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第一章

精霊姫の畑仕事

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    随分と暖かく――むしろ最近では少し汗ばむ位の日が続くようになった今日この頃。

    沖の無人島の養殖場の世話が主になりつつある最近では暇な時間も増えたアクアと、相変わらず王子をどう扱うべきか戸惑う使用人にもて余されたノアを連れて、畑の中の祠へとやって来た。

    精霊は普通の人には見えないから、こうして拠り所として形ある物が必要なのと、もう一つ。

    「……何だか見慣れない格好だね?」

    今日は島の農家さんを主体としたお祭りの日。
    私は巫女として、奉納舞を舞う。
    ……けど、この国は和風ではなく洋風の国なので、私が着ているのもダンス用のドレスだ。
    だけど舞う演目は円舞曲ワルツじゃない。

    ひらひらと色とりどりの飾り布を付けた鳴り物の鈴を両手に、裸足のまま板張りの舞台へと上がる。

    シャン、と鈴を鳴らして自らリズムを刻む。
    トン、トトン、と裸足の足が床に着く度鳴る音が、打楽器の代わり。
    大きく息を吸って、声を出す。
    伴奏も何もなしに歌う。精霊を称え、この地に豊穣の恵みを願う歌を。
    くるくると、日頃の練習で既に体に叩き込まれた振り付け通りに舞いながら歌う。

    「綺麗だ……」
    この踊りは、代々精霊姫に伝わるもの。
    ……ウチの家系は精霊に好かれやすい子供が生まれ易いと言う――が、私の前三代はその素養を備えた人材は居なかった。
    これまでも「精霊姫」不在の代にはその年毎に島の娘の中から毎年一人踊り子を選び、精霊に奉納舞で豊穣を願ってきた。

   そして。
   舞が終われば、今度こそ本当に精霊姫にしか出来ない儀式が始まる。

    大半の畑は既に種まきも終わり、まだ小さいながらピョコピョコ青い芽が茶色い畑に点々と斑模様を作っている。
    そんな中、畝も無くただ黒い土があるだけの畑が一つ。

    「ノームの子、お願い。畑の土にあなたの力の恵みを。土に力を、大地を耕し種を蒔く畝を作ってちょうだい」
    精霊魔法で土に栄養分を含ませ耕し畝を作る。
    「おおおっ!」
    突然ぼこぼこと山と谷が出来ていく畑の様子に歓声があがる。

    「よっ、流石お嬢!」
     調子良くアクアが声を上げれば、それに続き、また負けじと声が次々に上がる。
    「精霊姫様、万歳!」
    「精霊様、万歳!」

    そして、そのまま酒が振る舞われ賑やかな場が出来上がっていく。

    私達はまだ子供だからと甘いミルクセーキが振る舞われた。

   「……レーネの分、俺のより多くね?」
    アクアが不満げに私のカップを睨む。
   「そりゃあ見てただけのあんたと違って、踊って魔法使って疲れてるし、汗もかいたからね」
     水分補給と糖分の補給はありがたい。

   「凄い、綺麗だった!」
   「ふふふ、ありがとうノア。アクアも少しはノアを見習ったらどう?」
   「うるせー!」
   「ははははは」

    「そうだよ、アクア。君はもう少し世間について勉強すべきだ。僕らはまだ子供ではあるが、しかし何も知らない赤ん坊でいられる歳はとうに終わっているのだから」
   「げっ、出たなグレストめ!」
   「――初めまして、殿下。僕の名はグレスト。この島で農家をやってる家の長男ですよ」

    ニコニコ微笑む人畜無害そうな少年。
    それに対しキャンキャン無駄吠えする子犬のようなアクア。

    ……新たな波乱の幕が、上がる。
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