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弐ノ巻
暇乞い
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「かぐやよ、そろそろ入内を承諾してはくれぬか?」
時折帝から送られてくる文。その何通かに一通、表現や単語を変えて送られてくる。
そして時を経るごとにその頻度は増していった。
勿論その度に断りを入れているのだが、帝はめげない。
だが、あまり宜しくない噂も耳に入るようになった。
帝が望んで娶った姫の具合が良くないらしい。
産後の肥立ちがどうとか聞きはしたが、こんな市井にまで降りてきたうわさ話など、尾ひれ背びれどころかあれこれ引っ付き過ぎて真実など分からない。
その真相を一番近くで聞いて知ってそうな人物は勿論帝なのだが、あえて聞いてみようとは思わない。
明らかに面倒な予感がするからだ。
時折、帝からではなくその件の姫から警告の文も送られてくる。
かつてから、よくある類の文だ。
それこそ昔の後宮と変わらない。月の宮とも変わらない。
だから、かぐやは華麗にそれを見てみぬふりでやり過ごしていた。
そして、その日が近付いたある晩。
かぐやは翁に告げた。
「近々、私の迎えが月より参ります」
……かつて大筒木の姫であった事までは言わない。
あくまで自分は月の都の住人で、いずれ帰らねばならないのだと告げた。
「それ故、婚姻を躊躇っておりました」
翁夫妻と別れるのは寂しいけれど。
月の都で流れる三年の月日はあっという間に過ぎ去ってしまうのに、この地上で暮らす三年はとても長く感じた。
早く、主様似迎えに来て欲しいと。
そう願う、待ち遠しい日々ももう後僅かで終わる。
「――お世話になりました」
だが。
その事実に納得できなかった者が居た。
「帝、帝! どうかお力をお貸し下さいませ! かぐやを嫁にやるならまだしも、訳の分からぬ場所へなどやりとう御座いません!」
翁は内裏に駆け込み、帝に助力を乞うた。
「帝! なりませぬ! あの姫は異界の者、我らが引き留めて良い者では御座いませぬ!」
それに対し、賀茂の姫も中臣の娘も即座に神門に忠告した。
……しかし、帝はかぐやが己の手の届かぬ場所へと離れていくのを黙って見ている選択は出来ず。
「至急、兵部省に使いを出せ! 我が自慢の軍勢にて、あやかし共など祓ってくれよう!」
己が刃を向けようとしているそれが何なのか、深く考えもせずに命令を下す。
「かぐやは、朕のものぞ! 他にくれてなどやるものか!」
こうして。
迎えの来る日の晩。
翁の家、そして村の周囲には皇軍が物々しく展開し、姫は何時もの部屋ではなく奥の部屋へと隠された。
「……その様な罰当たりな事、今すぐお止め下さい!」
姫の叫びは一切聞き届けられる事なく。
やがて、その時が訪れた。
時折帝から送られてくる文。その何通かに一通、表現や単語を変えて送られてくる。
そして時を経るごとにその頻度は増していった。
勿論その度に断りを入れているのだが、帝はめげない。
だが、あまり宜しくない噂も耳に入るようになった。
帝が望んで娶った姫の具合が良くないらしい。
産後の肥立ちがどうとか聞きはしたが、こんな市井にまで降りてきたうわさ話など、尾ひれ背びれどころかあれこれ引っ付き過ぎて真実など分からない。
その真相を一番近くで聞いて知ってそうな人物は勿論帝なのだが、あえて聞いてみようとは思わない。
明らかに面倒な予感がするからだ。
時折、帝からではなくその件の姫から警告の文も送られてくる。
かつてから、よくある類の文だ。
それこそ昔の後宮と変わらない。月の宮とも変わらない。
だから、かぐやは華麗にそれを見てみぬふりでやり過ごしていた。
そして、その日が近付いたある晩。
かぐやは翁に告げた。
「近々、私の迎えが月より参ります」
……かつて大筒木の姫であった事までは言わない。
あくまで自分は月の都の住人で、いずれ帰らねばならないのだと告げた。
「それ故、婚姻を躊躇っておりました」
翁夫妻と別れるのは寂しいけれど。
月の都で流れる三年の月日はあっという間に過ぎ去ってしまうのに、この地上で暮らす三年はとても長く感じた。
早く、主様似迎えに来て欲しいと。
そう願う、待ち遠しい日々ももう後僅かで終わる。
「――お世話になりました」
だが。
その事実に納得できなかった者が居た。
「帝、帝! どうかお力をお貸し下さいませ! かぐやを嫁にやるならまだしも、訳の分からぬ場所へなどやりとう御座いません!」
翁は内裏に駆け込み、帝に助力を乞うた。
「帝! なりませぬ! あの姫は異界の者、我らが引き留めて良い者では御座いませぬ!」
それに対し、賀茂の姫も中臣の娘も即座に神門に忠告した。
……しかし、帝はかぐやが己の手の届かぬ場所へと離れていくのを黙って見ている選択は出来ず。
「至急、兵部省に使いを出せ! 我が自慢の軍勢にて、あやかし共など祓ってくれよう!」
己が刃を向けようとしているそれが何なのか、深く考えもせずに命令を下す。
「かぐやは、朕のものぞ! 他にくれてなどやるものか!」
こうして。
迎えの来る日の晩。
翁の家、そして村の周囲には皇軍が物々しく展開し、姫は何時もの部屋ではなく奥の部屋へと隠された。
「……その様な罰当たりな事、今すぐお止め下さい!」
姫の叫びは一切聞き届けられる事なく。
やがて、その時が訪れた。
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