上 下
18 / 159
第二章

実りの季節

しおりを挟む
    あれだけベタついていた潮風が、最近では随分と寒く、肌に触れる切れ味が鋭くなってきた。
    早いもので、この島にも実りの秋が訪れていた。

   「最近、工場の辺りが随分と賑やかだね?」
   「そりゃ、秋が過ぎればすぐに冬が来るからな」

    最近では私抜きでもノアはアクアやグレストと出掛けてくれる様になっていた。
    島民も彼の顔は覚えてくれて、気にかけてくれているから、たまには一人で自由行動を……と思ったのに、まさかの町で遭遇コースとは。

    が。
    敵はまだ私に気付いていない。
    ここはちょっと奴らを尾行し、こっそり会話の盗み聞きしてみるか?
    アクアなんか私の居ないトコで何言ってるか分かんないし。何か余計な事言ってたら後でちょっとお話しなきゃかもね?

    ニヤリと影で笑うと、何故かアクアがブルッた。

   「……何してるんです?」
   「イヤ、何か分からんがちと寒気が……」
   「具合が悪いなら無理せずお帰りになった方が良いのでは?」
   「はぁ?    風邪なんざひいた事ねぇし。余計な世話だってーの!」
    「ああ……。何とかは風邪ひかないって言いますもんね」
    「何だとコノヤロー!」
    「まぁまぁ、アクア、落ち着いて……!」

    「……ゴホン。話、戻しましょうね。そう、一応魚は夏より冬に獲れる魚の方が美味しいですが、冬は海も荒れがちです。『精霊姫』の加護はそんな日を減らしてくれはしますが、ゼロには決してなりません。……ゼロになれば、長い目で見れば海の恵みが減ってしまう事に繋がりますから」
    「嵐で海が荒れると、普段海の深いところにしかねぇ栄養分たっぷりの水がかき回されて海全体に栄養分が行き渡る。これが無ぇと浅瀬の魚は細るし、そんな魚を餌にする魚も減る」

   「冬でも収穫出来る作物はありますが、やはり他の季節に比べれば少ない。だから、冬のための保存食加工は今が最盛期なんですよ」
   「それが終われば、精霊様に自然の恵みを感謝する祭りがあるんだ。毎年美味いモンの屋台が沢山並ぶから、今から小遣い貯めてるんだ!」
   「へぇ、アクアが美味しいっていうなら本当に美味しいんだろうなぁ」

   「それとな、今年潰す予定だった食肉家畜のうち事前のコンテストで優勝した奴はその場で調理されて皆に配られるんだぜ!」
   「今年は鶏はエルさんの、豚はカルロさんの、牛はジャックさんの所のが選ばれたそうで。選ばれた個体は最後の追い込みとばかりに餌を沢山食べさせて貰っているそうですから……期待できそうですよ」
    「「おおおおお!」」

    ……王子様も男の子。やはり男は肉が好きか。
    目を輝かせている。
    けど、確かに毎年配られるあれ、精霊姫の私には優先的に用意されるんだけど……美味しいんだよね。
    脂たっぷり肉汁ジュワッと、柔らかくて旨味しっかりの、けどさっぱりとした味付けで……。あ、思い出したら思わずよだれが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

冤罪で殺された悪役令嬢は精霊となって自分の姪を守護します 〜今更謝罪されても手遅れですわ〜

犬社護
ファンタジー
ルーテシア・フォンテンスは、《ニーナ・エクスランデ公爵令嬢毒殺未遂事件》の犯人として仕立て上げられ、王城地下の牢獄にて毒殺されてしまうが、目覚めたら精霊となって死んだ場所に佇んでいた。そこで自分の姪と名乗る女の子《チェルシー》と出会い、自身の置かれた状況を知る。 《十八年経過した世界》 《ルーテシアフォンテンスは第一級犯罪者》 《フォンテンス家の壊滅》 何故こんな事態となったのか、復讐心を抑えつつ姪から更に話を聞こうとしたものの、彼女は第一王子の誕生日パーティーに参加すべく、慌てて地上へと戻っていく。ルーテシアは自身を殺した犯人を探すべく、そのパーティーにこっそり参加することにしたものの、そこで事件に遭遇し姪を巻き込んでしまう。事件解決に向けて動き出すものの、その道中自分の身体に潜む力に少しずつ目覚めていき、本人もこの力を思う存分利用してやろうと思い、ルーテシアはどんどん強くなっていき、犯人側を追い詰めていく。 そんな危険精霊に狙われていることを一切知らない犯人側は、とある目的を達成すべく、水面下で策を張り巡らせていた。誰を敵に回したのか全てを察した時にはもう手遅れで……

乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています

真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。 なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。 更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!  変態が大変だ! いや大変な変態だ! お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~! しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~! 身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。 操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。

メカ喜楽直人
ファンタジー
物心ついた時にはヴァリは前世の記憶を持っていることに気が付いていた。国の名前や自身の家名がちょっとダジャレっぽいなとは思っていたものの特に記憶にあるでなし、中央貴族とは縁もなく、のんきに田舎暮らしを満喫していた。 だが、領地を襲った大嵐により背負った借金のカタとして、准男爵家の嫡男と婚約することになる。 ──その時、ようやく気が付いたのだ。自分が神絵師の無駄遣いとして有名なキング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)の世界に生まれ変わっていたことを。 しかも私、ヒロインがもの凄い物好きだったら悪役令嬢になっちゃうんですけど?!

処理中です...