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弐ノ巻
かぐやの正体は?
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あれは、ただの人では無い、と。
それ専門の血を濃く継ぐ者の忠言を、それが女からの忠言であったせいだろうか。
その忠言を自分でも気付かぬまま蔑ろにしていた事を、ことここに至ってようやく自覚する。
人が光る霞となり手に触れられぬ物になるなど聞いた事もない。が、狸や狐といった妖に化かされた話でなら頻繁に聞く珍しくもない話。
目の前の光を見れば、邪悪な妖怪変化の類ではなさそうだが、人でない事は明らかだった。
下位の精霊か……或いは神使の類か。土着の八百万の神か。
それで済むなら、自分は天照大御神の天子である。即座に詫びを入れ相応の供物と禊でまだこの失態を取繕えるやもしれない。
だが、それが名のある国津神に縁ある神々であれば?
そして、考えたくもないが天津神の――
「(いや、それ程高貴な方々がこの様な田舎の平民風情の小汚い屋敷に居るはずがない)」
帝は自らの過ちを過小評価したいがために、その恐ろしい考えを放り投げた。
しかし、たとえ精霊風情だとしても、無下に扱う事は許されない。
無体を働いての入内に関しては完全に諦める他なかった。
が、諦めきれない帝はかぐやに願った。
「……済まない。そなたのあまりの美しさに我を忘れてしまったようだ。無礼を詫び、そなたに入内を迫るのは諦めよう、だが、せめて文を送る事を許してはくれないか? そして、できれば返事を貰えると嬉しい」
……先程の、欲望全開の帝は恐ろしかったが、こうして見るとまだ少年の面影が完全には抜けきらない、まだ若い青年であると知れた。
「その位であれば……。ですが、いつまでもとはお約束できませんよ」
「今は、それで良い」
その約束に安堵した帝はかぐやからそっと離れる。
すると、かぐやはたちまち元の美しい姫の姿に戻り、部屋に明るさが戻る。
「翁よ、心労をかけて済まぬ。後で詫びの品を届けさせよう」
「いえ、勿体ないお言葉でございます」
「しかし翁よ、あの娘は……」
「はい、我ら夫婦の実子では御座いませぬ。ある日竹の中から見つけた姫。……竹の精霊様やもしれませぬ」
「そうか。……朕の言えた事ではないやもしれぬが、これ以上愚かな不埒者が現れぬ様布令を出しておこう」
「はっ、ありがたき幸せに御座います」
だが。
ことここに至っても、まだ帝は己の犯した罪の重さを軽く考えすぎていた。
その報いを受けるのは、まだ少し先の事。
「……ああ。どうして姉上の血を引く者にはああも愚かな者が多いのか。暴れん坊の弟の子孫らは思いの外真面目であると言うのに」
その様を見ていたとある神の怒りを買ったとは思いもせずに。
帝は共の者と都へと帰って行ったのだった。
それ専門の血を濃く継ぐ者の忠言を、それが女からの忠言であったせいだろうか。
その忠言を自分でも気付かぬまま蔑ろにしていた事を、ことここに至ってようやく自覚する。
人が光る霞となり手に触れられぬ物になるなど聞いた事もない。が、狸や狐といった妖に化かされた話でなら頻繁に聞く珍しくもない話。
目の前の光を見れば、邪悪な妖怪変化の類ではなさそうだが、人でない事は明らかだった。
下位の精霊か……或いは神使の類か。土着の八百万の神か。
それで済むなら、自分は天照大御神の天子である。即座に詫びを入れ相応の供物と禊でまだこの失態を取繕えるやもしれない。
だが、それが名のある国津神に縁ある神々であれば?
そして、考えたくもないが天津神の――
「(いや、それ程高貴な方々がこの様な田舎の平民風情の小汚い屋敷に居るはずがない)」
帝は自らの過ちを過小評価したいがために、その恐ろしい考えを放り投げた。
しかし、たとえ精霊風情だとしても、無下に扱う事は許されない。
無体を働いての入内に関しては完全に諦める他なかった。
が、諦めきれない帝はかぐやに願った。
「……済まない。そなたのあまりの美しさに我を忘れてしまったようだ。無礼を詫び、そなたに入内を迫るのは諦めよう、だが、せめて文を送る事を許してはくれないか? そして、できれば返事を貰えると嬉しい」
……先程の、欲望全開の帝は恐ろしかったが、こうして見るとまだ少年の面影が完全には抜けきらない、まだ若い青年であると知れた。
「その位であれば……。ですが、いつまでもとはお約束できませんよ」
「今は、それで良い」
その約束に安堵した帝はかぐやからそっと離れる。
すると、かぐやはたちまち元の美しい姫の姿に戻り、部屋に明るさが戻る。
「翁よ、心労をかけて済まぬ。後で詫びの品を届けさせよう」
「いえ、勿体ないお言葉でございます」
「しかし翁よ、あの娘は……」
「はい、我ら夫婦の実子では御座いませぬ。ある日竹の中から見つけた姫。……竹の精霊様やもしれませぬ」
「そうか。……朕の言えた事ではないやもしれぬが、これ以上愚かな不埒者が現れぬ様布令を出しておこう」
「はっ、ありがたき幸せに御座います」
だが。
ことここに至っても、まだ帝は己の犯した罪の重さを軽く考えすぎていた。
その報いを受けるのは、まだ少し先の事。
「……ああ。どうして姉上の血を引く者にはああも愚かな者が多いのか。暴れん坊の弟の子孫らは思いの外真面目であると言うのに」
その様を見ていたとある神の怒りを買ったとは思いもせずに。
帝は共の者と都へと帰って行ったのだった。
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