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弐ノ巻

かぐやへの罰

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 頭を撫でてくれる主様の手は優しくて。

 「だけど、既に事は起きてしまった。……月の宮の主として、君に罰を与えなければならない。用事の一つはその通達を伝えに来たんだ」
 「……はい。覚悟は出来ております」

 私は、神の住まう宮の異物だった。
 既に半ば精霊と化した身でも、生まれながらの神や精霊からすれば半端者の身。
 そう言われて蔑まれてきた私が、こんな愚かな過ちを犯したのだから、厳しく処断されて当然で。

 主様にこんな風に優しくして貰えたのが信じられない。

 「三年。これから三年の間、君はこの地上で暮らすんだ。その間、月の都に戻ることは許さない」
 「……え?」

 ――驚いた。
 今この場でこの魂を黄泉へと送られるのすら覚悟していたというのに。
 そんな軽い罰で済むのか?

 「君がこの地上に降りた理由。勿論君の親族の子孫の事もあっただろうが、それだけじゃないだろう?」
 神らしく、この心の内を見通す様に主様は問うた。

 「君は精一杯努力していたと言うのにね。……努力もしない怠け者相手ならまだしも、君への女官達の態度は問題だった」
 そう言う主様の顔は、悲しげにかげっていた。

 「だから、月の宮では彼女たちにも罰を与えている」
 ……続いたその言葉に、今度こそ本当にかぐやは驚いた。

 「君への補佐もなく、君の努力を教育すら怠った身で物知らずと影で笑う。……君の失敗は、月の宮の失態でもある。そして、翁はともかく帝に関しては彼自身の罪もある。君への罰は、あくまで君の失態に対する正当な罰だよ」

 「――分かりました。謹んでお受け致します」

 「ああ、それと」
 頭を下げたかぐやに、一際イイ笑顔を浮かべた主様がすかさず次の用件を口にした。

 「かぐや、私にも一つ課題をくれないか?」
 「……はい?」
 「うん。かぐや、君は求婚してきた公達らに難題を申し付けていただろう? あれを、私にも挑戦させてくれないか?」
 「ええええぇ!?」

 あの五名に望んだ宝物は、生身の人間には難題であった。

 しかし、主様は三貴神の一柱である月読命。そんな主様ですら入手が困難な宝物って……何?

 というか、求婚を断りたいが為に考えた難題を、どうして主様が望むのか。

 「君の信頼を得るにはそれが一番確実で手っ取り早そうだからね。難題を達成できれば、君を妻に出来るのだろう?」

 「あ、主様はご存知でございましょう? 私は未亡人の身だと! かつては帝の妃で、実家に出戻り居場所の無かった私に大年神様が月の都で働く事を勧めてくれたのだと!」

 「何、神々の世界は人の世と違ってその辺り緩いから。流石に浮気症の嫁は御免だけど、君は夫に先立たれたと言うだけで、他の男は知らないだろう?」

 ……主様の姪の旦那は多妻で、本来の出雲の大元締めの役目の他に縁結びの神と云われた大国主大神である。

 ニコニコ笑う主に、かぐやは反論の言葉を失った。
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