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弐ノ巻
かぐやのお宝鑑定 ― 其の弐 ―
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美しく染めた布で包んだ衣。
“毛皮”の衣装なぞ農民以外に着ないもの。故に手入れは最小限に抑えたため、見た目は自身や中納言、そして彼らの随伴の物と比べても見劣りする上着が現れる。
が、この衣が宝物とされる所以は見た目ではない。
「翁、火の準備をお願いします」
「すぐに用意しよう」
かまど用の薪を一抱え、庭に置いて組み、火種に竹筒で息を吹き込み火を大きくする。
焚き火はすぐに用意が出来た。
ぱちぱちと火の粉の爆ぜる音がする勢いのある炎に、かぐやは“火鼠の皮衣”をぽいと投げ込んだ。
すると――
……形を保っていたのはほんの数秒の事。
ボッと服の裾に炎が灯り、焚き火の炎と一体と化してめらめらと燃え上がり、その端から炭となって燃え落ちる。
麻でも綿でも、燃え方に多少の差はあれどちらも火にくべれば似たような様相で燃えるだろう。
が、これは燃えないはずの“火鼠の衣”。
それが燃えた、と言う事は――
「ば、馬鹿な! 大金を叩いて依頼したのだぞ! あやつめ、まさか謀ったか!?」
右大臣は全身から血の気が引いていくのを自覚した。
逆に中納言の浮かべる笑みはより深くなった。
「……どうやら王の様に故意に偽物を持ち込んだ訳ではないご様子ですが、結果としては同じ事。探索の前段階までは人を使っても、取りに行く苦労は自ら追うべきだったのでは?」
「な、何を! 右大臣の仕事をそうそう放り出して行けるか!」
「ええ。……ですから、貴方は右大臣の位の方が姫より大切だったのでしょう?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!」
ほろりと、衣の全てが黒い灰となって崩れた所で、翁が火に水をかけて後始末をした。
「――お三方の宝物の内、仏の御石の鉢、そして火鼠の皮衣は偽物と判明致しました。……蓬莱の玉の枝は――偽物と、断定出来るだけの根拠を私は持ちませぬ。故に、残りのお二方のお戻りを待って、改めて答えを出しましょう」
「しかし姫よ、永遠に戻りを待つのも如何なものかと。せめて期限を切ってくださいませぬか?」
「……そうですね。では、皆様の元に文が届いた日に遡って数えて、そこから年の半分を期限と致しましょう」
「……良いでしょう。では、その日を楽しみにお待ち申し上げましょうぞ」
意気消沈した二人と、意気揚々とした一人が、それぞれ牛車に乗って都へ帰っていく。
「――かぐやや」
「……お約束したのです。条件を満たした方が居たのなら私はその方の所へ嫁ぎましょう」
それは、主様との約束を反故にすることになるけれど。
「やはりもっと早くに帰るべきだったのでしょうか……」
とは言え。
初めての床入りで、私の貞操が疑われたなら。……私だけで無く翁や婆様も罰せられるのでは?
かぐやの心配は尽きなかった。
“毛皮”の衣装なぞ農民以外に着ないもの。故に手入れは最小限に抑えたため、見た目は自身や中納言、そして彼らの随伴の物と比べても見劣りする上着が現れる。
が、この衣が宝物とされる所以は見た目ではない。
「翁、火の準備をお願いします」
「すぐに用意しよう」
かまど用の薪を一抱え、庭に置いて組み、火種に竹筒で息を吹き込み火を大きくする。
焚き火はすぐに用意が出来た。
ぱちぱちと火の粉の爆ぜる音がする勢いのある炎に、かぐやは“火鼠の皮衣”をぽいと投げ込んだ。
すると――
……形を保っていたのはほんの数秒の事。
ボッと服の裾に炎が灯り、焚き火の炎と一体と化してめらめらと燃え上がり、その端から炭となって燃え落ちる。
麻でも綿でも、燃え方に多少の差はあれどちらも火にくべれば似たような様相で燃えるだろう。
が、これは燃えないはずの“火鼠の衣”。
それが燃えた、と言う事は――
「ば、馬鹿な! 大金を叩いて依頼したのだぞ! あやつめ、まさか謀ったか!?」
右大臣は全身から血の気が引いていくのを自覚した。
逆に中納言の浮かべる笑みはより深くなった。
「……どうやら王の様に故意に偽物を持ち込んだ訳ではないご様子ですが、結果としては同じ事。探索の前段階までは人を使っても、取りに行く苦労は自ら追うべきだったのでは?」
「な、何を! 右大臣の仕事をそうそう放り出して行けるか!」
「ええ。……ですから、貴方は右大臣の位の方が姫より大切だったのでしょう?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!」
ほろりと、衣の全てが黒い灰となって崩れた所で、翁が火に水をかけて後始末をした。
「――お三方の宝物の内、仏の御石の鉢、そして火鼠の皮衣は偽物と判明致しました。……蓬莱の玉の枝は――偽物と、断定出来るだけの根拠を私は持ちませぬ。故に、残りのお二方のお戻りを待って、改めて答えを出しましょう」
「しかし姫よ、永遠に戻りを待つのも如何なものかと。せめて期限を切ってくださいませぬか?」
「……そうですね。では、皆様の元に文が届いた日に遡って数えて、そこから年の半分を期限と致しましょう」
「……良いでしょう。では、その日を楽しみにお待ち申し上げましょうぞ」
意気消沈した二人と、意気揚々とした一人が、それぞれ牛車に乗って都へ帰っていく。
「――かぐやや」
「……お約束したのです。条件を満たした方が居たのなら私はその方の所へ嫁ぎましょう」
それは、主様との約束を反故にすることになるけれど。
「やはりもっと早くに帰るべきだったのでしょうか……」
とは言え。
初めての床入りで、私の貞操が疑われたなら。……私だけで無く翁や婆様も罰せられるのでは?
かぐやの心配は尽きなかった。
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