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第十一章

崖っぷち

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 以前、精霊の浜への道の入り口付近で、ノアのトリセツについて聞かされた時も、似たような事は言っていたけど。

 領政に関わる前と後で。しかもここまでストレートな言葉をこのイケメンから囁かれて。
 一人の女としてこれが嬉しくない訳が無かった。

 そして。抱きしめられた体を開放された……とほっとしたのもつかの間。
 壁についた両腕に挟まれる形で囲われる。

 「……ダメかな?」


 (こここ、このシチュエーションて、あの噂の壁ドンってヤツなのでは……?)

 普段は仕事一辺倒でも、この状況でときめけない程に女を捨ててはいなかったレーネは、嫌でも高鳴る鼓動を感じていた。
 でも。とっさに返せる答えがなくて。
 待てども答えないレーネの顎に、ノアの左手が触れる。

 (こ、今度は顎クイですか!?)
 いくら乙女ゲームのヒーローの双子の兄弟だからって、こんな少女漫画のヒーローみたいな事……!
 もっとキラキラ可愛いヒロインちゃんにすれば良いのに……!
 ……って、ハッ、私このゲームのヒロインだった!

 近付いて来る、キレイな顔。
 (え、まさかこの流れからの……って、キス、される……?)

 思わず、目を閉じる。

 そして。
 いつもは掌に感じる彼の唇の感触が、頬に触れる。

 「え……」

 「これは、少しは期待しても良いのかな?」
 少し嬉しそうに笑うノア。

 「拒否されたらどうしようって、実はちょっぴりヒヤヒヤしてたんだけど。けど、いつまでもこうしてると押し倒したくなるから、また今度だね」

 「……え?」

 「隠されて育てられたとは言え、僕も一応王子だからね。もきっちりさせられるんだけど。君は両親と離されて暮らしているし……。まだ勉強してないかな、って思ったんだけど、その反応だと最低限の事は知ってそうだし」

 「え、ちょっと。じゃ、こないだのアレも……」
 「うん。それもあったから余計にその手の勉強はきっちりやらされたからね」

 こ、子供だから分かってないんだと思ってこないだは堪えたのに……!

 「ノア!」

 思わず彼の胸をポカポカ殴る。

 「いや、僕もある意味不安だったんだよ。快楽を目当てに吸血を嫌がらなくなった人は居たけどさ。そういう人の反応ともレーネは違ったから。本当は嫌なのを我慢してくれてるのかなって」

 けど、ノアは痛がる様子もなくスッキリした顔で笑う。

 「レーネ、今度はキスしても良い?」
 「なっ、……いや、一応婚約者なんだし……けど、正式発表はまだだよね? それまではダメ!」
 「えー、キスくらいなら良いと思わない?」
 「い、今はだめ!」
 「ふふ、仕方ないなぁ」

 ……他愛ない言い合いは、その後しばらく続くのだった。
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