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第九章

必要な覚悟

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 今は週に一度、小瓶に一杯程度の血があれば間に合うのだとか。
 「献血された輸血用の血で多少誤魔化せるし……、だけど――」
 まぁ、そりゃあね。保存食より新鮮な物の方が美味しいのは……大半の食材や料理はそう言う物だもんね。そして人間、食事は可能な限り美味しい物を食べたいと思うものだ。

 流石に毎日松阪牛のステーキを食べたい、とまで考える者は少なくとも、お金に余裕があるなら、毎日スーパーの見切り品ばかり食べたいと思う者はまず居るまい。

 「まぁ、毎日の生活に支障が出ない程度なら……」

 うん、献血とでも思えばまぁ……許容出来なくはない、か。

 「ごめん……。ただ、その分腕力含め身体能力は高いし体も頑丈だから風邪なんか引いたこともないし、怪我をしてもすぐに治る。特に夜間の事なら誰より動けるはずだ。……日光はあんまり得意じゃないけど、年齢を重ねてだいぶ耐性は付けたから。夏の海の浜とかに長時間居るとかじゃなければ一応普通の生活は出来る様になった。……だからこそ学校に通わせて貰えた訳だけど」

 彼を婿に取る、メリットとデメリット、か……。

 「流石にあの時のあれは事故だ。僕の精神も幼く吸血鬼の本能に振り回されていた。君に痛い思いもさせたし……だが、完全に可能性をゼロにするのは限りなく難しい」

 ん? いや、そりゃ咬まれれば痛いのは当たり前だよね?
 え、違うの?
 下手な咬み方をすれば痛みもあるけど、痛くない咬み方というのがあるらしい。
 「あの頃はまだ経験も殆ど無くて、しかも吸血衝動にかられて余裕も無かったから、とにかく咬みついてしまって……」
 とても申し訳なさそうにするノア。

 けど、“痛くない”って触れ込みの注射針だって、確かに縫い針を適当に刺したよりは痛くないかもしれないけど結局痛かったんだよ?
 ……そんな考えが表情に出てしまったのだろう。

 「……ごめん」
 ノアがどよんと暗くなる。

 「いや、そう言うのと違うから。ノアが吸血鬼云々は関係無いし、そこは気にしてないから。……その、咬まれて痛くないってのがどうも……ね。何というか、歯医者に行って『痛かったら手を上げて下さいね』って言う割に痛くて手を上げてもちっとも容赦してくれない的な不信感がちょっと……」
 むしろ最初から痛いなら痛いと言ってくれた方が覚悟のしようもあると言うのに。
 「え、疑うのはそこなの!?」
 ノアが物凄くびっくりしている。

 「……私は仕事がしたいの。それを邪魔さえしなければ婿なんか誰でも良いと思ってた。――流石にアゼルはある意味想像以上で疲れたけど、貴方は私と一緒に仕事を楽しんでくれるじゃない。それだけで十分なの」

 吸血鬼云々は確かに随分と特殊なオプションではあるけど……
 仕事に影響がないなら大した問題ではない。
 王命に逆らうリスクを思えば、ね。

 そう言ったら何故かノアはがっくり項垂れてしまった。
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