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弐ノ巻
宝物探し 〜 筑紫総領ノ巻 〜
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「……引き受けたは良いが……さて、どうするか」
かぐやの文を受け取った筑紫総領は困惑していた。
そもそも、だ。
“筑紫総領”と言う位は、“筑紫”と言う国を管理する、その最上位の位であるが、その筑紫というのは都より陸路にて長旅をした上に船で海を渡る必要がある。
船を降りれば一応は筑紫の地ではあるが、役場等がある場所までは、まだ数日は歩かねばならない。
この都からは遥か遠く、大陸からは蛮族が武器を持ってやって来る。……そんな土地に送り込まれて来る人間など政や貴族間の関係の中でヘマをやらかした者ばかり。
王から始まり右大臣に大納言に中納言と、大貴族ばかりが居並ぶ中で自分の位は一段低い。
しかし、姫の願いを叶えられれば彼らを出し抜き美しい姫を手に入れられる。
普段は筑紫等というド田舎に居る身だ、むしろ平民の娘位の方が逞しく、また高貴な姫ほど我儘は言わないかもしれない。
「……いや、しかし今回の難問は特大の我儘、と言えなくもないか」
しかし、だ。
「子安貝は、知っておる。筑紫にも、旅路の途中にも海はある。そう珍しい貝ではないのだが……」
それが燕の巣にある所を……少なくとも自分では見たことがなかった。
「これ、お前達」
屋敷の者、自分の付き人から果ては下働きの子供にまで聞いて回ったが、やはり見た事のある者は居なかった。
「だが、普段燕の巣はよく見かけても、普通は巣の中なぞ覗かんよなぁ……」
子安貝程度の大きさでは、例え巣にそれがあったとしても、雛をかき分け覗き込まなければ見付かるまい。
「だが、長き旅路よ。途中燕の巣なぞごまんと見付かろう。その中に一つ位は見つかるだろうて」
そう考えると、天竺やら大陸、果ては常世等とよく分からない場所に行く必要も、龍なんて恐ろしい相手と対峙する必要も無いこの宝物が自分に割り当てられた幸運に感謝するべきだろう。
「今度の旅には、背の高い者、木登りの上手い者を多く連れて行こう」
夏に出かけ、夏に戻る。一年がかりではあるが、燕は夏しか居ないのだから仕方あるまい。
……が。
道中、それこそ燕の巣は沢山あったものの、どれを覗いても雛や卵はあれど、子安貝など見当たらぬ。
「あ、いてててて! 止めろ!」
……巣を覗こうとした者が親鳥に突かれての流血沙汰も度々あったのに、骨折り損のくたびれ儲け。
都が近付くほど焦りは強くなる。
だが、まさか都に着いてから光明が見えるとは。
「あれは……!」
内裏の食事を賄う調理場の、その屋根にかけられた燕の巣。
雛はそろそろ巣立とうかという季節、たまたま空になった巣に白い物を見つけた筑紫総領は、逸る心のまま、屋根に梯子をかけ登っていく。
……が。
「あっ!」
子安貝らしき物にばかり注意が行って、足元が疎かになっていたのだろう、筑紫総領は、屋根から転げ落ちるように地面に腰を強打。
「いや、しかし燕の子安貝は手に入れ……」
ぎゅっと握りしめていた手にあったのは。
……干からびた、燕の排泄物だった。
筑紫総領は意気消沈してしまったが、どこぞの中納言がその噂を聞きつけ、思わず高笑いしそうになるのを我慢し続けたせいで、暫く腹の筋肉痛に悩まされた……らしい。
かぐやの文を受け取った筑紫総領は困惑していた。
そもそも、だ。
“筑紫総領”と言う位は、“筑紫”と言う国を管理する、その最上位の位であるが、その筑紫というのは都より陸路にて長旅をした上に船で海を渡る必要がある。
船を降りれば一応は筑紫の地ではあるが、役場等がある場所までは、まだ数日は歩かねばならない。
この都からは遥か遠く、大陸からは蛮族が武器を持ってやって来る。……そんな土地に送り込まれて来る人間など政や貴族間の関係の中でヘマをやらかした者ばかり。
王から始まり右大臣に大納言に中納言と、大貴族ばかりが居並ぶ中で自分の位は一段低い。
しかし、姫の願いを叶えられれば彼らを出し抜き美しい姫を手に入れられる。
普段は筑紫等というド田舎に居る身だ、むしろ平民の娘位の方が逞しく、また高貴な姫ほど我儘は言わないかもしれない。
「……いや、しかし今回の難問は特大の我儘、と言えなくもないか」
しかし、だ。
「子安貝は、知っておる。筑紫にも、旅路の途中にも海はある。そう珍しい貝ではないのだが……」
それが燕の巣にある所を……少なくとも自分では見たことがなかった。
「これ、お前達」
屋敷の者、自分の付き人から果ては下働きの子供にまで聞いて回ったが、やはり見た事のある者は居なかった。
「だが、普段燕の巣はよく見かけても、普通は巣の中なぞ覗かんよなぁ……」
子安貝程度の大きさでは、例え巣にそれがあったとしても、雛をかき分け覗き込まなければ見付かるまい。
「だが、長き旅路よ。途中燕の巣なぞごまんと見付かろう。その中に一つ位は見つかるだろうて」
そう考えると、天竺やら大陸、果ては常世等とよく分からない場所に行く必要も、龍なんて恐ろしい相手と対峙する必要も無いこの宝物が自分に割り当てられた幸運に感謝するべきだろう。
「今度の旅には、背の高い者、木登りの上手い者を多く連れて行こう」
夏に出かけ、夏に戻る。一年がかりではあるが、燕は夏しか居ないのだから仕方あるまい。
……が。
道中、それこそ燕の巣は沢山あったものの、どれを覗いても雛や卵はあれど、子安貝など見当たらぬ。
「あ、いてててて! 止めろ!」
……巣を覗こうとした者が親鳥に突かれての流血沙汰も度々あったのに、骨折り損のくたびれ儲け。
都が近付くほど焦りは強くなる。
だが、まさか都に着いてから光明が見えるとは。
「あれは……!」
内裏の食事を賄う調理場の、その屋根にかけられた燕の巣。
雛はそろそろ巣立とうかという季節、たまたま空になった巣に白い物を見つけた筑紫総領は、逸る心のまま、屋根に梯子をかけ登っていく。
……が。
「あっ!」
子安貝らしき物にばかり注意が行って、足元が疎かになっていたのだろう、筑紫総領は、屋根から転げ落ちるように地面に腰を強打。
「いや、しかし燕の子安貝は手に入れ……」
ぎゅっと握りしめていた手にあったのは。
……干からびた、燕の排泄物だった。
筑紫総領は意気消沈してしまったが、どこぞの中納言がその噂を聞きつけ、思わず高笑いしそうになるのを我慢し続けたせいで、暫く腹の筋肉痛に悩まされた……らしい。
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