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第二章 ダンジョン生活

難儀な身体

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 「きゃあぁぁぁ!」
 「……うるせぇ、耳がどうにかなりそうだ」

 「なっ……、な、な、何で……!」

 はい、眠りから覚めて先ず目にしたのはヴォルティスの寝顔でした。
 ……今更ながら、ヴォルティスの見てくれは良い。

 すらっと細身ながら、筋肉はしっかり付いた逞しい身体。

 後ろだけ少し伸ばして赤いリボンで一つに括った黒髪。

 全体的に白い――明らかに私より白くキメ細かい美しい肌は、男のくせにとちょっと嫉妬したくなる程。

 整った眉に、まつ毛ビラビラの目は、今は閉じて見えない鮮烈な赤い瞳を隠し、形の良い唇のその内側には、私の血を吸うのに使った牙が隠れている。

 ――が、しかし。いくら見てくれが良くとも、そう言えばヴォルティスって男だった。
 血を吸われて、だから性別よりも吸血鬼という事実のが目立ってすっかり頭から抜け落ちていたのだけど。

 この状況でようやく覚醒した。

 「……あのな、これは俺のベッドなんだよ。お前に貸してはやったが、俺が使って何が悪い? 襲わないでやったんだから別に良いだろ」

 と、開き直る様なヴォルティス。

 「ま、ダンジョンマスターになっちまって、まだまともに子供を作れるのかどうかは試してないから分からんが。行為だけなら普通に出来るし、何より……肉体は変質しても、精神はそのままなんでな、性欲も普通にある」

 そう言って私の上に乗ってくる。
 ……男の、それも吸血鬼のヴォルティスに、私が腕力で適うはずもない。

 「な、何を……」
 ヴォルティスの顔が近づいて……胸元にキスを落とし――そのまま、牙を埋めた。
 そのまま血を吸い始めたヴォルティス。

 色の薄い唇を血に染めて、ヴォルティスは笑った。

 「まぁ、今は性欲より食欲のが勝るんだがな。しかし、今のお前はこのダンジョンで唯一の女だ。しかもこの部屋に来た時にはあんな下着みたいな格好だったんだ。……襲われても文句は言えないと思うがな」

 ……確かに。
 これがヴォルティスの――男のベッドだって分かっていながら無防備に眠ったのは私の落ち度だったかもしれないけど。

 「もっと他に真っ当な忠告の仕方はあったでしょうが、このスケベ吸血鬼が!」

 反撃に放った平手打ちは、洞窟内に響く程イイ音がした。

 綺麗な赤いモミジを、その白い頬につけたヴォルティスは。
 「っ……痛ってぇ……!」

 恨めしげな顔をした。

 「忠告? 俺は事実を言ったまでだ。なぁ、俺がここに囚われて何年経ってると思う? 長い生に飽いての昼寝は度々したが、ずっと自由を謳歌してきた男が、肉体の変質で必要は無くなったとはいえ三大欲求は消えないままあるのに、食事も性欲もまともに満たされない。そんな環境で、何十年……、我慢、出来ると思うか……?」
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