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弐ノ巻
勝者は……?
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「本日は、実にめでたい日に御座いますなぁ」
王は偽物を用意し。
右大臣は贋作を掴まされ。
大納言は宝物を取り逃がした上に病を患い。
筑紫総領は宝物どころか不浄な物を手にして大怪我。
結果、残ったのは自分、帝の覚え目出たき中納言の藤原の子。中臣の氏を持つ一族より別れた新たな氏族、その始祖たる者の息子。
……自分の用意した宝が偽物だと知るのは自分だけ。
心の中では高笑いの止まらない中納言であったが、既に自らの屋敷で散々笑い転げたせいで、実は今も腹が筋肉痛で痛むので、今この場でそれを表に出すのは必死に堪えているのだ。
「翁よ、今宵の事は分かっておるな? 姫の支度は万全にせよ。衣やらは後程、家の舎人に届けさせよう」
「……は、中納言様、それはこの我が家で行う、と? 多少綺麗には致しましたが、所詮平民の屋敷に御座います。かぐやとの別れは辛う御座いますが、これもかぐやの幸せの為。どうぞ中納言様のお屋敷にお連れ下さいませ」
翁は中納言に頭を下げた。
が――
「ふっ、何を言っておる? 平民の娘など、いくら美しかろうと都の藤原の屋敷に入れる訳が無かろう」
中納言は冷笑を翁へ向ける。
「北の方への説明も面倒である。しかしこれだけの美貌の女子より生まれる娘はさぞ美しかろう。それが藤原の子とあれば、例え庶子であろうと欲しがる者は多く居るであろうからな。政略結婚の駒として、存分に活用してやろう」
「な……っ!」
「ああ、娘ならともかく男子は要らん。お前の好きにすると良い。が、こちらの手を煩わせる様なら縊り殺してやるから、その旨重々承知の上で頼むぞ? まぁ、その美しさが陰らぬ程度の生活に困らぬ様、仕送りはしてやる。美しき衣も贈ろう。それで満足であろう?」
中納言はほくそ笑む。
「では、今夜を楽しみにしているぞえ」
「すまん、かぐや……。かぐやはこれを危惧しておったのじゃな。気づいてやれんかった翁を許しておくれ……」
「翁、都人の暮らしなどよく知らないでしょう? きらびやかな公達がお金持ちなのは確かです。だから、長くお金に困っていた翁が、お金に困らぬ暮らしを幸せと思うのも無理は御座いませんわ」
申し訳無いと無く翁を慰めている内に、夕日が山の向こうに沈み、代わりに月が夜空に昇る。
(主様、申し訳ありません。暫く戻れそうに御座いませんわ……)
かぐやは、寝所にて中納言の訪いを待つ。
(……大丈夫、初めての乙女でもあるまいし。それに気付いた彼か暴れ出さない限りは、我慢していればその内終わる)
御簾から差し込む優しい月光。
その凄絶な美しさは、やがて訪れた中納言が、思わず息を呑み言葉を失う程であった。
王は偽物を用意し。
右大臣は贋作を掴まされ。
大納言は宝物を取り逃がした上に病を患い。
筑紫総領は宝物どころか不浄な物を手にして大怪我。
結果、残ったのは自分、帝の覚え目出たき中納言の藤原の子。中臣の氏を持つ一族より別れた新たな氏族、その始祖たる者の息子。
……自分の用意した宝が偽物だと知るのは自分だけ。
心の中では高笑いの止まらない中納言であったが、既に自らの屋敷で散々笑い転げたせいで、実は今も腹が筋肉痛で痛むので、今この場でそれを表に出すのは必死に堪えているのだ。
「翁よ、今宵の事は分かっておるな? 姫の支度は万全にせよ。衣やらは後程、家の舎人に届けさせよう」
「……は、中納言様、それはこの我が家で行う、と? 多少綺麗には致しましたが、所詮平民の屋敷に御座います。かぐやとの別れは辛う御座いますが、これもかぐやの幸せの為。どうぞ中納言様のお屋敷にお連れ下さいませ」
翁は中納言に頭を下げた。
が――
「ふっ、何を言っておる? 平民の娘など、いくら美しかろうと都の藤原の屋敷に入れる訳が無かろう」
中納言は冷笑を翁へ向ける。
「北の方への説明も面倒である。しかしこれだけの美貌の女子より生まれる娘はさぞ美しかろう。それが藤原の子とあれば、例え庶子であろうと欲しがる者は多く居るであろうからな。政略結婚の駒として、存分に活用してやろう」
「な……っ!」
「ああ、娘ならともかく男子は要らん。お前の好きにすると良い。が、こちらの手を煩わせる様なら縊り殺してやるから、その旨重々承知の上で頼むぞ? まぁ、その美しさが陰らぬ程度の生活に困らぬ様、仕送りはしてやる。美しき衣も贈ろう。それで満足であろう?」
中納言はほくそ笑む。
「では、今夜を楽しみにしているぞえ」
「すまん、かぐや……。かぐやはこれを危惧しておったのじゃな。気づいてやれんかった翁を許しておくれ……」
「翁、都人の暮らしなどよく知らないでしょう? きらびやかな公達がお金持ちなのは確かです。だから、長くお金に困っていた翁が、お金に困らぬ暮らしを幸せと思うのも無理は御座いませんわ」
申し訳無いと無く翁を慰めている内に、夕日が山の向こうに沈み、代わりに月が夜空に昇る。
(主様、申し訳ありません。暫く戻れそうに御座いませんわ……)
かぐやは、寝所にて中納言の訪いを待つ。
(……大丈夫、初めての乙女でもあるまいし。それに気付いた彼か暴れ出さない限りは、我慢していればその内終わる)
御簾から差し込む優しい月光。
その凄絶な美しさは、やがて訪れた中納言が、思わず息を呑み言葉を失う程であった。
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