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壱ノ巻

裳着と名付けの儀式

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 たったの三ヶ月。

 通常らなば七つまでは神の内と言われ、大抵が十かそこらで行うはずの裳着――女の童の成人を祝う儀を、翁夫妻は盛大に催した。

 通常の人ではあり得ぬ早さで成長したかぐやに袍を着せ、美しい黒髪を結う。
 そして、平民であれば滅多に行う事の無い名付けを、由緒正しき神祇の官を預かる忌部家の名を持つ神官に願った。

 ――人ならざる者達を視る特別な目を持ち。
 神々によく仕え、悪しき物の怪もののけを祓う術を携えやって来た、秋田と言う名の術者は、彼女を一目見て思わず息を呑んだ。

 「なよ竹のかぐや姫」

 これは、偶然であるのか必然であるのか。

 かつての名、大筒木おおつつきかぐやの名を思わせる名を付け、彼は去って行った。

 「おお、かぐや姫や。良い名をいただいたのう」

 これまであまり公にして来なかった私を見せびらかすかの様に、三日三晩の宴に村の者を呼び集め、ご馳走を食べ、話に花を咲かせ。

 お上品に、おしとやかに御簾みすの中から優雅に眺める楽器の演奏や舞も悪くはないのだけれど。
 こうして騒ぐのがとても楽しい事なのだと初めて知った。

 長く生きてきたけれど、こうして初めて知る事が多く、日々を新鮮に感じる。

 「なんと、これ程に美しい姫をどうやって隠していたんだ」
 「これは、村の若造程度じゃ手に負えねぇな。むしろ都から金持ちの商人が噂を聞きつけてやって来るんじゃないか?」

 「ふん。そこいらの男になんぞやるもんかい。……しかし、ワシも家内もいつお迎えが来ても良い歳じゃ。良いご縁があれば良いがのう……」

 しかし、翁の心配は杞憂――どころか、名付けをした秋田が触れまわった噂や、村人達から回った評判を聞きつけて、多くの人々がかぐやを一目見ようと、そしてあわよくば我が物にせんと村を訪れ、翁の家を尋ねた。

 庭の縁側に居ると、生け垣の外から覗く男達の目に晒されてしまう。

 「こりゃ! 覗き見なんぞはしたない! 欲しいのならば正々堂々と文でも送るが良い、自信があるならの!」

 日に何度も翁が竹を削って作った即席の武器で男達を追い払うのだが、どこからかまたわらわらと、それこそ雨後の筍の様に出て来るのでキリが無い。

 「筍なら美味しく食べられるのに……」
 「かぐや、今日のおかずは焼き筍じゃよ。味噌を付けて食うと美味いんじゃよ、これが」

 「うむ。あの様な有象無象に大事なかぐやはやらんぞ!」

 そう豪語していた翁。
 ――しかし、都まで届いた噂を聞きつけてやって来た公達に、翁が飛び上がって喜ぶとは……この時のかぐやは知る由もなく。
 美味しく筍をいただくのであった。
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