上 下
127 / 159
第十二章

王宮へ

しおりを挟む
 兵が持ち込んだ担架に乗せられ、アークノアが体育館から運び出される。
 私も彼らについて会場を後にした。

 裏門には、確かに王家の紋章付の馬車が待機していて。
 中は普通の対面式四人乗りの――勿論余裕のある広々とした造りではあるが――対面式の馬車だったが、奥の席の椅子と椅子の間を埋めて簡易の寝台になる様整えられていた。

 残る二席に乗るのは勿論私。と……
 「貴方はアゼルでも見張って後ろの馬車に乗れば良いのに」
 元影教師。

 後ろの馬車は罪人の護送用の檻付き馬車だ。
 アゼルはきっちり拘束され、檻の中に転がされている……ハズ。

 「いやいや、俺のことは気にせず。事情は知ってるから」
 とニヤニヤしながら言われてもねぇ……。

 大変不快だけども、ノアの現状はそんな程度の事で躊躇してはいられない。

 すでに身を起こすのも辛そうなノアに、自ら私の首筋に噛み付くだけの余裕は無さそうだった。
 手首を差し出すのがお互い楽かとも思うけど。
 (首筋からのが、こういう場合一番効率良いんだよね?)

 「…………」
 ジト目で邪魔者を一瞥して。
 ため息と一緒に彼の存在ごと意識の外へポイする。

 「ちょっと失礼」
 靴を脱ぎ捨て、ノアの横たわる寝台に膝立ちに乗る。
 彼の傷に障らないよう注意しつつ。服に血が付く程度は気にせずに。

 「え、え、ちょ、近……!」
 「今更だよ。ただ、いつもと逆なだけ。ノアは今動けないんだから。ほら、さっさと飲んで少しでも治しなさいよ」

 普段は私のほうがあたふたさせられる事が多い中で、こんな風に慌てるノアはとても珍しい。
 少しだけ、本当に少~しだけ、楽しくなってくる。

 ああ、後ろでニヤニヤしてるオッサンが居なきゃ……。

 いやいや、だからそれどころじゃ無いんだって。瞳の色が完全に変わったノアに、もう余裕はないはずだから。

 彼の体に体重をかけてしまわないよう寝台に付いた手に体重を預け、自分の首筋を彼の顔の前へと近づける。

 「……っ、」
 それだけで、彼は言葉もなく私に噛み付いた。

 自分で噛む場所を調整できなかったせいか、いつかの様に噛まれた瞬間は結構な痛みがあった。
 けど、こくりと彼が血を嚥下する音が聞こえる頃には、逆に普段以上の甘い快楽が血管を伝って全身を回り始めた。

 後ろのオッサンを気にして必死に声を抑えるけど……この体勢、ちょっとヤバいかも……。

 でも、お陰で彼の顔色は良くなった。

 吸血を終えた彼の上から退けば、新たな出血もだいぶ少なくなっていて。

 「ふーん。この様子なら大丈夫かな」
 オッサンがやけに意味深な笑みを浮かべているのが気になるけど。

 王宮に到着直後、ノアは侍従達によって医務室へと担架のまま運ばれていってしまった。

 そして私は――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は婚約破棄を回避するため王家直属「マルサ」を作って王国財政を握ることにしました

中七七三
ファンタジー
王立貴族学校卒業の年の夏―― 私は自分が転生者であることに気づいた、というか思い出した。 王子と婚約している公爵令嬢であり、ご他聞に漏れず「悪役令嬢」というやつだった このまま行くと卒業パーティで婚約破棄され破滅する。 私はそれを回避するため、王国の財政を握ることにした。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

処理中です...