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第十四章

悪役令嬢登場!

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 クスクスクス……

 辺りから扇子で隠した歪んだ口元から漏れる失笑が幾重にも重なる。

 赤く染まったドレスのスカート、そこから香るワインのアルコールの匂いに顔をしかめ、臭いものをいとう様に扇子で扇ぐ。

 その筆頭に立つ令嬢の顔には見覚えがあった。

 ほんの一学期分程度の期間しか関わりは無かったとはいえ、ガンガン彼女の嫉妬の視線を浴び続けてきたんだから、覚えていないはずもない。

 ゲーム内ではアゼルに対する悪役令嬢。

 それが彼女に与えられた役柄なので、ヒロイン役の私に嫌がらせをするのは最早本能なんだろうか……、もうアゼルは居ないのに……。

 「……君、これはどういう事かな?」

 実行犯の気弱そうな少女は、ノアの冷たい視線と声にビクリと身体をちぢこまらせた。

 「あ、の……、すみません、その、ぶつかってしまって……手が滑りましたの、お、お許し下さい!」
 ビクビク身体を震わせながらペコペコ謝る。

 何だか私達の方が幼気な小動物を虐める悪人に見えそうで……その態度が素か演技か知らないけど、悪質な方面であざとい娘だとは思うけど、これは所詮小物。

 これに指示を出したのは、勝ち誇った様に微笑む悪役令嬢その人で間違いないだろう。

 「あなた、名前は?」
 「え? あ、あの……」
 「どこのお家の方だったかしらね?」

 「確か、パーシル子爵家のご息女ではなかったかな?」
 「は、はい……、そうです、パーシル子爵家の次女で御座います」

 「おやおや。たかが子爵家のご令嬢が、まさか公爵家当主に無礼を働くとは……。本当に故意ではなく事故だとしても……ある程度のお咎めは免れない。まして故意だと後から判明したなら……お家取り潰しもあり得る不敬罪に相当するよ? それを理解できているかな?」

 「なっ……! そんな、そんな事聞いてな……っ、むぐぐ」
 にこやかに急所を冷たい口撃で突いてボロを出させるノア。
 ……コワっ! うん、ノアはなるべく怒らせない様にしようっと。

 「ふふふ、けど……そうだね。君は子爵家のご令嬢だ。もしも誰かに脅されてやったのだとしたら……、身分を楯に強要されたのだと言うなら、その相手を今ここで白状すると良いよ。本当に逆らえない相手だったなら、多少情状酌量の余地を与えてやっても良いよ」

 「か、彼女です! あの方が、レーネ嬢がアゼル様を陥れ、王子の座から転落させ、その上命まで……! そう聞かされて、その報いを受けさせるのだと……!」

 いや、すんごい濡れ衣。確かにアゼルが沈んだ理由に私も関与してはいるけど、あくまでアゼルの一方的な事情であり、勝手にやらかした結果だ。

 ……しかし、このご令嬢が保身から必死に叫ぶものだから……あぁほら、周囲の視線を引きつけちゃってるじゃないの!
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