上 下
114 / 159
第十一章

崖っぷち

しおりを挟む
 以前、精霊の浜への道の入り口付近で、ノアのトリセツについて聞かされた時も、似たような事は言っていたけど。

 領政に関わる前と後で。しかもここまでストレートな言葉をこのイケメンから囁かれて。
 一人の女としてこれが嬉しくない訳が無かった。

 そして。抱きしめられた体を開放された……とほっとしたのもつかの間。
 壁についた両腕に挟まれる形で囲われる。

 「……ダメかな?」


 (こここ、このシチュエーションて、あの噂の壁ドンってヤツなのでは……?)

 普段は仕事一辺倒でも、この状況でときめけない程に女を捨ててはいなかったレーネは、嫌でも高鳴る鼓動を感じていた。
 でも。とっさに返せる答えがなくて。
 待てども答えないレーネの顎に、ノアの左手が触れる。

 (こ、今度は顎クイですか!?)
 いくら乙女ゲームのヒーローの双子の兄弟だからって、こんな少女漫画のヒーローみたいな事……!
 もっとキラキラ可愛いヒロインちゃんにすれば良いのに……!
 ……って、ハッ、私このゲームのヒロインだった!

 近付いて来る、キレイな顔。
 (え、まさかこの流れからの……って、キス、される……?)

 思わず、目を閉じる。

 そして。
 いつもは掌に感じる彼の唇の感触が、頬に触れる。

 「え……」

 「これは、少しは期待しても良いのかな?」
 少し嬉しそうに笑うノア。

 「拒否されたらどうしようって、実はちょっぴりヒヤヒヤしてたんだけど。けど、いつまでもこうしてると押し倒したくなるから、また今度だね」

 「……え?」

 「隠されて育てられたとは言え、僕も一応王子だからね。もきっちりさせられるんだけど。君は両親と離されて暮らしているし……。まだ勉強してないかな、って思ったんだけど、その反応だと最低限の事は知ってそうだし」

 「え、ちょっと。じゃ、こないだのアレも……」
 「うん。それもあったから余計にその手の勉強はきっちりやらされたからね」

 こ、子供だから分かってないんだと思ってこないだは堪えたのに……!

 「ノア!」

 思わず彼の胸をポカポカ殴る。

 「いや、僕もある意味不安だったんだよ。快楽を目当てに吸血を嫌がらなくなった人は居たけどさ。そういう人の反応ともレーネは違ったから。本当は嫌なのを我慢してくれてるのかなって」

 けど、ノアは痛がる様子もなくスッキリした顔で笑う。

 「レーネ、今度はキスしても良い?」
 「なっ、……いや、一応婚約者なんだし……けど、正式発表はまだだよね? それまではダメ!」
 「えー、キスくらいなら良いと思わない?」
 「い、今はだめ!」
 「ふふ、仕方ないなぁ」

 ……他愛ない言い合いは、その後しばらく続くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

転生しても侍 〜この父に任せておけ、そう呟いたカシロウは〜

ハマハマ
ファンタジー
 ファンタジー×お侍×父と子の物語。   戦国時代を生きた侍、山尾甲士郎《ヤマオ・カシロウ》は生まれ変わった。  そして転生先において、不思議な力に目覚めた幼い我が子。 「この父に任せておけ」  そう呟いたカシロウは、父の責務を果たすべくその愛刀と、さらに自らにも目覚めた不思議な力とともに二度目の生を斬り開いてゆく。 ※表紙絵はみやこのじょう様に頂きました!

処刑された悪役令嬢は、時を遡り復讐する。

しげむろ ゆうき
恋愛
「このバイオレットなる者は王太子であるフェルトの婚約者でありながら、そこにいるミーア・アバズン男爵令嬢や隣国の王太子にロールアウト王国が禁止している毒薬を使って殺害しようとしたのだ。これは我が王家に対する最大の裏切り行為である。よって、これより大罪人バイオレットの死刑執行を行う」 そして、私は断頭台で首をはねられたはずだった しかし、気づいたら私は殿下の婚約者候補だった時間まで時を遡っていたのだった……

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...