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第一章

精霊魔法

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    精霊魔法は基本、精霊にお願いして使う魔法。

    私が毎朝アクアのお父さんの船でしているのは、あれは魔法ではなく「お祈り」。
    「精霊姫」という名前の巫女として、島の自然の平穏な――もっと言えば人間にとって良好な状態を保って下さいとお願いしているだけの話で、それは島の民が誰しもしている事。

    「……でも、やっぱり凄いや。レーネが祈ると良い風が吹いて気持ち良い」
    船の看板の上で水平線を眺めるノアが笑顔で私を称える。
    けど、精霊に好まれる私がやるとこうして分かりやすい効果が即座に現れる……が、私以外の祈りも精霊達はちゃんと聞いていて、ある程度調整はしてくれてるんだけどね。

    それでも人は分かりやすく結果が出る方に注目しがちだ。……特に他所から来た人は――ね。
    この島の大抵の人自分のお祈りが無力だなんて思っていない。むしろ日課を欠かして精霊の不興を買う方を恐れる。

    「ノアもお祈りしてみると良いよ。すぐには分かり難くてもきっと良い事があるよ」

    そして、精霊魔法は。
    お祈りと違って精霊に自分のイメージを正確に伝え、実際に事象を起こして貰うのだから、精霊とのコミュニケーションは必須で、その齟齬による事故が無いよう細心の注意が必要だ。

    以前、精霊の浜から少し入った森の中の泉で、流れるプールを作ってやれと思い立ち、精霊達にお願いして……けど、その流れの勢いを上手く伝えきれずに周囲を水びたしにしてしまった失敗を思い出すと、今も少し背筋が寒くなる。

    あれは水びたしで済んだけど、まかり間違えば津波や土砂崩れみたいな災害に繋がりかねなかった。

    あの周辺は私しか入れない分、特に気を付けなくちゃいけないのに。
    だから、温泉探しも今は自重している。

    今はお風呂を沸かしたりとか生活魔法と呼べそうな簡単な事で練習しているのです!    そう、あれは練習の一環なの、だから許して!

    ――そして。
    季節はそろそろ夏へと変わりつつあった。

   「おお、イカの唐揚げだ!」
    さくさく揚げたて、スパイスの香りが食欲を誘う。
    噛めばサクッと軽い歯触りの後、噛めば噛むほど旨味たっぷりのイカの歯応えを楽しめる。そしてこれが白飯によく合う。
    ゲソと身の部分で二度美味しい。

   「この間食べたいか飯も美味しかったけど、これも美味しい!」
   「へへん、父ちゃんのイカだから余計に美味いんだぞ!」
   「うん。毎朝ここで食べるご飯はいつも美味しいもんね」

   「けど、本当に魚の美味しい季節はそろそろ終わり。夏が旬の魚もまぁあるけど、やっぱり秋冬の魚に比べると……これからは畑の物が美味しくなる季節ではあるのよねぇ」
   「レーネも畑の仕事が入る季節か。ノアも一度行ってみると良い。……ただ、にだけは気を付けろよ」
    「……あいつ?    ……って誰だよ」

    アクアが後ろで何か言ってるけど……そう。私の仕事は何も海だけではないのである。
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