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第九章
アクア先生
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「うへぇ、朝から無駄に疲れたぜ……。これからが仕事の本番だってのによ……」
グレスト先生の授業は漁場に到着した事で一時中断し、アクアはぐったりしながら、だけど嬉しそうに仕事場へと向かう。
本当にアイツは勉強が嫌いだな……。
「頭が悪い訳じゃないだけに、仕方のない男ですよね」
グレストが呆れてその背を見送る。
農家の長男なので、アクアのよく言う“モヤシ”と言うにはそれなりに体力はあるグレストだけど、漁の仕事では基本役立たずなので後方での見学を決め込んでいる。……体力バカのアクアと比べれば確かにグレストの身体能力は劣っているから。
「ノア様――いえ、“アーク”、もしくは“アゼル様”と呼ぶべきですかね? 今の網引きの作業に加わる必要はありませんが、この後の仕分けと検品作業はアクアと一緒にやると良いですよ。力仕事は領主様の仕事と何の関係もありませんが、捕れた物の用途や各種漁獲量の把握は領主様の仕事の内ですし、新たな事業の思案をするにも必要な思考材料の一つにもなります」
基本、漁獲量については後で陸の上でアクアのお父さんが書類に纏めて伯爵邸に提出してくれるから、領主の仕事はその書類を確認後、確認の判子を押してファイリングするだけなんだけど。
書類に書かれた魚の名前が、実物と一致し、さらにその用途や値段の相場が把握出来ているか否かは……大きい。
知らなければ機械的に判子を押してそれでおしまい、となる可能性が高い。
と、言うか、だ。
実際、家令である影執事が一旦屋敷で確認印を押してファイリングしつつ、写しを現当主に定期的に送付しているのだけど。
書類を見て適宜適切な指示を出す家令と、何の返信も反応もしないお祖父様。
どちらを彼らが信用するかと言えば――火を見るより明らかであろう。
それを説明すると、ノアは頷いた。
「大丈夫ですよ。アクアは馬鹿ですが、仕事に関する知識は確かですから」
「おう、任せとけ! じゃ、早速始めるか!」
帰りの授業がデスクワークでドリル漬けではなく、自分の得意分野での実地授業で、しかも自分が先生役と聞いて生き生きとしながら解説を始めた。
「まずこの魚は名前をシトリって言う。細かく言やぁ大シトリとかキジシトリとか色々種類はあるんだが……。こいつらは大きさによって値段がピンキリでな。本当にデカイやつを傷無く揚げられれば一攫千金レベルで儲かる事もあるんだが……まぁ稀な話だな。んで、水揚げした後の加工だが、コイツは大抵の料理に向いていてな。解体した後の部位によっても値段がピンキリになる魚なんだよ」
と、アクアが今解説しているのは日本でいうマグロだ。
この世界でも“大マグロ”の“大トロ”の刺し身は人気で、良い値段が付く。
が、小さめの種類の赤身などは一般庶民の普段の食卓に頻繁に登場する値段で売られ、大衆魚のカテゴリーに入る魚でもある。
そして、私が提案したツナは最近島で大人気なので、近々大陸に持ち込む予定である。
ノアは興味深そうにアクアの解説に聞き入り、気を良くしたアクアが喋り過ぎでお父さんに雷を落とされた。そこをノアがまぁまぁと宥め……
「あの“アゼル”様は、この島でも上手くやっていけそうですね」
それを眺めるグレストが呟いた。
グレスト先生の授業は漁場に到着した事で一時中断し、アクアはぐったりしながら、だけど嬉しそうに仕事場へと向かう。
本当にアイツは勉強が嫌いだな……。
「頭が悪い訳じゃないだけに、仕方のない男ですよね」
グレストが呆れてその背を見送る。
農家の長男なので、アクアのよく言う“モヤシ”と言うにはそれなりに体力はあるグレストだけど、漁の仕事では基本役立たずなので後方での見学を決め込んでいる。……体力バカのアクアと比べれば確かにグレストの身体能力は劣っているから。
「ノア様――いえ、“アーク”、もしくは“アゼル様”と呼ぶべきですかね? 今の網引きの作業に加わる必要はありませんが、この後の仕分けと検品作業はアクアと一緒にやると良いですよ。力仕事は領主様の仕事と何の関係もありませんが、捕れた物の用途や各種漁獲量の把握は領主様の仕事の内ですし、新たな事業の思案をするにも必要な思考材料の一つにもなります」
基本、漁獲量については後で陸の上でアクアのお父さんが書類に纏めて伯爵邸に提出してくれるから、領主の仕事はその書類を確認後、確認の判子を押してファイリングするだけなんだけど。
書類に書かれた魚の名前が、実物と一致し、さらにその用途や値段の相場が把握出来ているか否かは……大きい。
知らなければ機械的に判子を押してそれでおしまい、となる可能性が高い。
と、言うか、だ。
実際、家令である影執事が一旦屋敷で確認印を押してファイリングしつつ、写しを現当主に定期的に送付しているのだけど。
書類を見て適宜適切な指示を出す家令と、何の返信も反応もしないお祖父様。
どちらを彼らが信用するかと言えば――火を見るより明らかであろう。
それを説明すると、ノアは頷いた。
「大丈夫ですよ。アクアは馬鹿ですが、仕事に関する知識は確かですから」
「おう、任せとけ! じゃ、早速始めるか!」
帰りの授業がデスクワークでドリル漬けではなく、自分の得意分野での実地授業で、しかも自分が先生役と聞いて生き生きとしながら解説を始めた。
「まずこの魚は名前をシトリって言う。細かく言やぁ大シトリとかキジシトリとか色々種類はあるんだが……。こいつらは大きさによって値段がピンキリでな。本当にデカイやつを傷無く揚げられれば一攫千金レベルで儲かる事もあるんだが……まぁ稀な話だな。んで、水揚げした後の加工だが、コイツは大抵の料理に向いていてな。解体した後の部位によっても値段がピンキリになる魚なんだよ」
と、アクアが今解説しているのは日本でいうマグロだ。
この世界でも“大マグロ”の“大トロ”の刺し身は人気で、良い値段が付く。
が、小さめの種類の赤身などは一般庶民の普段の食卓に頻繁に登場する値段で売られ、大衆魚のカテゴリーに入る魚でもある。
そして、私が提案したツナは最近島で大人気なので、近々大陸に持ち込む予定である。
ノアは興味深そうにアクアの解説に聞き入り、気を良くしたアクアが喋り過ぎでお父さんに雷を落とされた。そこをノアがまぁまぁと宥め……
「あの“アゼル”様は、この島でも上手くやっていけそうですね」
それを眺めるグレストが呟いた。
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