坊が少なくないから。
    三歳になれば一先ず安心、五歳になれば物心も付き、七歳過ぎれば神の内から外れる。十五歳で成人となり、貴族や裕福な一部の平民は上級学校へ進学し、一般の平民は見習いとして職業に就き働き始める。十八歳で上級学校に進学した者達も卒業し、職に就いて働き始める。

    うん、この世界で病気したくないわ。怖すぎる。
    病気したくて病気になる奴も居ないだろうけど、せめて健康的な生活を心がけるとしよう。
    まずは日常的な運動からかな?
    ……前世よりは運動神経の出来がマシになってると良いなぁ。
    取り敢えず体力作りの為に腕立て伏せと腹筋、柔軟体操とラジオ体操を日々のメニューに組み込んだ。
    お陰で広い屋敷内を思う存分歩き回っても疲れなくなった。
    まあ、二歳児が一人でうろちょろしているのが見つかり次第使用人やお母様に捕まって部屋に戻されちゃうんだけどさ。

    他にもお母様の親戚から興味をもってギルドについて調べてみた。
    そしたらあったんだよ、異世界あるあるのトップを争う舞台、冒険者ギルドが!
    この世界には大がかりな戦争は無いけれど、それでも国や領主、各町や村で戦力となる人材は重宝されている。
    戦争は無くとも犯罪者が全く居ない国など無い。
    盗賊、山賊、海賊の類いの取り締まりと討伐に軍や自警団が必要とされる。

    そしてもう一つ。

    この世界には魔物モンスターが存在する。
     スライムからドラゴンまで。
     スライムやゴブリン程度なら初級冒険者が、オークやオーガ数匹までなら中級冒険者が狩り、素材をギルドに卸して日々の糧を得る。
    キングクラス付で群れたモンスターや異常発生したモンスター、ユニークやドラゴンレベルのものの討伐は軍隊と大勢の冒険者達が必要となる。
    なんとも興味をそそられる話だけど、前世の運動神経の残念さを思うと、少し不安がある。

    ……婚約の話さえなければ、今のところ一人娘の私が商会の後継ぎ候補だったはずなのに。

    この世界では貴族でも基本は長男が後継ぎになるのが一番だけど、男児が生まれなかった場合は長女が立つ。
    一番重要視されるのは実子か否かで、娘に婿をあてがい後継ぎにしたり、他所から貰った養子を後継ぎにするのも認められていない。
    男女共に子に恵まれなかった場合、現当主の兄弟の子――つまり甥か姪を養子にして後継ぎにすることが辛うじて認められているが、それもかなわない場合はお家断絶となり、貴族の場合は爵位と領地を没収、お家お取り潰しと相成る。

    お母様の伝で職人達に色々と作ってもらって新商品開発、商業ギルドに商品特許、職人ギルドに技術特許を申請して大儲けルートも面白そうなのに。
     もし今後弟が生まれて後継ぎ候補からは外されても、実績さえ上げれば重要ポストの確保位は認められただろうに。

     でも、後で特許について詳しく調べた所、この世界の特許制度では団体での申請は認められず、あくまて個人の権利となるらしい。
    例えば異世界あるある、馬車のスプリングを作って売ろうとしたら、作成技術はその工房の主か、開発に最も貢献した者(この辺りは工房主の裁量によるらしい)、販売権は注文した依頼主個人のものとなる(こちらも商会の主か考案者かは商会主の裁量による)。
    つまり、色んな分野の職人さんを一人か二人ずつ私専属お抱えとして集め、彼らにアイディアを提供して作って貰う形を確立できれば、そして私の名前での登録をお父様に認めて貰えれば、半永久的に個人で定期収入が得られる。
    経済力はいつの時代、どこの国でもある程度の力は確実に発揮する。
    まあ、私の場合は婚約相手の目的がお金なのだから、一見身分差を質に押さえ込み、好き放題使えるATMと逆にもろ手を上げて喜ばれそうに思える。
    でも、やり方次第では周囲を味方として動かし、上手いこと婚約破棄に持っていけるかもしれない。

    あとは魔術ギルドか。
    新しい魔術式を考案したり、新しい魔術具を開発すると、こちらも特許が得られる。これも同様に個人での申請になる。
    魔法式の構築にアドバンテージが見込める以上、今後の主力に一番なりそうなのがこれだ。
    ちなみに魔術具というのは魔石や魔物の素材を素に加工し、術式を刻んで作られる。
    一見単純な様だけと、素材の特徴を正確に捉えてそれに最適な術式を刻む必須があって、深い知識と素材の加工技術が要る。
    魔術式のアドバンテージはあっても魔物なんてゲーム知識しかない。
    ゲームタイトルが違えば魔物の設定も違う様な前知識ではむしろ邪魔かもしれない。
    ……魔物の知識と言えばやっぱり冒険者。ううん、体力はついて来たけど、運動神経の出来は今のところ不明。

    あ、異世界らしいと言えばもう一つ。
    この世界には魔法とは別に錬金術が存在する。
    この世界の錬金術は主に薬草や魔物素材を使って薬やポーションを作ったり、鉱石や魔物素材を使ってインゴットや素材を合成する技術で、そのレシピは錬金ギルドが管理している。
    基本とされるレシピは無料公開されているが、中級以上のレシピを見るにはお金がかかる。
    新しいレシピは特許扱いになる。
    ただ、錬金術を使うには専用スキル必須で、そのスキルを授かる確率は低く、しかしポーションや薬等の必需品を作るのに欠かせない人材として重宝されるから、よほど腕が悪いとかでなければ高収入が見込める人気の職業でもある。

    ……と、ここまで一生懸命考えてはみたけれど。
    結局最後は同じ結論に至る。

    全ては来週に控える三歳の誕生日、鑑定式でどんなスキルとステータスが得られるかにかかっている。
    去年まではささやかな家族パーティーで済まされた私の誕生日だけど、今年ばかりは大忙しだ。
    跡取りにはなれない事が既に決まっているとはいえ、それでも国内有数の商家の娘だ。
    そのお披露目パーティーには既に沢山の人に招待状が送られている。
    親戚一同、商会幹部一同は勿論、お得意様や取引先関係者一同、同業者、商業ギルド及び職人ギルドの幹部とそうそうたるメンバーだ。
    正直おっさん達のおべっかごますり腹芸大会なんてどうでも良い。
    でも目標達成を目指すなら面倒臭い程度の理由で、貴重な情報収集と味方づくりの機会を逃すなんてナンセンス。
    午前中に行われる鑑定式で疲れ果ててパーティーでポカをやらかすなんて事にならないよう気を付けなきゃ。

    その為だけにここしばらくお母様による鬼のマナーレッスンに耐えたんだから。
    普段は優しいお母様なのに、別人の様だったんだもの。
    鑑定式が済んだら誰か別の、専門の先生にマナーは教えてもらいたいな……。
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